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(87) ウサギのハンカチ
雨の土曜日、マイはママと都心へ出かけました。八王子駅で人波に押されて乗りこみ、どうにか座れて、すぐに電車は動き出しました。
ふと見ると、バスケットの持ち手がからっぽです。
「ハンカチがない!」
マイは悲鳴を上げて、まわりを探しました。真っ赤な地に、白ウサギがとんでいて、お出かけ用のバスケットに結ぶと、くっきりと映えていたのに。
「リエちゃんと、おそろいで買ったのに・・」
「戸口でもまれて、落ちたのね」
![IMG_20210926_0012ウサギのハンカチ](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/65738048/picture_pc_851eb232a024b5869e1bac11c8766627.jpg?width=1200)
ママはあきらめなさい、の口ぶりです。マイは半泣きになりました。リエちゃんが、がっかりするもの・・。
「帰りに、駅の落としもの係できいてみましょ。いいでしょ」
ママに説得されて、やっとマイは窓によりかかりました。
すると、目の前に立っていた、知らないおねえさんに気づきました。目が合うと、その人はにこっとして、窓の外を見やりました。バッグを肩にかけ、片手をつりかわに、もう片手は、かさを床に立てています。
マイとママの話をきいてたんだ! マイはきまりが悪くて、うつむきました。
その人は、3つ目の駅でおおぜいといっしょに、おりて行きました。
ドアがしまりかけたとき、さけび声がして、その人がドアをこじあけるようにして、かけもどってきました。
「あなたのだいじなハンカチが、わたしのかさの中に・・」
息をはずませて、その人はにっこり、ウサギのハンカチをマイにさしだしました。マイは受け取ると泣きそうになって、何も言えず頭をちょっと下げました。そして、その人に見守られながら、バスケットにハンカチを結び戻しました。
次の駅で、その人はマイに笑顔を残して、電車を降りて行ったのでした。