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(236) 橋問答
今熊行きのバスが萩原橋にかかると、運転手の浜さんの耳に、高校生たちの話し声が聞こえてきました。
「あの新しい橋げた、どうするのかな」
「次の橋ができるに決まってら」
笑い声が起きると同時に、バスは左に傾きました。生徒たちが窓にいっせいに群がり、古い橋と並んでいる、完成間近の橋げたをのぞいているのです。
浜さんはニヤニヤして、聞き耳を立てました。近頃よく、背後の座席から 聞こえてくる〈橋問答〉が始まるはずでした。浜さん自身、萩原橋の脇に 見える5つの橋げたが、これからどう新橋になっていくのか、気になっていました。
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「あれは仮の橋に決まってるさ。こっちの橋を作り直すのさ」
「違うよ、あっちの橋げたの方に、橋ができるんだよ。がっちりしてるし」
「それだと、道が曲がっちまうぜ」
「道幅を広げて、両岸の家を立ち退かせるさ」
すると甲高い声が、わりこみました。
「あの橋げたは動かせるんだよ。夜の間に、通行止めにしてさ。古い橋を壊して、クレーンであの橋げたを吊り上げて、どうんと移動させてさ。その上に新しい橋を作るんだ。これだね、ぜったい」
「ばか、ひと晩でできるわけないだろ。その間、おれたちどうやって学校へ行くんだ。バスも通れないぜ」
浜さんは肩を奮わせました。まさに、誰にとっても、なぞの橋造りでした。
説明してくれる橋職人が乗ってくれないものか、と思ってしまいます。
いずれにしても、なぞはまもなく解けるはずです。と同時に、古い橋は姿を消すことになるのです。