歯髄の再生療法
そもそも「再生医療」ってなに?
再生医療とは、「機能障害や機能不全に陥った生体組織・臓器に対して、細胞を積極的に利用して、その機能の再生をはかるもの」(日本再生医療学会)とされ、病気や事故、老化などによって失われた組織や臓器の働きを特殊な細胞(幹細胞)や幹細胞由来の組織などを用いて修復・再生させ、再度機能できるようにすることを目的としたものです。
近年ではこの幹細胞を用いた再生医療で、脳梗塞により損傷を受けた患者さんの脳の機能を修復・再生させたり、交通事故で傷ついた脊髄の機能を修復・再生させたりするなど、これまでは治療が困難、あるいは効果的な治療法が存在しないと言われてきた疾患が克服できるようになってきています。
2007年に山中伸弥先生らによる「iPS細胞」が世界で初めて確立・報告されてから、幹細胞を用いた再生医療の研究が急速に進められています。日本でも2014年に「再生医療等安全性確保法」および「医療品医療機器等法」が施行されて、再生医療を成長産業の一つと位置づけ、産官学の協力体制のもと、世界に先駆けて再生医療等製品を実用化する動きが急加速しています。
なぜ「歯髄の再生」なのか?
現在,日本で歯を失う原因は歯根破折を含めたう蝕によるものが約半数を占めています。歯の神経(歯髄)を除去した歯(無髄歯)が抜歯にいたる割合はなんと全体の約60%を占め,歯髄を除去すると歯を失う可能性が増加します。
これは、歯髄の兼ね備えた機能である免疫防御反応,栄養供給、感染(う蝕)に対する抵抗力,知覚などが失われてしまうことによります。初回の根管治療(抜髄)の治療成績は,一般の開業歯科医師がおこなっても90%以上と報告されていますが、再治療(再根管治療)を重ねるにつれ治療成績は悪化する(60%まで低下)と言われています。特に、再根管治療の予後不良の原因の多くは歯根破折といわれています。
つまり、歯髄を除去する(抜髄)すると最終的に抜歯にいたる可能性が一気に増加することになります。
なので「歯内療法専門医」は、歯の神経(歯髄)を取らずに残す「生活歯髄療法」を何よりもファーストに考えます。しかし、さまざまな理由で歯髄を除去しないといけなくなったら、できるかぎりこの「初回の根管治療」を無菌的に注意深くおこない、絶対に再治療(再根管治療)にさせないことに頭の中を切り替えますが、もし、「歯髄の再生療法」が治療として確立・普及すれば、「生活歯髄療法」と「歯髄再生療法」の2枚看板で患者さまの「歯の寿命」を延ばすことができるのです!
歯髄の幹細胞はすごい!
私たちの身体には組織特異的なさまざまな幹細胞が存在しているのですが、近年、歯髄の中に存在する幹細胞(歯髄幹細胞)には再生医療に適した、さまざまな特性を有していることが分かってきています。
①活発に増殖する能力(自己複製能)を有していること
②複数の細胞に変化できる能力(多分化能)を有していること
③腫瘍化・がん化する可能性は極めて低く、安全性が高いこと
④年齢や性別を問わず、不要になった患者さんの歯から採取できること
実は、歯髄を取らずに残す「生活歯髄療法」もこの「歯髄幹細胞」の働きのおかげなんです!
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