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Q 私は、誰が誹謗中傷の投稿を行ったのか分かっていますが、投稿者に請求しても素直に削除するとは思えません。こうした場合、ウェブサイトの管理者に対して削除を請求することができますか?

A ウェブサイトの管理者に対する削除請求は認められない可能性があります。

解説いたします!

1 1つ目の考え方
これについては、いろいろな考え方があります。1つ目は、Q記載のとおり、投稿を行った本人に記事の削除を請求しても実効性が低いことからすれば、投稿者が誰であるかが分かっていても、ウェブサイトの管理者に対して削除を求めることができる、という考え方です。私自身は、この考え方に賛成しています。

しかしながら、近時、こうした場合には投稿者に対して削除を求めるべきであって、ウェブサイトの管理者に対して削除を求めることはできない、とする裁判例があります。

2 2つ目の考え方
東京地裁令和5年9月26日(令5(ヨ)1878号)は、被害者が、インターネット上の動画投稿サイトで誹謗中傷が行われたとして、同サイトの管理会社に対して記事の削除請求を行ったものの、動画の内容等からして、誰が投稿したのか特定されていたという事案です。

裁判所は、「●●●の投稿動画は、技術的に投稿者自身が当該動画を削除することができる仕組みになっていることが一応認められるところ、このような状況においては、本来、投稿記事の削除の可否等については、投稿者との間で解決されるべき事柄であるといえ、投稿者が自らの表現行為の適法性について何らの反論の機会を与えられることなく投稿記事が削除されることは、投稿者の表現の自由や手続保障の観点から相当でない。また、投稿動画の削除請求権の存否を判断するに当たっては、当該動画の対象とされた者の社会的評価等の低下の有無及びその程度並びにいわゆる真実性等の違法性阻却事由の有無を検討する必要があるところ、債務者のようなコンテンツプロバイダとしての業者においては、通常、これらの点について実質的に意味のある反論、反証を行うことができない。
 このような点に鑑みると、上記のとおり、投稿者において自らの投稿動画の削除が技術的に可能であり、かつ、上記(1)のとおり、本件動画の投稿者が●●●であると特定されている状況下においては、投稿動画の削除請求は、第一次的に当該投稿者である●●●に対して行うべきであって、コンテンツプロバイダである債務者に対してされた本件申立ては、少なくとも、保全の必要性を欠くといわざるを得ない。」と判示して、サイト管理会社に対する請求を否定しました。

そのため、投稿者が分かっているという場合には、ウェブサイトの管理者に対して削除を請求することができない可能性があります。

3 「もしかしたらあの人かも・・・?」という程度でもウェブサイトの管理者に請求できないのか?

それでは、被害者が、「もしかしたらあの人かも・・・?」と考えている程度であっても、ウェブサイトの管理者ではなく、その者に対して直接削除請求をしなければならないのでしょうか?

このような場合、投稿者と思われる人物に削除を請求したとしても、自身は投稿者ではなく削除義務を負わないと弁明される可能性があります。他方で、こうした弁明に備えて、まず発信者情報開示請求を行って投稿者であることを確定させなければならないとすると、その間に投稿が公開され続け、被害が拡大してしまいます。

こうしたことを考えると、上記の、「もしかしたら・・・」という程度の場合にまで、その者に対して直接削除請求をしなければならないとするのは、被害者にとってあまりに酷であると思います。

上記判決も、こうしたことを考慮したのか、投稿者に対して直接削除請求をしなければならないという規範を定立するに際して、「上記(1)のとおり、本件動画の投稿者が●●●であると特定されている状況下においては、」という留保をつけています。

そのため、上記判決の射程が及ぶのは、諸般の事情を総合考慮したときに、特定の人物であろうと合理的に推定されるような場合であり、「もしかしたら・・・」という程度の場合にはサイト管理者に対する削除請求が許されるのではないかと考えています。

そして、インターネット上の誹謗中傷は、匿名で行われることがほとんどですから、諸般の事情を総合考慮したときに特定の人物であろうと合理的に推定されるような場合というのは、実際にはそこまで多くないのではないかと思います。

4 まとめ
以上をまとめますと、以下のような整理になるかと思います。

① 投稿者が分からない場合:ウェブサイトの管理者に請求できる
② 投稿者が思い浮かぶものの、「もしかしたらあの人かも・・・」という程度の場合:ウェブサイトの管理者に請求できる
③ 諸般の事情から投稿者が特定されているといえる場合:ウェブサイトの管理者には請求できず、投稿者(と思われる人物)に請求しなければならない

そのため、Qに対する回答としては、投稿者の特定が③の程度にまで至っている場合には、ウェブサイトの管理者には請求できない可能性がある、ということになります。

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