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迷ったら確認! IT契約書の印紙判別チャート(2号・7号編)
この記事の内容
IT企業の契約書を見初めて7年、そのうち3年の社内弁護士期間に特に多かったのが、契約書に貼る印紙についての質問です。
「明治時代に出来た法律に、ここ数十年で出来た契約類型を当てはめるのがそもそも無理じゃないかな」と思ったり、「全て電子契約にな〜れ✨」と願ってもなくならないこの問題。
今回は、ラスボス(請負か準委任か)の前に、請負とわかった後に悩むことになる、2号(請負)と7号(継続的取引の基本となる契約)の見分け方を解説します!
*もし、この記事の内容が役立ったという方で、チャートPDFが欲しい!という方がいらっしゃったら、Twitterで引用RTのうえ、チャートが欲しいとお知らせください。DMにて、送付させていただきます!
注意!
この記事は、私がこれまでのIT契約書レビューの経験に基づいて、なるべく一般的に記載していますが、実際に、契約書記載の取引が、請負契約に該当するのか、該当するとして、2号文書になるのか、7号文書に該当するのかは、最終的には問題となっている契約書を読んでみないとわかりません。
ですので、もし迷ったら、実際の契約書をもとに、お近くの専門家に相談されることをお勧めします。税務署でも相談に乗ってくれるそうですし、もちろん私自身でもチェックは可能です。
印紙税法とは
この記事を読む方は既にご存知のことかと思いますが、一定の類型の契約書には、印紙を貼らないといけないとされています。
これはもう少し丁寧にいうと、印紙税法が定める第1号から第20号までの課税文書に該当した場合には、当該定めに従って課税された金額を収入印紙を貼って消印するという形で納税、ということになります。ちなみに、2部作れば、2部どちらにも印紙を貼る必要があります。それぞれの当事者が自分の保存する契約書に印紙を貼るというのが多い印象です。
印「紙」なので、最初から電子データで作成されていれば、課税文書に該当しないことになります。電子契約導入のメリットの1つですね。
ちなみに、
第2号文書とは、請負に関する契約書を言います。
第7号文書とは、以下の条件を全て満たす契約書になります。
(1)営業者の間における契約であること
(2)売買、売買の委託、運送、運送取扱い又は請負のいずれかの取引に関する契約であること
(3)2以上の取引を継続して行うための契約であること
(4)2以上の取引に共通して適用される取引条件のうち目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法又は再販売価格のうちの1以上の事項を定める契約であること
(5)電気又はガスの供給に関する契約でないこと
今回は、7号の要件のうち、(3)の要件について主に検討し、それ以外の4つを満たすことを前提としています。
例えば、請負に関する継続的な契約の場合でも、(4)の項目を1つも書かない場合、7号の要件を満たさないことになります。
知っておくと良い優先関係
印紙の有無が問題になっている取引が、「請負契約」に該当するかどうかというのが、実はIT関係の契約書において最もわかりづらいラスボスと言えるかもしれません。しかし、その後にも、「2号・7号どっちなの?」問題が待ち構えています。
その時に知っておくと良いのが、①契約内容によっては、1つの契約書が、2号と7号のどちらにも該当しうる、ということと、②2号と7号には優先順位があり、2号が優先する、ということです。どのような場合に2号が優先適用されるかは以下のチャートの説明で述べます。
分岐① 1つの仕事か、2つ以上の仕事か
今回は、問題になっている契約形態が、「請負」に該当することを前提としています。
請負に該当せず、「準委任」と言える時には、2号にも該当しませんし、7号にも該当しないので、印紙は不要です。
(恥ずかしながら、継続的な契約の場合には、準委任でも印紙が必要ではないか?と迷ったことが私にはありました笑。)
さて、請負契約であることがわかったら、次にチェックすべきは、対象となる取引が1つなのか複数なのかです。もし、1つの仕事完成を目的とする場合には、まさに2号文書の典型例であるので、原則的には2号文書に該当することになります。
「1つ」とは、例えば1つのシステム開発のような場合を指します。
「複数」とは国税庁のHPによると、
「「2以上の取引」とは、契約の目的となる取引が2回以上継続して行われることをいいます(基通別表第一第7号文書の4)。」
を言います。システム保守契約を例にすると、通常の保守契約は、ログの監視だけでなく、障害対応や、場合によってはバグの修正などの複数の種類の作業を、契約期間中に反復継続して行う場合が典型例です。
今回のチャートでは、「1つの仕事完成」を目的としている場合には、A=分岐②に、「2つ以上の仕事完成」を目的としている場合にはB=分岐③に進むことになります。
分岐②「1つの仕事完成」を目的とする場合の印紙税決定
「1つの仕事完成」を目的とする場合、さらに当該契約書に契約金額の記載があれば(A)、原則通り、2号文書確定です!
ここでの注意点は以下のような記載でも、契約期間中の金額は決定していると判断されるので、2号文書となるということです。あくまで、期間が繰り返されるだけ、という判断ですね。
第◯条(委託料)
本件業務の委託料は、月額5万円とする。
第◯条(契約期間)
本契約の契約期間は3ヶ月とする。ただし、契約期間満了の1ヶ月前までに、双方いずれからも更新を拒絶する通知がない場合は、更に3ヶ月延長するものとする。
1つの仕事完成の場合でも、金額の定めがない基本契約で、今後複数契約が個別に締結されることが想定される場合(B)は、7号文書となります。
分岐③ 「2つ以上の仕事完成」を目的とする場合の印紙税決定
2つ以上の仕事完成が予定されている場合でも、金額の記載がある場合(Aその1)、2号が優先して適用されるので、2号文書となります。下記のような場合でも、金額の記載あり、に分類されるのは、分岐②の場合と同様です。
第◯条(委託料)
本件業務の委託料は、月額5万円とする。
第◯条(契約期間)
本契約の契約期間は3ヶ月とする。ただし、契約期間満了の1ヶ月前までに、双方いずれからも更新を拒絶する通知がない場合は、更に3ヶ月延長するものとする。
この場合で注意なのは、契約期間が3ヶ月以内で、かつ更新の定めがない場合(Aその2)には、そもそも7号文書に該当しないので、2号文書となる、ということです。
上記2つ以外の場合には、7号文書ということなります。
チャートでもわからなかったときはどうすれば良いか。
今回は、IT契約を中心にみている私の経験と、国税HPやその他の書籍を元にチャートを作成しました。少しでも2号と7号の判別に役立てれば幸いです。それでも、「この場合はどうなのだろう?」という場合がどうしても出てくると思います。
社内であれば、法務担当者や、経理の方に聞くのが早いと思いますし、顧問弁護士にサッと聞ける感じであれば、それが良いと思います。
近くにサクッときける法務・経理担当や弁護士がいないときは、会社を管轄する税務署に電話で問い合わせるのも、有効な方法です。実際私も、社内弁護士だった時には、何回か問い合わせましたし、今もどうしても悩んだら、電話して聞くこともあります。
冒頭でも書きましたが、実際の分類は、「契約書の書き方」によって決まるので、当事者が思っていたことと契約書の文言が違えば、契約書にどう書いてあるかが優先されるのが、怖いところです。
私でも、ご相談に乗れるかと思いますので、聞くところがないよ〜という方は、お声がけください。
おまけ
「印紙税の専門家」って、誰なのでしょうか?弁護士?税理士?
私が社内で法務として働いていた時には、契約書のレビューのついでに、印紙について聞かれることがありました。
しかし、最初に聞かれた時、非常に焦りました。法科大学院でも、司法試験でも、印紙税のことなんて1度も考えたことがなかったからです笑。
その際の、今回も、印紙税についての書籍を探しましたが、弁護士が書いた印紙税の本は見当たりませんでした。おそらく、税理士の方々がこの分野、一番詳しいと思われます(異論は認めます笑)。
しかし、印紙について悩むのは、大体契約締結時ですし、その際に質問したくなる先は、法務の方か弁護士なのでは?と思います。ということで、私自身は弁護士として、引き続き印紙税のわかりやすい切り分け方法は研究していこうと思っています。
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