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小屋に出会う6「ヴァナキュラー建築と小屋」

こんにちは。
小屋に魅せられて、小屋の魅力について書いています。
「なにが面白いの?」と思われるかもしれませんが、
もしよろしければ、しばしお立ち寄りください。
前回は淡路島のタマネギ小屋について書きました。
今回はちょっと真面目なお話です。

ヴァナキュラーってなに?

「ヴァナキュラー=vernacular」とは聞きなれない言葉ですが、「方言の」とか「その土地固有の」といった意味です。

建築に当てはめると「誰が設計施工したかわからないけど、その土地で手に入る建材で、その土地の風土に合うように建てられた、理に適った建物」になります。
もう少し噛み砕くと、地元の大工さんが昔から伝わる工法で建てた民家などのことで、今は世界遺産に登録されてすっかり有名になってしまいましたが、白川郷の合掌造りの民家を思い浮かべれば分かりやすいでしょうか。

下の写真は岩手県奥州市で車を走らせているときに出会った民家です。私は左手前のトタン屋根の小屋を撮ったのですが、奥の建物は屋根の形が特徴的で美しい佇まいです。
これもまた日本のヴァナキュラー建築ですね。

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建築の世界では有名な建築家や新進気鋭の建築家が設計する建物が話題の中心にあります。それは今も昔もこれからも変わらないと思います。例えば、安藤忠雄や隈研吾、フランク・ロイド・ライトにザハ・ハディッドなどの建築家の名前は、皆さんも一度は耳にしたことのあるのではないでしょうか。最近では東京オリンピック開催で新築された新国立競技場のように象徴的な巨大建築物が建つと建築家の名前も一般のニュースで取り上げられます。建築というのは巨額が注ぎ込まれるということもあり、それだけ経済的、社会的、文化的な(時には政治的にも)関心が高いことの現れでしょう。

ところで今から60年近く前のことになりますが、1964年にアメリカの建築家B・ルドフスキーが、こうした従来の建築史の中では顧みられることのなかった「無名の人たちによる、無名の人たちのための建築」に注目し、世界各地の在来工法で建てられた住居をテーマにニューヨークの近代美術館で展覧会を開催しました。
これがヴァナキュラー建築の考え方の出発点と言われています。
このときルドフスキーは「Architecture without architects」という本も出版しています(日本では鹿島出版会が「建築家なしの建築」(渡辺武信/訳)として出版)。この中で、気候に合わせて、その場で手に入る材料で工夫しながら建てた世界各地の建築物の実例を、簡単な解説文と豊富な図解や写真(白黒でちょっと粗くはありますが)とともに紹介しています。建築の専門知識がなくてもさらっと読めますので、さらに深く知りたいという方はぜひ手にとってみてください。

小屋もヴァナキュラー建築

さて、現在ではトタン板などの工業製品が多用されていますが、小屋もまたヴァナキュラー建築のひとつの例だと、私は考えています。
地域に根ざした職人の体の中には、地元の気候や風土が無意識のうちに刷り込まれているはずです。
たとえ小屋であっても、その土地固有の職人の知見と技が入り込んでいても不思議ではないでしょう。

こちらは山梨県上野原市で出会ったのですが、とても簡素な小屋です。

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梁と柱の部分を拡大してみます。

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梁と柱を針金で巻きつけて固定しているだけで、木材に加工を加えていません。斜めに方杖もいれて補強しています。
さすがにトタンと屋根板は釘で打ち付けてあるでしょうが、柱や梁は不要になったらいつでもバラして他に使い回しができる状態です。

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柱はというと地面にただ乗せてあるだけで、脇で添え木が支えてくれています。

人間が自然から身を守るために住居を持ち始めた頃のような、とても原初的な建物でありながら、基本は全ておさえています。私が建築については全くの素人だからかもしれませんが、見ていて楽しい小屋です。

建物の全体や細部からその土地の固有性を読み取ったり、人々の生活の知恵と温もり、歴史を感じ取ったりするのも、小屋の楽しみ方のひとつです。

建築というと難解なイメージが付きまといますが、ここではひとまず横に置いておきましょう。冒頭に申し上げたとおりヴァナキュラーとは「方言」のことです。小屋や民家を「おらの地方では・・・」とか「ワシんとこは・・・」などと話してくれる土地の語り部だと思って眺めてみてください。
豪雪地帯では、台風がよく通る地域では、海沿いでは、内陸では、などなど、建物が方言を語り出して、あなたの耳に届くかもしれませんよ。
                                2019.12.03



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