無垢で、嘘に塗れた非日常 (水曜日/密室 - People in the Box)
ラブホテル、梅田のcoco。2人ベットに寝転んでいた。2階だったと思う。チェーンスモーキングを彼にとめられて、ふと現実に目をやる。
“少年少女迷いの庭で天国夢見る”
君といられるならばどこだって愛すべき地獄だと思った。わたしのスマホから垂れ流していたプレイリストが、水曜日/密室を流す。
「この曲いいよねー、懐かしいな」と少し興奮しながら君は言った。
わたしは、君だけに愛でられる密室の蝶となって、君の隣だけで息をして、羽ばたき、舞っていたかった。
古びた部屋の汚いベッド、ふたりの余白に余ったシーツ、
大都会大阪なんて嘘だ。あの街にはまだ温かさが残る その温かさがわたしを苦しませてくれる。
そう、僕らは楽しすぎた。だから今こうして、何もできずにいる。2人この部屋で、必死に生活から逃避している。逃げて、逃げて行き着く先はどこなのか。怖くて前を見ることができない。今から会計を済ませて外に出れば、冬の東梅田、冷たい空気ときつい視線に備えなければならない。
“赤いミルク 白い血 いつか結婚しようね”
深夜、何もない街で、京都出町柳で、このフレーズを口ずさんで、君を思って何度も泣いた
結婚したかった。否、結婚しなくてもいい。結婚なんてしたくない。そばにいられれば、それでよかったのかもしれない。
同じ空間を生きて、隣で眠れるなら、どれだけ幸せだったのだろう。今でも君とわたしは、同じ令和を、狭い関西で生き抜いている。
密室の蝶のようなわたしの祈りは、何一つとして叶わなかった。
“僕らは楽しすぎたから戻れなくなった”
密室の蝶は、羽を休めることなく羽ばたき続ける。誰もいない密室で。
ただひとりで、君を睨みつけている。