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NPO発世界の起業家ネットワークへの「マイクロ投資」

"ベンチャー・キャピタリスト──世界を動かす最強の「キングメーカー」たち"(著:後藤直義/フィル・ウィックハム、監修:Sozo Ventures)内、エンデバー・カタリストについての内容の要約記事となります。


はじめに

エンデバーは、世界最大級の起業家支援ネットワークを運営し、その活動の一環として2012年にエンデバー・カタリストというルールベースの投資ファンドを立ち上げました。この部門は、新興市場のスタートアップに少額の「相乗り投資」を行い、大きな社会的・経済的インパクトを生み出しています。今回は、エンデバー・カタリストの投資モデル、その独自性、そしてその影響力について、具体的な事例を交えてご紹介します。

エンデバーの創設と理念

エンデバーは、1997年にリンダ・ロッテンバーグが設立した非営利団体です。リンダは、起業家という概念が普及していない地域においても、新しいビジネスを創出することが可能であると信じ、各国の有力経営者を巻き込みながら、起業家を支援するネットワークを築いてきました。

エンデバーの理念は、リスクを恐れずに新しいことに挑戦する起業家を支援し、彼らの成功を通じて地域経済の発展を促進することです。これまでに世界中で2,500社以上のスタートアップを支援し、成功した起業家たちが次世代の起業家をサポートするというエコシステムを確立しています。

投資モデルの独自性とその意義

相乗り投資モデルとは

エンデバー・カタリストの投資モデルは、VC業界でも類を見ないユニークなもので、「相乗り投資」として知られています。このモデルでは、エンデバーが支援するスタートアップが一定の成長を見せ、他の投資家やVCが主導する500万ドル以上のラウンドにおいて、最大10%を共同投資しています。

• 少額投資の意義: エンデバー・カタリストは、投資先企業の株式を最大で2%しか保有せず、資金調達ラウンドの10%以上は出資しないことをポリシーとしています。これにより、投資先の企業文化や経営方針に干渉せず、起業家の自由な経営を尊重します。

• 利益の再投資: エンデバー・カタリストは、ファンドを運営するための管理手数料をゼロに設定する一方で、仮に利益が出た場合、その50%を母体であるエンデバー本体に還元する仕組みをとることで、持続可能な成長を実現しています。これにより、より多くのスタートアップを支援するためのリソースを確保しています。

• フェアな投資アプローチ: エンデバー・カタリストは、全ての支援先スタートアップに公平なチャンスを提供することを重視しています。このフェアな投資アプローチにより、支援を受けた起業家たちから高い信頼を得ています。

投資モデルの背景

この投資モデルが生まれた背景には、従来のベンチャーキャピタル(VC)への不信感がありました。1990年代後半から2000年代初頭にかけて、VCは企業の株式を多く保有し、CEOを交代させるなど経営に干渉することが多く、起業家たちにとっては脅威と捉えられていました。そんな中、これまで支援してきたエンデバー起業家から「エンデバーが投資をしてくれていたら・・」というフィードバックを受け始めたことで、どうやったら非営利団体がスタートアップ投資を正当化できるのか、議論を重ねていきました。

そこで2012年に生まれたのが、エンデバー・カタリストのベータ版となる「エンデバー・ファンド・フィランソロフィー」でした。これは先に述べた、少額投資・利益の再投資・フェアな投資アプローチをとっており、ベンチャーキャピタルとしては珍しい仕組みになっています。またエンデバーの支援先であるスタートアップから、「えこひいき」をして投資しないための仕組みも整えていきました。まず支援先のスタートアップがビジネスを育て、500万ドルを超える資金を集めるタイミングを条件とします。そこにプロのVCが出資をするならば、自動的にエンデバーも「相乗り投資」を提案するというものです。こうして独自のルールを決めていき、自動的に少額だけ「相乗り投資」するという不思議なVCが生まれたのです。

投資モデルの実践例

エンデバー・カタリストは、相乗り投資を通じて、支援先スタートアップに対する信頼とコミュニティを築き上げています。例えば、フィンテック業界におけるリーダー的存在であるウェンセス・カサレス氏は、エンデバーの支援を受け、アルゼンチンで成功を収めた後、エンデバーのメンターとなり、他の起業家たちを支援しています。こうしたエコシステムは、エンデバー・カタリストの投資モデルの成功を象徴しています。

エンデバー・カタリストの成功事例

  • Globant🇦🇷

エンデバー・カタリストの最初の投資先であるアルゼンチンのソフトウェア企業 Globantは、2014年にニューヨーク証券取引所に上場し、エンデバーに大きなリターンをもたらしました。グローバントは、クライアントに応じた新しいソフトウェアを開発するスタジオ形式の会社で、Googleを初めての外部パートナーとするなど、その成長は著しいものでした。

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  • Yemeksepeti🇹🇷

トルコのフードデリバリースタートアップ、Yemeksepetiは、エンデバーの支援を受けて成長し、最終的に6億ドルで買収されました。この投資により、エンデバー・カタリストは5倍のリターンを得ることができました。エンデバーの支援があったからこそ、Yemeksepetiは米国のジェネラル・アトランティックなどの大手投資家とつながることができ、グローバルな成長を実現しました。

  • Rappi🇨🇴

コロンビアのスタートアップ Rappiは、エンデバーの支援を受けて急成長し、南米全体をターゲットにしたスーパーアプリとして50億ドルの企業価値を誇るまでになりました。Rappiは「南米のペイパルマフィア」とも称され、次世代の起業家たちに多大な影響を与えています。Rappiの創業者たちは、シリコンバレーの有名なアクセラレーターであるYコンビネーターに参加し、その後の成長を加速させました。
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アラブ首長国連邦(UAE)で生まれたデジタル決済企業、Checkout.comは、2012年の設立から自己資金で経営を続け、2017年にエンデバーの支援を受けて飛躍的な成長を遂げました。同社はアメリカ大手Stripeの競合として150億ドルの企業価値を誇り、ヨーロッパやアジア、ドバイで1,000人以上の従業員を抱えています。

Checkout.comは、初の資金調達ラウンドで2,000億円近い評価額を獲得し、エンデバー・カタリストは特別投資枠を設けられ投資を行いました。このような投資活動を通じて、エンデバー・カタリストは大規模なリターンを得るとともに、次世代の起業家たちに成功のモデルを提供しています。

グローバルな社会変化とエンデバー・カタリストの重要性

新興市場への注目

この10年間で、世界は急速に変化し、新興市場への注目が高まっています。特に南米、アフリカ、中東、アジアなどの地域は、インターネットの普及やデジタル化の進展により、スタートアップの成長が加速しています。このような背景の中で、エンデバー・カタリストの役割はますます重要になっています。

エンデバー・カタリストは、これらの新興市場において信頼できるパートナーとして、起業家たちを支援しています。エンデバーは、ブラジルやメキシコ、インドネシア、ケニアなどでコミュニティを構築し、現地のスタートアップをグローバルな投資家とつなげる役割を果たしています。

エコシステムの進化

エンデバー・カタリストの投資モデルは、単なる資金提供にとどまらず、起業家たちにとっての強力なコミュニティ形成を促進しています。これにより、新興市場のスタートアップは、より迅速にグローバルな競争力を獲得することができています。エンデバーは、次世代のユニコーン企業を生み出すためのプラットフォームとして、スタートアップエコシステムを進化させ続けています。

未来への展望

エンデバー・カタリストは、今後も新興市場の起業家を支援し、グローバルなスタートアップエコシステムの発展に寄与していく予定です。特にアフリカや南米、アジアなどの地域での活動を強化し、次世代のイノベーションを牽引する存在としての地位を確立していくことが期待されています。

また、エンデバーは、パンデミック後の世界において、さらにボーダーレスな投資活動を展開し、より多くの起業家が成功を収めるためのサポートを提供していく計画です。これにより、エンデバーは、グローバルなベンチャーキャピタルとしての存在感を一層強めることでしょう。

おわりに

エンデバー・カタリストは、非営利団体としての使命を果たしつつ、独自の投資モデルを通じてスタートアップの成長を支援しています。エンデバーの取り組みは、世界中の起業家たちにとっての希望となり、新しいビジネスの可能性を広げています。今後もエンデバーは、持続可能な形で起業家を支援し続け、地域経済の発展に貢献していくことでしょう。

原文はこちらの本からご覧いただけます。


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