母とアップルティー
まだ幼かったころ、寒い季節がくると母と一緒にアップルティーを飲んだ。
「おいしいね」
「おいしいね」
「あったかいね」
「あまいね」
「おいしいね」
取っ手にワンコがのったお気に入りのティーカップを、ソーサーにのせて運ぶ。
ティースプーンはシャベル型。
電気ストーブに毛布をかけて、引火したら危ないのがわかっていて、暖をとった。
さむいねって言いながら、アップルティーを飲んだ。
粉末の、お湯で溶かすだけの、紅茶と呼べるかどうかもわからない、あのアップルティー。
そんな母はもういない。
思えばその頃から少しずつ母の中の何かは欠けていっていて、今ではもう完全に壊れてしまった。
攻撃的になり、排他的になって、苦しめ、苦しんでいる。
病気だとかなんだとか、そんなのはもうどうでもいいのだけれど。
ただただこわくて、もう気軽には近寄れないから。
粉末の甘ったるいアップルティーを並んで飲んだあの日に、一度だけ戻りたい。
いつかまた、あたたかいアップルティーをあのマグカップで飲めたらいいんだけどな。
それはきっと、世界一とくべつなアップルティーになるから。
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