また採用されなかった。

以下は配信企画における自分が送った公募文章です。

僕はスクール水着、その”旧タイプ”の特定のマニアである。
競泳でもパレオでもビキニでも旧旧タイプでも新タイプでも、否、間違い無く旧!明らかに旧スクは紺色以外あり得ないのであり、フェティズムの慟哭を知らない白色側の畜生の皆々様に置かれましてはインスタントに性癖を消費する愚行と知れ。
とはいっても僕は旧スク全盛期にその身が学童だったわけでは無く、小学校低学年を過ぎると僕の目の前から旧スクは姿を消したのだった。
人は、与えられてから奪われると喪失感と共に、何やら心に穴が開く感覚がするもので、僕も例外ではなかった。
その喪失感は幼少期の真っ只中であった僕を狂わせるのに、そう大して時間はかからなかった。
リビドーを抱えた小さいケモノは、人類の英知と出会う。”インターネット”だ。
当時の記憶を頼りに、覚えたてのyahoo!検索を駆使して、昼休みのギリギリまで僕はパソコン教室でとかく旧スクール水着に関する画像、いや痕跡を辿っていたのだった。
女の子 水着 学校 とか、そんなようなサジェストをおぼつかない”かな入力”でタイピングする。
そんな忘れもしない小5の夏、窓を閉め切ったパソコン教室で、僕は汗を垂らしながらカリカリというHDDの異音が静寂に響く中、モニタに映った旧スクの水抜き部分に思いを馳せていた。
瞬間、立て付けの悪い出入り口の扉がギギギと開く音が聞こえた。
僕は仰天し、座っていた椅子をなぎ倒しながら後ろを振り向くと、そこには同じクラスの女子がいた。
名前は伏せるがMちゃん、殆ど喋ったことも無い女子がずかずかと僕の聖域(サンクチュアリ)に足を踏み入れた。
「何?もう昼休み終わるけど……」と僕が話しかける間に、縮地でも使ったのかバクバクと響く僕の心臓を尻目に、一瞬にしてMちゃんはPCモニタを覗き込む。
終わった……僕のあだ名がスク水狂いに決定してしまった……どうしよう、ぐるぐると邪推を巡らせる中、一言。
「好きなの?」と聞かれる。
あぁ好きだ。
好きでなきゃ灼熱のPC教室に缶詰めしながらこんなことするわけがないのだから。
という思いとは裏腹に、どうにか言い訳をしなければ、僕の小学校生活は変態の烙印を押されたまま過ごさなければなくなる。
パニックになった僕の口から出た言葉はただ「ァ……うん、そうだね」という間の抜けたモノだった。
後にも先にも、死を覚悟した瞬間は人生でこれだけだった。終わった……。
「ふぅん」とMちゃん。
絶望する脳へ考えうる全ての最悪の結果がフラッシュバックする中、昼休み終了の予鈴が鳴ると、Mちゃんは何も言わずに教室へ帰ってしまった。
それから三日間、僕は自分の性癖がクラス内で暴露されているのではないかと、ビクビクしながらも授業を聞いていたのだが、まるで頭の中に入ってこなかった。
旧スクを好きなことがそんなにも罪なのか?変態なのか?許されざる悪徳なのか?ループする感情と、僕の身の内から溢れる重圧に耐えきれず、放課後にMちゃんに話しかけたんだ。
「あの、Mちゃん?」僕がそう言うと、Mちゃんは僕と目を合わせずに、何やら紙切れを僕に押し付けて走って行ってしまった。
なにやらファンシーなプリントがされたピンク色の紙には、今日の10時、学校のプールで待ってるから、絶対来てね。と丸文字で書かれていた。
まるで裁判所から届く召喚状の様に思えた僕は、目の前がくらくらして、きっと他のクラスの連中も呼び出して、そこで僕の変態性を暴露する公開処刑が始まるんだと覚悟した。
……もう一度書こう。僕はスクール水着、その”旧タイプ”の特定のマニアである。そこに嘘は介在しない。自分以外に、性癖を肯定してやれる存在はない。他の事で嘘をついたっていい。でも、僕は旧スクへの思いに対してだけは嘘は付けなかった。
思えば「好きなの?」と問われた時も、その思いから肯定してしまっていたのかもしれない。
誰に何を言われたって、貶されたって、軽蔑されたって、この思いだけは、忘れ去ることなぞできる筈が無かった。
答えは最初から決まっていたんだ。その日、僕は親の目を盗んで自室の窓から学校へ、夜の暗がりの中、歩を進めた。
吹き抜ける夏の風に涼しさを感じながら、プールの柵を乗り越える。
周囲に人の気配は感じない。左手首を見ると、ゴムとプラスティック製のデジタルウォッチは22:04と示していた。
何度か呼吸を整えると、雲に隠れていた月明かりがじわじわと辺りを照らす。
「来ないかと思ってた」
水の波紋、プールサイドに腰かけたMちゃん、紺色のポリエステルスムースが月光を反射し、水面に映るその姿は女神を思わせる。
はるか遠き故郷は、真なる姿で、僕の目前に居た。
腋から伸びるプリンセスラインは、腰からスカート部分へと至り、視線は水抜きへ、クロッチヘ、水を吸った紺色の天使は股下へ水滴を垂らす。
その紺色の濃淡は、僕を狂わせるのに十分過ぎたんだ。
「……本物だ」まさにその通り、追いかけ続けていた神秘はただそこに在った。
Mちゃんはいたずらな笑顔をして、僕へ近づき「好きなんでしょ?」と問いかける。
「あぁ……好きだよ……!僕は旧スクが大好きだよっ……!」
そう言うと、僕はそれまでのストレスとか、悩みとかが反転し、求め続けていた光景を目にしたことできっと頭がバグって、だから大粒の涙を垂らしながらMちゃんを見ていたんだと思う。
「ちょっとw大丈夫?w」確かそんなことを言われた筈だが、感涙の中バグった情緒に邪魔されて、旧スクの奇跡がぼやけてしまう。
「ねぇ、付き合ってる人いるの?」とMちゃん。
なぜ今、唐突にそんなことを?
「いないけど」そう僕が答えるとMちゃんは嬉しそうにこう言った。
「じゃあさ、付き合ってよ」
「はぁ?なんで?」
そりゃ旧スクを見せてくれたことには感謝してるけど、正直Mちゃんは僕のタイプではない。顔つきは整ってるけど小5にしては幼いし、胸もぺったんこだったから。あと陰キャっぽかったし。
「いや、ごめん、付き合うとかわかんないし、ムリ」と言い終わる前に、Mちゃんは震えながら涙目になり、僕をビンタした。
ビックリしたがあんまり痛くなかったので、「もう旧スク使わないなら欲しいんだけど」そう僕が言うと「しね!」と言われた。
後日、学校に行くと僕のあだ名は「スクミズ」になっており、女子全員から嫌われていた。正確にはスクミズじゃなくキュウスクだぞ、と言うと男子にも流石に引かれた。
成人した今でも僕は旧スクが好きだ。通販で自分用を買うくらいには。
もし、あの頃に帰れるなら、付き合っておけばよかったと後悔している自分も居るが、それは贅沢というものだろう。
そう、今でも僕は”特定のマニア”としての誇りの欠片を、常に胸の中に感じている。
だから、コウ。お前も素直になれる日がきっと来る。旧スク最高!

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