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超短編小説 時計の針

 夏休みも終わりに近づきました。「あーあ。ずっと遊んでいたいな。なんで終わっちゃうのかな」と小学4年生のコウタ君は言いました。
 そこでコウタ君はふと思いつきました。夏休み真っ只中の8月1日に地元の資料館で読んだ『時を操る時計』のお話のようにすればいいんだと。

 そのお話は、この町に昔から伝わる「古い置き時計の針を止めると時が止まり、先に回すと時が早く過ぎ、前に戻すと過去に戻る」と言うものです。         
 コウタ君は町中を探し、ついにその時計を見つけました。コウタ君は時を止めたいと思い、時計の針をピタリと止めました。すると伝承の通りに時が止まりました。町中の人やもの、風景全てが止まりました。
 
 しかし、針を止めた張本人のコウタ君だけは動くことができました。
 最初は「これで夏休みは終わらない!」と喜んでいたコウタ君ですが、次第に悲しくなり泣いてしまいました。
 家に帰って「ただいま!」と言っても誰も返事をしません。お母さんを揺さぶってもびくともしません。妹のセツナちゃんに「ねぇ!」と話しかけても返事はありません。学校に行っても、職員室の先生もずっと同じ体勢のままでなんの話し声も聞こえません。音も消えてしまいました。

 コウタ君は「こんな悲しい世界なんていらない。みんなと一緒に遊びたい。みんなと一緒にご飯を食べたい」と願い、再び時計の針を動かしにいきました。
 そして町にいつもの景色、音、匂いが戻ってきました。早速コウタ君は家に帰り、「ただいま!」と声をかけました。するとお母さんと妹が「お帰り!」と返事を返してくれました。


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