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会話が有料化されても困らない未来

※文学サークル「お茶代」課題として会話有料化をテーマに書いたものです。最後まで無料で読んでいただけます。

会話が有料化された。理由や仕組みはまだ発表されていない。とりあえず今日、わたしはいくら持って街に出ればいいのだろう?

まあ、1000円もあれば大丈夫だろう。今日は友人と会うけれど、直接会話する必要などないのだから。

20XX年、わたしが生まれる少し前、Brain Machine Interface(BMI)と呼ばれる、脳を電極でコンピューターと繋げる仕組みが実用化された。これにより、人間ができることは格段に増えたらしい。昔はみんながデバイスを持っていたようだが、今やほとんど誰もそんなものは持ち歩いていない。脳があればデバイスを操作でき、その操作の結果デバイスに起きる変化も、わざわざ画面を見なくても直接脳に送り込まれるからだ。「歩きながらメールチェックができるなんて本当に便利で感動したわ!」とBMI導入前の生活を知る母は言っていた。

そしてBMIは、コミュニケーションも大きく変えた。
BMIを使用している人同士であれば、脳から脳へ直接思考を伝えることができる。BMIを利用してのコミュニケーションは言語を介さないため、言語を十分に習得していない小さい子どもや動物ともBMIさえあれば意思疎通ができるようになった。わたしも、毎日飼い犬のアンヌと話している。

さらに、言語が違う人同士でも問題なく意思疎通ができるため、外国語も勉強する必要がなくなった。今外国語を勉強しているのは、わたしのような外国語を勉強すること自体が好きな人間か、異国を研究する者くらいである。だから、外国語教室や外国語教材がめっきり減ったらしい。

逆に言うとわたしにとってBMIより前の時代がうらやましいと感じることはそのくらいだった。生活はすごく便利だし、むしろBMIがない生活なんてあまりの不便さに一日でギブアップしそうだ。今日だって、会話有料化なんてしようがしまいが関係ないと思えるのはBMIのおかげだ。

結局1円も使わないまま、つまり一言も発しないまま、映画を見てカフェで感想を語らい、食事をして帰ってきた。

その間に政府が会話有料化の詳細を発表していた。
1音につき0.1円、話した分だけマイナンバーカードと紐づけられた口座から引き落としされる仕組みだ。BMIを利用してデータが収集されるようだ。会話の定義は、誰かが言葉を発し、それに対して応答がなされること。つまり独り言は問題ないが、誰かが口頭で発した言葉にBMIで応答した場合は課金対象となるらしい。

すでに8割以上がBMIを使用しているが、昔たばこ税が数千円を超えてもしぶとく喫煙していた人たちがいたように、BMIを頑なに使おうとしない人たちもいる。そんな人々を狙って少しでも税収を増やそうという目的だそうだ。日本も少子化で国の運営は年々厳しくなっているから、どうにかしたい一心なのかもしれない。

会話有料化から数か月がたち、いよいよ最後まで使わずにいた稀有な人々もBMIを使用することにしたのか、それとも話すことを諦めたのか、会話の有料化当初は時たま街で聞こえていた会話も、まったく聞こえなくなった。

今の生活にまったく不自由はないけれど、静まり返った街を歩きながら、ふと人間が会話していた頃の世界はどんな風だったのだろうと想いを馳せた。


ちなみに現実世界でBrain Machine Interfaceを研究するNeuralinkでは、近いうちにヒトでの臨床試験を行うとのこと。実用化たのしみ。

現実に起こるのはもっと先だと思える世界も、実は目の前なのかもしれないですね。

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