新首都の歩き方
新首都は東京から東濃へ
新首都と聞くとどこを思い浮かべるだろうか。さいたま新都心、新宿副都心、はたまた大阪都か。
幼い頃、私の過ごしていた地域は新首都に名乗りを上げていた。いつか、リニア新幹線が開業するころ、新首都になるものだと夢を見ていた。そう、東京品川駅から約60分(で到達するはず)、名古屋から10分(で到達するといわれている)、東濃である。新首都は東京から東濃へ「東美濃丘陵が一番いい」。21世紀初頭の儚い夢だ。
東濃、といわれてもピンとくる人は少ないだろう。名古屋周辺に住む人か、よほどの地理オタクであろう。東濃は名古屋から東に30キロほど向かった場所にある。もう東濃に住むことはないと思う私だが、そんな名古屋から電車
で数十分の距離にある東濃について書いてみようと思う。
名古屋郊外の東濃5市
東濃は5市に分かれている。名古屋駅まで34分の多治見、45分の土岐市、50分の瑞浪、約一時間の恵那、快速で1時間15分・特急で50分の中津川。
名古屋から離れるにつれて、田舎になる。多治見から中津川まで来るともうその先は木曽路である。
東濃は行政区分上、岐阜県に属している。だが、生活圏として考えると、完全に名古屋圏である。岐阜(地方)出身の人からすると、気に食わないだろうが、東濃の人は、名古屋に通勤通学し、名古屋の百貨店で買い物をして、名古屋で映画を見ている。(東濃には映画館がない)。新幹線はもちろん名古屋駅から乗る。飛行場は名古屋空港が一番近い。ここには岐阜羽島駅もないし、鵜飼も岐阜城も長良川もない。東京の人から岐阜の話を振られても名古屋のほうが詳しいから本当にやめてほしい。豊橋など三河出身の人より、よほど名古屋のことは詳しいと思う。
これまで記していても、東濃が全く地味な存在であることがわかる。観光ガイドで飛騨や信州のように独立したブランドもなければ、名古屋版に組み入れてももらえない。(恵那・中津川は木曽と親和性が高いので信州版のガイドブックに載っている)とはいえ、岐阜県として扱うには、岐阜らしくないし、なにより岐阜から遠い。
そんなわけで、東濃の好きな場所を記していく。
新首都の歩き方
多治見市
ことに美しいと思うのは虎渓山永保寺だ。700年ほど前に開山したこの寺は国宝に指定された建物も残っており、春には桜、秋には紅葉が美しい。
また、多治見駅前のながせ商店街は昭和の香りを残していて、歩いているだけで楽しい。シャッター商店街と思いきや、おしゃれなカフェもたくさん残っている。
土岐市・瑞浪市
かつて土岐郡の中心に陶器の有名な街で、良質な窯元や博物館等が揃っている。土岐・瑞浪は多治見の後塵に拝している感は否めない(警察署は多治見にしかない。瑞浪市にあるのは交番なのだ)。だがアウトレットやイオンモールがあり、名古屋郊外のお出かけスポットとして名高い。
恵那市
名古屋から特急で40分。田舎ではあるが観光資源が揃っている。一番有名なのは恵那峡。福沢桃介の電源開発の夢の跡。大井ダムは日本初の水力発電ダムだ。
恵那中心部から車か明知鉄道で30分。岩村がある。ここにはお城と古い城下町が残る。江戸時代に藩医が長崎から持ち帰ったというカステーラが有名だ。カステラではなくカステーラなので注意してほしい。
中津川市
名古屋から特急で49分。松本までは約一時間。2027年度にはリニアの岐阜県駅が完成予定。あと4年ほどで「ほぼ」東京になるはずの街だ。(ならない)
木曽川沿いにせり立つ苗木城は一見の価値がある。巨石の上の天守台からは恵那山が見える。
また、市内には馬籠宿がある。かつて信州木曽路の一大観光地だった馬籠宿は2005年に長野県から岐阜県に編入された。島崎藤村も当地の生まれだ。江戸時代のような宿場町を歩くのが楽しい。そのまま峠を越えれば妻籠宿まで至る。
新首都のグルメ
多治見は陶器の街でもあるため鰻が有名だ。市内にはいくつか鰻のお店が並んでおり、いつも賑わっている。
そして、恵那・中津川市は栗きんとんがおいしい。秋になると名古屋から多くの観光客が買いに訪れる。栗きんとんを買うのもいいが、併設のカフェで栗パフェであったり栗粉餅を食べるのも良い。馬籠は江戸時代から栗こわ飯が有名で、今でも食べられる。私も実家で作ってもらう栗ご飯が好きだ。
この地域は木曽や三河とも文化的なつながりが強い。五平餅、朴葉寿司、朴葉餅なども美味しい。地味に見える東濃は意外に個性的なグルメを持っている。
東濃の未来
東濃が新首都になることはたぶんないだろう。とはいえ、リニアが完成すれば、東京からも大阪からもほど近く、木曽や飛騨への玄関口を兼ね備えた観光地になるはずだ。新首都にはなれなくても、リニアとともに成長する未来を願っているし、これを読んだ方が、観光に来てくれることを願っている。