記憶に残る言葉
何かの拍子にふいと思い出す言葉があるもので。無意識ですから、多分誰にでもあるはずですが。
地下鉄の中で、隣に座っていた大人、大人という表現はおかしいかもしれませんが、
高校生や中学生ではなく、お勤めのサラリーマンとも違う、若くもなく、50代のように見える2人の男性、清潔そうな白いポロシャツに綿パン、もう1人もグレーのポロシャツにゆったりめのパンツスタイル。
バッグなどは持っていない。
小さな声で話しているのでしょうが、
「、、、、、、どうも理解出来ない、、食べるだろ、、たべる、だから、な、、」
この段階で、私の好奇心と右耳は、ピクピク。
「知りませんね、、古い人ですよね、
そのキヨオカ?、、」
キヨオカ?食べる?
(知らない人に声を掛けられて、不用意に話すな!
上手にその場を離れるようにしなさい!)
小さな頃からの父の言葉は頭にあるものの、逆の立場で、気になるので、ひょいと隣の2人を見てしまい、すると、ガチンと目が合って、、
「えっ? お嬢さん、何か?」
そうそう、目は語ります。
きっと私の目は好奇心と、それ、私知ってるかもと語っていたのかもしれませんが。
車内は余り冷えてなく、
冷え性の私にとっては快適な温度で。
今年は暑い。猛暑日が続きますから、皆さん、ハンカチで顔や首元を拭いています。
「あの、
食べる ですが、
もしかして、
間違いでしたら、ごめんなさい、
キヨオカって、作者のお名前では?
それ詩では?」
「えっ?
イヤ、わかりません、」
「えっ? わからない?
失礼しました。」
「先輩が、昨夜送ってきたLINEに、
沈黙を食べろ!ってありまして、
作者、
キヨオカと。」
「まあ!
そうでしたか、
あの先輩の方ですが、
きっとですね、
清岡卓行さんの詩からの一行を、
仰有っていると思います。
私も、その一行が、
ずっと頭に残ってまして。」
「は?、詩ですか、、
詩からの、、」
2人は怪訝な顔をしながらも、
「先輩は、
文学通だから、、、」
「現在も活躍されている方ですか?キヨオカさんは?」
「あ、、いえ、、亡くなられたはずです。この詩、『耳を通して』というタイトルのはずですが、
実は、私も以前、先輩から、
この詩を味わってみなさい!と教えて頂きまして。
情けない話ですが、いまだに、
沈黙を食べるという一行について、
明確に理解できません。」
「そうです、その通りです、沈黙を食べに行け!でした。」
「調べると解りますが、
今から60年ほど前に発行になった詩集に収められている詩のはずです。
私は、心迷ったり、寂しくなったときは、
音楽を聞くより、
都市部から離れて自然に溢れた場所へ行き、
沈黙を食べてみなさい!そうしたら、生きる力がわいてくるでしょう!
そのように理解しようとしていましたが、
いまだに、『沈黙を食べる』の確かな意味は不明です。」
「ありがとう!
なんとなくですが、先輩の意図が分かりました。
この詩、
調べてみますね、
『耳を通して』ですね、
ありがとう!」
「いいえ、
単独で、調べても出てこないかもしれません、
あなたの先輩の方は御存知でしょうが、
確か四季のなんとかというタイトルの詩集だったはずです。
素晴らしい詩だと、感嘆した記憶があります。
突然、話しかけてしまって、ごめんなさい! 」
「いや、いや、
助かりましたよ、
あなたのような愛らしい女性に話しかけられただけでも、ラッキーでした。」
「まあ!!」
私の下車駅はすぐでしたから、
ではと会釈をして立ち上がりましたが、記憶に残る言葉が、自分1人ではなく、
何人も何人もいる共有感に、
小説や詩などの価値は未來永劫持続するのだと、何やら嬉しくもなったのですが。
目が調子よくなってきて、我慢していた読書ですが、早速手にとったのはサガン。
サガンの言葉も、
心に突き刺さったものが多く、よくも悪くも、
私はサガンが好きなのでしょう。
暑い日が続き、
サガンのように、髪をベリー、ベリーショートにカットしてきました。
サガンの言葉については、また次回に。