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手話 de 芸術大学作品展見学会(in 京都市立芸術大学)
観光客で賑わう京都駅前広場を抜けて少し歩くと、特徴的な建物が並んでいる。
ここは京都駅からバスで約一時間の沓掛校舎から移転してきた新校舎群。
毎年恒例の全学生による作品展は、昨年度から新校舎で開催されるようになった。
前よりもアクセスしやすくなったので、手話による芸術大学見学会を企画してみようと考えた。
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参加者14名。
どんなところなのか気になり参加してくださった方、美術を専門的に学んでいた方、いろいろな方が集まってくださった。
芸大の敷地は3つのエリアが連なっている。
京都駅側のエリアに集合後、中間エリアの建物から空中廊下を渡り、鴨川沿いのエリアまで移動して芸大の全容を確認した。
すぐそばを新幹線が走っていく。
旧校舎は自然が多く広々とした環境だったが、新校舎は街の中に組み込まれていて道端からも中の様子が見える。
突き抜けや奥庭など京都の街の空間要素を盛り込んだという新校舎には、工房やギャラリー、研究室、講義室、ホールが複雑に入り組まれている。
それらの空間を生かした展示群を回遊するように見学して回った。
旧校舎のころの作品展は岡崎の美術館で展示していたため、スペースに限りがあり一人一作品程度だった。
今の校舎ではギャラリーのように、部屋全体を一人で構成する展示が多い。
違和感なく設置された水場が彫刻作品であったり、木彫り作品と一体化していた人形が本物の人間だったりする。
「うっかり触りかけたよ。」
それぞれの好みやペースがあるので、自由行動、自由解散。
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私の出身、版画専攻のフロアで、後進の指導にあたる先輩と再会。
学生のとき覚えてくれたキュード話法を思い出して、話してくれる。
初めて会う、先輩のお子さん達も手話で挨拶してくれた。
音声文字変換を併用して、おしゃべり。
「版画プレス機の重さは300キロ。移転のときはクレーンで運んで大変だったよ。」
個展前で多忙とのことだが、穏やかな笑顔にほっこり。
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漆の香りが漂う板張りの漆工展示室には、靴を脱いで上がる。
木の素材感を生かした作品もあれば、金属的なものもあった。
和紙をかためて漆や金属粉を塗っているらしい。
「赤と黒ばかりだと思っていたけれど、結構カラフルだね。」
「これ、中身は発泡スチロールなの?」
「木よりも軽くて安くて、自由な形に加工できる。漆を塗り重ねているから、結構硬いらしい。」
「材料にプロテインとあるけれど、飲むやつ・・・?」
会場にいた学生さんに音声文字変換で質問。
確かに、飲むプロテインを漆に混ぜ込んでいるとのこと。
タンパク質を混ぜると、ネバネバになるらしい。
工芸科のフロアでは、作り方についての質問が次々と出てきた。
一方、美術科のフロアでは作者の考えや物事の概念が反映された作品が多く、「これは何かな、どう見たらいいのかな。」ときかれて、うまく答えられないことが多かった。
それぞれが感じるままに言葉を交わして、見方や感じ方を広げていけるとよいのだが、大量の作品を前に、あまり話す時間を取ることができなかった。
会場で観たときはよくわからなかったものの、帰ってきてから思い出し、反芻する作品がいくつかある。
「だれかから見られているような気がする」ことを表した、暗闇で照らされる作品など。
一人ひとりの頭の中を覗いているようであったり、今の時代や社会的な背景が感じられたりした。
デザイン科のフロアで展示されていた「聴覚情報と空間の相関について体感する」作品の解説を読んでみると、作者は一測性難聴の方だった。
「日常生活ではほぼ支障がないと考えられ、ハンディキャップは軽視されてきた」と、「一個性難聴」という言葉で自身の聴覚障がいについて述べていた。
「なんとなく居心地の悪い音環境、感じるもどかしさ、見えない障壁」を物理的に表現し、空間デザインにおける聴覚バリアフリーについて問題提起する作品だった。
今回、現地までご案内できなかったが、芸大の近くの民家を改装したギャラリーTaroハウスではインド出身の院生、美馬摩耶さん(Mima Maya)の個展が開催されている。
芸大が移転してきた崇仁地区の住民との交流で、生み出された作品。
地域の方の古着などで作られた染織作品には、地域のエピソードを題材にした図柄が染められている。
音声文字変換を介して、制作意図を丁寧に教えていただいた。
自分が学生のころと比べて、周りの人や環境と関わり、築いていく制作活動が増えているように思われた。
帰宅後、小学生のお子さん2人を連れて参加してくださったご家族より、お子さんの様子を知らせていただいた。
何に見えるかを話し合いながら鑑賞したり、撮影した作品写真を見返して全身で形を再現したりして、作品展を堪能していたことが伝わってきた。
やはり、どこかで参加者の皆さんとお茶をしながら手話で感想を出し合う時間を作れたらよかったなあ…。
この時期、いろいろな芸術大学や美術大学で作品展が催されていて、それぞれ独特な雰囲気があるので、機会があれば観に行っていただければと思う。
そのときには、ぜひ会場にいる学生に感想を話したり、質問したりしてみてください。