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短編小説:きみがため、星泥棒は世界もつくる

 ラピスラズリという石がある。
 まるで宇宙の一部を切り取ってそのまんま固めたみたいな、濃い青色と散らばる金色が特徴的な綺麗な石だ。綺麗過ぎるおかげで古代から宝石や顔料の原料として使われてきたということはネットで調べて知っている。ついでに金色の星みたいな部分はパイライトっていう鉱物だってこともネット調べ。
 ラピスラズリは和名では瑠璃と言う。見た目に合った美しい名前だと思う。どこかの言語の言葉を音訳して付けたものらしいけれど、音も字面も天才的に良いものを付けたじゃないかと名付け親をなでなでしてあげたいくらいに素敵だ。
 さて、なぜわたしが急にラピスラズリの話をしたかというと、つい先ほどラピスラズリのペンダントトップを衝動買いしてしまったからである。
 食料品の買い出しに行ったデパートで、たまたま前を通りかかった宝石店。いつもは気にも留めずに通り過ぎてしまうのに、今日はどうしてかその店のショーケースの前で足を止めてしまって、見つけた。
 五百円玉を少々ダイエットさせたくらいの大きさのオーバル型のペンダントだった。セール価格で税込二万と七千八百六十四円。質もよくお買い得品ではあるのだろうが、貧乏美人オフィスレディのわたしにはかなり厳しい買い物だった。
 それでも衝動買いしてしまったのには理由がある。店員さんの血走った目によるゴリ押しに屈したわけではなく。わたしにはラピスラズリを持っていたかった、明確な理由があった。

 瑠璃(るり)と知り合ったのは五年前だ。お互いが大人になってから。
 瑠璃はそのとき幼馴染みでもあった恋人を病気で亡くしたばかりで、わたしはと言えば、半年前に別れた彼氏のことを忘れられずにいたけれど初対面の瑠璃に一目惚れをしてあっという間に元彼を忘れた、そんなときだった。
 瑠璃は、女の子みたいな名前をしているけれどれっきとした男である。喉仏があるし背も高い。料理の腕はわたしより達者で、朗らかで優しく、のんびり屋でしっかり者。洋楽が好きで村上春樹が心の友。それが、わたしの恋人の瑠璃である。
 わたしたちが出会ったとき、瑠璃はまるで死んでいるみたいだった。
 人とはまともに接したし、いつだって柔らかな表情を浮かべていたけれど、時々ぼうっとどこかを見ていたり、笑った顔が空っぽだったり、ひとりになると声を殺して泣いていたりするのを、若干ストーカー気質だったわたしは知っていた。
 幼馴染みの恋人を亡くしたのだと知ったのはわりとすぐだった。生まれたばかりの頃から一緒にいたらしい。二十四年。それだけ長いこと側にいて、心を寄せ合って、初めてを全部その人に捧げて、その人のも貰って。隣にいることがあまりにも当たり前だったから、いない世界のがおかしいって。そりゃ死んだようなふうにもなるわって、わたしは思った。
 それほどまでに大きな存在を失った人を、わたしなんぞが支えられるはずもない。でもそれはそれとして普通にアタックした。なんせあまりにも外見が好みだったせいで珍しくも一目惚れをしたのだ。且つ知れば知るほど穏やかな中身にも惚れてしまったのだ。且つ悲しみにくれる薄幸そうなところも古めの少女漫画趣味のわたしにはキュンときてしまったのだ。
 知る人に聞けば、瑠璃の亡くなった恋人はそれはそれは素敵なお嬢さんで、可憐で優しくて、誰にでも好かれる天使のような人だったらしい。
 美人なところを除けばその人とはまるで似ても似つかない、比べれば月とスッポンにもなろうわたしのことを、瑠璃も好きになってくれたのは、まさに奇跡としか言いようがなかった。
「もっと早く瑠璃と出会っていればよかった」
 前に言ったことがある。そうしたら瑠璃は「なんで」とわたしに訊いてきた。
「だってそしたらそれだけ早く瑠璃をわたしのものにできたんだよ。それって最高じゃん。それに、わたしも瑠璃と長く一緒にいられたわけだし」
「もって、誰と比べてんの?」
「そりゃ紅子(こうこ)さんだよ。二十四年も一緒にいたんでしょ。なんかさ、わたしがこれから先、もしもそれ以上長く瑠璃と一緒にいられたとしてもさ、敵わない気がするんだよ、なんか」
「敵わないって何が?」
「わかんないけど、なんか」
 うん、ほんと、わかんないんだけど。でもやっぱりそこには大きな差がある気がして、長い階段の上のほうに瑠璃と紅子さんがいて、わたしは下のほうからぼうっとふたりを見上げているのだ。届かなくて入り込めないのだ。ふたりの、絆みたいなものの間には。
「でもまあ、もしも藍(らん)が紅子の生きてた頃におれの前に現れたとしても、おれは紅子しか見てなかったし、結局紅子がいる間は藍とはこういうふうにはなってなかったと思うよ」
「それってどう足掻いたってわたしは紅子さんには勝てないってこと?」
「傷ついた?」
「瑠璃の部屋にある春樹全部古本屋に売りに行ってくる」
「勘弁してよ」
 瑠璃が困った顔で笑った。わたしは般若の形相を浮かべたけれど、もちろん瑠璃の宝物である春樹を本気で売り飛ばそうなどと考えているわけではない。わたしはもう、たったひとつだって、瑠璃から大切なものを奪ったりしたくないのだ。
「だけどおれは思うよ。藍と出会うのは早くはなかったけれど、出会うまでの長い時間が藍と出会うために紡がれてきたとしたなら。藍だけとこれからを過ごすために、藍と泣いたり笑ったりするために今までのいろんなことがあったとしたなら、その全部、後悔なんてないし悪くはなかった気がするって。そしたらやっぱりおれの全部さ、過去も含めて、藍のもんだよ」

 ねえ、きみは知っているだろうか。
 わたしはきみが、宇宙で一番幸せであってほしいのだ。
 いつだって笑っていてくれれば嬉しいし、悲しみなんてひとつも味わわないでほしい。本音を言うと自分のことはどうでもいいのだ。これって究極の愛だと思うんだけど、ほんと、たとえば今紅子さんが生き返って、瑠璃と一緒にいたいって言って、瑠璃がそれを望むならばわたしは素直に身を引ける。それくらい瑠璃を愛してしまっているのだ。きみの幸福にわたしが不必要なら、それで構わない。
 だけど紅子さんが生き返るなんてことはない。瑠璃は何より大切なものを一度失ったまま。大きな悲しみを抱えたまま。今を生きている。

   *

「ごめんくださーい」
 ブー、と鳴る古めの玄関ブザーを押しながら言うと、トントン足音がして電気がついて、磨りガラスの引き戸が開いた。
「その呼びかけ方、恥ずかしいからやめてって言ってるじゃん」
「この家に合ってるでしょ」
「古臭くて悪かったね」
「褒めてんだよ、わたしここ好きだもん。でかいねずみが出るところ以外」
 築六十年を超えるらしいこの一軒家に瑠璃はひとりで暮らしている。当然実家だ。ご両親は健在だけれど、お父様の海外転勤にお母様が付き添って出て行かれ、早八年とのこと。
「まあいいや。上がって。今豚汁作ったとこだから」
「わーい、豚汁大好き」
 と言いながらもテーブルのある居間を横目に見て二階への階段をのぼっていくわたしを、瑠璃はきょとんとした顔で見ている。わたしは二階に上がって、そのまま瑠璃の部屋へ侵入して、開いている窓からベランダへ出た。
「藍、どうしたの……ってほんとにどうしたの?」
 部屋の中から声がした。でも瑠璃の姿は見えない。なぜなら今わたしはベランダの手すりに上がり、瓦に手を掛け雨どいに足をかけ、屋根によじ登ろうとしているからだ。
「ちょっと藍、危ないって!」
「大丈夫。わたし落ちないので」
「落ちるよ!」
 大丈夫だってともう一度下に告げ、宣言どおり無事に屋根の上にのぼった。瑠璃の家の屋根は綺麗に整備されているから、歩くのも怖くない。
 てっぺん近くで寝転がると星空が綺麗に見えた。星座なんてひとつもわからなかった。
「藍、大丈夫? そんなとこいちゃ危ないから下りてきなって」
「瑠璃こそ早くのぼってきなよ。気持ちいいよ」
「藍ってば」
「瑠璃、早くきて」
 文句が止んで、しばらくすると、伸ばした足の先に瑠璃の頭がひょこりと飛び出た。怒っているというよりは呆れている様子だ。それでも付き合ってくれるのだから、わたし、きみのそういうところすごく愛してるぞ。
「おれ、自分ちの屋根のぼったの初めて」
「わたしも人んちの屋根のぼったの初めて」
「あ、でも本当に星綺麗だなあ。今日天気よかったからいっぱい見えるね」
 瑠璃はわたしの隣にあおむけに寝そべった。ロマンチストな面のある瑠璃のことだ、星について一ミリも知らないわたしと違い、たくさんの星座を見つけていることだろう。
「ではここで、藍ちゃんのマジックショー」
 ちゃららららら~ん。鼻歌でBGMを鳴らすわたしを、瑠璃は思いきり眉を寄せた顔で見た。
「あの星空を、わたしのこの手に閉じ込めてみせましょう」
 空に伸ばした両手をそれっぽく合わせ、適当にこねこねとこね回す。スリー、ツー、ワン。ゼロと同時に右手を開く。
 勿体ぶって出したのは、衝動買いしたばかりの税込二万と七千八百六十四円のラピスラズリのペンダントトップだった。今日の星空とそっくりだった。
「わ、すごいね、藍は星泥棒だったのか」
「星泥棒じゃなくて世紀のマジシャンだよ。わたしにかかれば星を手にすることすら容易いのだ」
「それってラピスラズリでしょ」
「ちょ、瑠璃、知ってたのこの石」
「うん。おれの名前ってそれから取ったらしいから」
「おいおい、じゃあ和名が瑠璃ってことも知ってたのかよ」
「というか結構有名だよね」
「わたしこの間ネットで知ったよ」
 ちくしょう。「これは本当はラピスラズリって石で瑠璃の名前と同じ名前なんだよ」ってドヤ顔で自慢する計画が物の見事に破綻してしまった。そもそも、なぜこの石が瑠璃の名前の由来だろうと思い至らなかったのだろうか。考えればわかりそうなものだけれど。そこがわたしの可愛いところだ。
「それどうしたの?」
「今日買ったんだ。綺麗でしょ。一目惚れだよ」
「藍ってアクセサリーとか宝石、あんまり興味なかったのにね」
「今でも興味ないよ。でもこれは、そういう意味で買ったんじゃなくて」
 装飾品のつもりではない。もちろんリアリストのわたしが石のパワーなんてものを信じているはずもない。でも、ただ、お守りと言ってしまえば、そうなのかもしれないけれど。
「瑠璃と同じ名前のものを身に着けてたら、なんかいつだってそばにいるような気がしてね」
 この石を、持っていたかった明確な理由はそこにあった。きみと同じ素晴らしく素敵な名前を持つというこの綺麗な石を、わたしが側に置いておきたかったわけ。
「わたし、瑠璃がいなくても生きていけるし、自分でいられるし、大丈夫なんだけど、それでも隣にいたいし、もしもわたしが、たとえば物理的にそばにいなくて、瑠璃が寂しくてひとりなような気がしても、心配すんなよわたしがいつでも隣にいるよって、なんか言ってあげられる気がするし、これ持ってたらね、ほんと、気分なんだけど」
 要するに、ただの気の持ちようだ。でもわたしなりに、瑠璃がどうしたら二度と悲しい思いをせずにいられるか、何も失くしたりしないか、ひとりになったりしないだろうかと考えた結果だった。
「つまりわたしがこれを大事に持っている限りね、まあ火葬場まで共に行くつもりなんだけど、瑠璃は絶対にひとりになったりはしないんだよ。そしてわたしが瑠璃のそばにいる限り、わたしはきみを宇宙一の幸せ者にしてあらゆる困難や敵からきみを守り続けるつもりなので、瑠璃はこの先めいっぱいの幸福しか味わわないし、結論を言えば、この先ずっと瑠璃のそばにはわたしがいるから、瑠璃は安心してのんびり幸せに生きていけばいいんだよ」
 そう。きみが失くしたもの、今も抱えているあまりに大切で重たいもの。わたしは到底一緒に背負ってあげられないから、代わりにそれら以上の大きくて優しくてふわふわとした愛とか楽しさとか祝福とかそういったものを、両手に抱えきれないほどにきみに分け与えると誓おう。
 それがわたしにできることだ。紅子さんにはできなかった、きみのためにできること。
「ねえ藍、それってもしかしてプロポーズ?」
「そのつもり」
「いいね。なんだかロマンチックでおれ好みだ。好きだな」
 瑠璃はわたしのプロポーズ的な何かに返事はせずに、なんだか上機嫌な顔をしたまま「ロマンチックで素敵だからそのプロポーズの仕方貰ってもいい?」とわたしに訊いてきた。
「は?」
「ねえ藍、たとえばハネムーンはどこに行きたい?」
「え? えっと、モルディブ」
「じゃあ目を瞑って、瞼の裏にモルディブの美しい海を思い浮かべてみて」
「ううぅん」
 なんのことやらわからないけれど、とりあえずテレビや雑誌で見たあの綺麗な景色を思い浮かべてみた。これぞ楽園だなあ。こんなところで日がな一日ぼうっと過ごしてどら焼きとかを食べていられたらどれほど幸せなことだろう。
「ではここで、瑠璃くんのマジックショー」
「お?」
「その綺麗な海を、おれのこの手に閉じ込めてみせましょう」
「あらあら」
 スリー、ツー、ワン。カウントダウンに合わせて目を開くと、本当に瑠璃の手の中にわたしが思い浮かべたモルディブの海の欠片が乗っかっていた。すげー!
「何これどうやったの! 本物の世紀のマジシャンは身近にいたんだ!」
「褒めてくれてありがとう。でもタネも仕掛けも藍がやったのと同じだよ。これ、アクアマリンって石なんだけど」
「聞いたことある」
 瑠璃が持っているアクアマリンという石は、透明な水色が綺麗な、本当に海を固めたみたいな宝石だった。わたしのラピスラズリと同じペンダントトップに加工され、細いチェーンの先でお上品にぶら下がっている。
「アクアマリンの和名は知ってる?」
「海石」
「違うよ。藍玉(らんぎょく)っていうんだって。藍の名前と一緒だ」
 瑠璃は、ペンダントを自分の首に着けてころんと胸元に転ばせた。きらきら光る、それは、まるで瑠璃の心に寄り添っているみたいだった。
「まさか藍と同じこと考えてたなんてね。おれもこの石が藍と一緒の名前って知って、持っていたくなってね。なんだかきみがいつでもそばにいてくれてるように思えてさ」
 胸元に手をあてながら空を見上げている瑠璃を、わたしはじっと見ている。
「生きていればこの先どこかで必ず別れはくるでしょう。でも、これがあればいつだって藍が隣にいて、寂しくないぞって言ってくれてるような気がしてさ。おれは失くしたくないものがいっぱいあって、でもきっとどうしたっていつかは失くしちゃうものもその中にはあるんだろうけど、なんかね、藍がいたら大丈夫な気がするんだ。おれの宝物がたとえきみだけになったとしても、きみさえいるなら、おれはもう、それでいいんだと思う」
 瑠璃が振り向いた。いつも広くまわりを見て、いろんなものを気にしている瑠璃が、時々わたしだけしか見ていないときがある。そんなときこの人はふわりと花が咲いたみたいに笑ってくれるのだけれど、その優しい表情がわたしは大好きなのである。泣きそうなくらいに、大好きなのである。
「でもさ、きっと藍が守ってくれるから、おれはもう大事なものを失くしたりなんかしないかもね。よろしくね。藍だけが頼りだ」
「まかせて。核爆弾からも宇宙人からも殺人ウイルスからも守るよ」
「うん。ねえ藍。おれにとって紅子は今でも特別で、その場所はきっと誰にも代えられないし、そもそもおれは弱虫だから、きみがしてくれることをどれだけ返してあげられるかわからないけどさ、代わりにおれの未来の全部をあげるよ。だからきみは好きにおれを誰より幸せにしてくれたらいいし、おれはのんびりきみの隣を歩いていくよ」
 これも縁だ、せっかくだし死ぬまで一緒にいよう。
 瑠璃はそう言って笑った。その顔がとても幸せそうだから、本望だなあとわたしは思う。そして気づくのだ。瑠璃のそばにいる限り、わたしも瑠璃と同率首位の宇宙一の幸せ者であるのだと。
 わたしと出会ってくれてありがとう。これまで生きてくれてありがとう。これからもそばにいてくれてありがとう。わたしは瑠璃と瑠璃を育んだ世界のすべてに感謝せずにはいられない。
 上等だ。どんな困難も不幸も強敵も災いもどんと降りかかってきなさいよ。わたしはそのすべてにすら感謝の気持ちを込めてバットで打ち返してやろう。不可能? そんな言葉はわたしと瑠璃に関わる森羅万象においてのみ存在しない。わたしはきみのためならあの星空だってこの手に掴むことができるし、なんならきっと世界だって創ることができるのだ。この世の理にすら愛を込めて喧嘩を売り、きみを永遠に幸せにしよう。
 それこそがきっと、わたしがこの世に存在し、きみと出会った意味なのだ。
「ねえ瑠璃、それってもしかしてプロポーズ?」
「そのつもり」
「ハネムーンはやっぱり宇宙旅行にしよう」
「いいね。火星あたりに七泊八日」
 手の中のラピスラズリを夜空にかざしてみる。こうして見るとあの空よりもこの石のほうがずっと綺麗だ。でも宇宙に行けばこの石の模様と同じくらいたくさん星が見えるのだろう。まあこんなものよりも、わたしの最愛の人のほうがずっとずっと綺麗だけれど。
 ラピスラズリのペンダントトップをステンレスのチェーンで首に留めた。一生着け続けるつもりはない。お風呂のときは外すつもりだ。ラピスラズリは水に弱いんだって。店員さんの説明を、わたしはちゃんと聞いているのである。
 何度も言うが、こんなものはただの気の持ちようなのだ。
 でも、たぶんこの石を、わたしは瑠璃の次に大事にするのだろう。なんとなく、そんな気がする。
「ねえ藍、おれってだいぶ、きみのこと好きみたい」
 うるせーよ知ってるっつーのわたしも好きだよ超愛してる。
 わたしは立ち上がって軽やかに雨どいを伝って飛び降りる。瑠璃が慌てて下を覗いた。もちろんわたしはきちんとベランダに着地している。ほっとした顔の恋人を置いて部屋に戻り、飾ってある写真の中の紅子さんにご挨拶をする。
 瑠璃もすぐに降りてきた。呆れながら笑う顔が最高に可愛くてわたしは早速幸せを実感する。
ぐうっと腹の虫が鳴った。胸はいっぱいだがお腹はぺこぺこだ。景気付けに、きみが作った無駄に美味しい豚汁でも、お腹いっぱい食べましょうか。

   『きみがため、星泥棒は世界もつくる』

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