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⑥
娘がね、私のイヤリングが欲しいって言ったの。
生意気でしょ、と言ってウィンナーコーヒーをこくりと飲む私の親友は嬉しそうに笑う。
両耳でピンクのビーズと透き通るガラスドームがじゃら、と鳴った。
結婚して出産して年を重ねても、彼女の笑顔には少女の面影が残っている。
そう?素敵じゃない。
そう言うと、まだまだあの子には早いわぁ、なんて間延びした声が返ってきた。
上機嫌じゃないか。
おしゃべり好きな親友に呼び出されたこの喫茶店は、私たちが学生の頃から続いている。
店内は昔と変わらず程よく静かで心地良い。
彼女が喋り、私が聴く。
何年経っても変わらない私たちのスタイル。
親友はピンクのそれを譲る気はさらさらないらしい。
代わりに青の色違いをあげるのだと言った。
これが母の愛か、と素直に感心して私はブレンドコーヒーを啜った。
我が家には子どもがいない。
はい、これ。と言われて視線を上げる。
お椀型にされた両手に、彼女のピンクによく似たピアスが乗っていた。
丸いビーズの色が左右で違っている。
ボルドーと、ベージュ。
お そ ろ い。
一文字ずつ口をぱくぱくさせた後のあどけない彼女の笑顔を見たら、急に鼻がつーんとした。
目が熱い。
ありがとう、と口に出したら泣いてしまいそうだったので、うん。とだけ返事をした。
彼女はもっとにっこり笑った。
私の気持ちも全部掬い上げていく、そんな笑顔だった。
peco 『ジャラビ』シリーズ