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①
柔らかい声の挨拶を背中で受けて左手の小袋に目をやる。
アクセサリーを買うのはいつぶりのことだろう。
吸い寄せられるようにお店に入って、立ち止まって、そこからは流れるような動きだった。
冷たい空気から逃れるようにスヌードを引き上げながら、試着していなかったことに今更気付く。
すん、と鼻を鳴らす。
白い息を吐きながら両手をポケットに突っ込んで歩く。
小袋は手首に通してある。
これ、『願い事』って言うんです。
そう言ってにっこり微笑んで名前を教えてくれた店員さんを思い返す。
なんとなく家に帰るまでの距離がもどかしくなって、ショーウィンドーを鏡代わりに着けてみることにした。
艶めく小粒のパールとぶら下がるフープがちらちらと揺れているのが見える。
勝気な白。
小さなお嬢様がいるみたいでなんだか面白い。
私を引っ張っていってくれそうだ。
揺れる円の縁を指でなぞると自然に口角が上がった。
願う前に良いことあったな、なんて。
近いうちに新しい口紅を買おう。
髪の毛も巻いて、スカートを履こう。
小さいお嬢様からお小言を言われないように。
今、私、すごくわくわくしてる。
Raro 『願い事』