④
後輩がうるさい。
店じまいをしてるっていうのに。
口じゃなくて手を動かしなさいよ、手を。
何が、せぇんぱぁ〜い、私もかっこよくなりたいですぅ〜だ。
この万年ゆるふわあざとい系女子め。
「じゃ、あとよろしく」
「えっ!先輩私の話聴いてくれないんですか!?」
「もう十分聞いたでしょーが。残りはあんたの仕事」
イヤリングを外しながら更衣室に向かう。
後ろから後輩が、先輩のケチー!と叫んでいる。
きっと後で可愛い顔をぶっすーとさせて私のことをジト目で見るんだろうな。
ケチで結構。
このイヤリングは仕事用だ。
仕事の行き帰りに着けているのはまた別。
じゃらじゃらごろごろして自由奔放な『おめでたいピアス』を私は着けている。
着けているとテンションが上がるし、ハッピーになれる。
おもちゃみたいなときめきがある。
うん。モチベーションって大事。
さて、うちの可愛い後輩は片付け終わっただろうか。
カバンから木琴のコロコロとした音が鳴った。
私のスマホ。
後輩からの着信。
何かあったのだろうか。
う、とか、わ、とか、おっ、とか単語にならない声を出しながらスマホを耳に当てる。
このピアスの時は電話が鳴ると焦る。
「も、もしもし!」
スマホを耳に当てながら更衣室から出ると、後輩がお腹を抱えて笑っていた。
「先輩がそのピアス着けてる時の電話の取り方、何回見てもツボ!」
「………(やられた!)」
「仕返し〜」
うふふと笑う後輩はやっぱりゆるっとふわっとしていて、そんでもってあざとい。
帰りの電車の中で、後輩と一緒にこのピアスに何色使われているのか数えてみた。
知らないほろ酔いのおじさんたちも入ってきて結構盛り上がった。
結局最後まで数え切れなかったけど。
楽しいなぁ!
そう言って顔の赤い見知らぬおじさんが笑った時、なんとも言えないほわりとした気持ちになった。
笑顔で1日を終えられるって素敵で、おめでたい。
だからこのピアスが大好きなんだ。
niidana 『おめでたいピアス』