
この辛さを、ロボットにどうにかしてもらえたら。
駆け出しのライターとして出会ったメンバーたちが、毎回特定のテーマに沿って好きなように書いていく「日刊かきあつめ」です。
今回のテーマは「#こんなロボットがほしい」です。
先月、飼っていた猫が亡くなった。老衰ではない。原因不明の心停止。9歳だった。人で言えば50歳を過ぎたころ。ほどほどに生きたが、死ぬには早い。体調面の不安は一切なく、その日もよく食べ、よく動いていた。最後にベッド脇で伏す姿を見たときも、珍しい格好で寝ているなとしか思えなかった。すでに心臓が止まっていた。最寄りの動物病院へ車を走らせたが、結局、どうにもならなかった。
しばらく、妻と二人で泣いた。ときに子どもも一緒になって、家の中で事あるごとに思い出しては、身を寄せ合って泣いた。ひとしきり泣くと涙が出なくなり、ただ徒労感のようなものだけが残り、むしょうに空しくなった。ぼんやりとした頭で、自分にここまで激しい情緒があることにも驚いた。
今回、身近な存在の突然の死を経験した感想は、こんなことそう何度も味わっていたら頭がおかしくなる、だ。
この辛さを、ロボットにどうにかしてもらうことはできないか。
身近な存在が死ぬから苦しいなら、死ぬことのないロボットを家族の一員として迎え入れれば、多少和らぐのではないだろうか。
そういうコンセプトのプロダクトが、すでにあった。
LOVOT(らぼっと)は、人と暮らし、人を癒すためのロボットだ。以前、我々マガジンメンバーのotakiさんが記事にしていたので覚えていた。
実証実験によれば、LOVOTと過ごした人は別名幸せホルモンとも呼ばれるオキシトシン濃度が高い傾向があり、LOVOTとふれあうとストレスホルモンが減少するとしている。これらは、犬や猫とふれあうことで得られる効果とある程度共通している。
この結果を見る限り、家族の一員としてロボットを迎えれば、ペットを迎えるのと似た効果が得られることは確かそうだ。そして、(そう簡単には)死なない存在でもある。
災害に遭ってしまった時、LOVOTはどうしたらいいの?
ネストがインターネットに接続されていれば、災害に遭う前までのLOVOTの記憶はクラウドにバックアップされています。
たとえLOVOTのからだがなくなってしまっても、記憶は残っていますので、ご家族の皆様がお元気であれば、必ずまた会うことができます。
公式の説明によれば、ハード(身体)が寿命を迎えても、ソフト(記憶)を引き継げるようだ。
「そう簡単には」とあえて前置いたのは、厳密に言えばクラウドのデータは企業側に権限があるだろうし、サービスが終了すればメンテナンスもできなくなるので、そういう意味で現実的な寿命はあるからだ。ペット型ロボット「AIBO」がそうだった。
1999年に販売を開始したAIBOは、2015年にメーカーサポートが終了。その後、2018年に「aibo」としてプロダクトは復活したが、新型アイボ発表の晴れ舞台で、旧型の修理の再開はしないと宣言された。
これは、黎明期だからこそ起こる問題とも言えるだろう。今後、家庭用ロボットが普及し、記憶データの引継ぎが当たり前になれば、ロボットの実質的な死はほとんど起こらなくなる。新型aiboも同じ仕様だ。それでも絶対に死なない存在とは言い難いが、肉体的な死から逃れられない生命よりは、ずっと長い寿命を持てる可能性がある。
では、猫を亡くした私たちがLOVOTやaiboのようなペット型ロボットを選ぶかというと、たぶんそうはならない。ペットそのものを飼う前であれば有力な選択肢になったかもしれないが、ペットとの暮らしを経験したあとで彼らを選ぶのは、少し怖い。懐かれるタイミング次第では、いてほしくないとすら思ってしまうかもしれない。それが命ある相手なら感情を抑える努力もするが、ロボット相手に抑える自信はない。少なくとも今はまだ、彼らを飼えない。
ではロボットの出る幕はないのかと言えば、そんなことはない。ロボットには質の良いカウンセリングを覚えてもらい、遺族のメンタルをケアする「グリーフケア」を提供してもらいたい。
腕の良いカウンセラーは予約がいっぱいか、単価が高いか、あるいはその両方で、治療が継続しづらい現状がある。その点、カウンセリングロボットが十分に配備されれば、低価格で24時間カウンセリングが受けられる未来もあり得る。
しかし「質の良いカウンセリングを提供できるロボット」がもしも存在したら、カウンセリングを受けるうちに親愛の情が芽生えることは想像に難くない。ロボットをカウンセラーとして信頼することに問題がないと、私は言い切れない。
思ったよりも、ロボットに任せられる領域はまだ狭いのかもしれない。
執筆:市川円
編集:アカ ヨシロウ
ジャンルも切り口もなんでもアリ、10名以上のライターが平日(ほぼ)毎日更新しているマガジンはこちら。