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妻が贈ってくれた絵本の話
今回は、昨年の私の誕生日に妻が贈ってくれた「1冊の絵本」について紹介します。もらって大変うれしかった絵本なので、パートナーへのプレゼントをお探しの方はぜひ参考にしてみてください。
というわけで、どうぞ。
妻が贈ってくれた絵本の話
どん。
こいつを誕生日にもらいました。
妻曰く、出会ってからこれまでの感謝の気持ちを込めてくれたのだそうです。
もらったときの私のリアクションは、「……ほう」みたいな感じだったと思います。ようするに、何のことやらさっぱりでした。
この絵本のことも、作者のシルヴァスタインさんのこともまったく知らなかったので、とりあえず帯の「村上春樹」という文字を見て「ベストセラーか何か?」と思ったのを覚えています。権威に踊らされてますね。
帯にも少し書いてありますが、この絵本は1970年代後半に出版された「ぼくを探しに」という絵本の続編にあたる物語で、2019年に村上春樹さんの手で翻訳されたものです。
この翻訳版がベストセラーかどうかは分かりませんし、そもそもベストセラーの基準もよく分かりませんが、40年もの時を経て改めて翻訳されていることから、少なくとも原著が非常にロングセラーの絵本であることは疑いようがありません。
さて、原著は40年前に出版された古い絵本ですが、その内容はというと、まったく古さを感じない普遍的なテーマを扱っています。
そのテーマとは、「依存と自立」です。
「はぐれくん、おおきなマルにであう」のあらすじ
これは、「はぐれくん」の旅の物語です。
三角形のはぐれくんは、自分がぴったりとハマる理想の相手を探していました。
三角形の自分ひとりではころがれないので、誰かにどこかへ連れて行ってほしかったのです。
しかし、理想の相手にはなかなか出会えません。いい具合にハマれそうな相手に出会えても、なぜだかうまく行きません。
しばらく理想の相手を探し続けたはぐれくんは、やがて、欠けたところのない「おおきなマル」に出会います。
理想の相手を探し求め、どこかへ連れて行ってもらうことを期待していたはぐれくんに対し、おおきなマルは
「自分でころがってみたかい?」
と尋ねます。
「カドがあるからころがれないよ」と答えるはぐれくんに、おおきなマルは「カドはとれてくるものさ」「かたちはだんだんかわっていくものだよ」と返します。
そして、「ぼくはもういかなくちゃ」と、ひとりでころがっていってしまいました。
はぐれくんは、おおきなマルが去ったあとも、しばらくそのままじっとしていました。
でも、しばらくすると、はぐれくんは動き始めました。おおきなマルの言葉をきっかけにして、ころがるために少しずつ前へ進み始めたのです――。
「はぐれくん」の依存と自立の物語
この物語のテーマが「依存と自立」だと私が考える理由、伝わったでしょうか。シンプルな絵とテキストでつづられる物語ですから、解釈はもちろん人それぞれです。
でも、妻がこの絵本を贈ってくれた時点で、私にとってはぐれくんは妻にしか見えませんでした。
そんなはぐれくんが、おおきなマルに出会い、自分でころがる方法を模索し始める。それは私たち夫婦にとって、依存から脱却する自立の物語であり、読んでいる間、はぐれくんが愛しくてたまりませんでした。
誰かに期待していたのではいつまで経っても満たされない。自分が変わらなきゃ。そういう気づきを、おおきなマルは与えてくれたのでしょう。そして、妻にとって私がおおきなマルになれたのだとしたら、なんと素敵なことでしょうか。
この絵本の存在こそ知らなかったものの、おおきなマルのようにありたいと考えながら行動してきたので、絵本に込められた妻からのメッセージを理解したときの喜びはひとしおでした。
あなたにとっての「おおきなマル」へ
さて、自慢めいた思い出話は以上なのですが、そんなありがたい絵本をもらった私がお伝えしたいのは、ぜひあなたにとっての「おおきなマル」と思う存在へ、この絵本を贈っていただきたいということです。
それというのも、今回このnoteを書くにあたって絵本を読み直せば読み直すほど、この絵本のことが、はぐれくんのことが、そして妻のことが――どんどん大切に感じられるのです。
おそらく、最初はストーリーを追うのに必死だったのが、今は完全に「はぐれくん=妻」「おおきなマル=私」のつもりで読んでいるので、感情の移入度合いが違うのでしょう。
読めば読むほどはぐれくんを好きになる感覚は、ちょっと不思議です。いまとなっては、プレゼントしてくれた妻よりも、私の方がこの絵本に対して思い入れがあるんじゃないかと思えるほどです。
もしもあなたに「おおきなマル」と思える存在がいるなら、ぜひこの絵本を贈ってみてください。きっとその人は一生喜びますし、あなたがこの物語を大切にするよりもはるかにこの物語を大切にしてくれると思います。
そして何より、あなた自身のことをより大切に感じるはずです。
執筆:市川円
編集:彩音
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