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胸糞が悪くなりたいときにおすすめの漫画

駆け出しのライターとして出会ったメンバーたちが、毎回特定のテーマに沿って好きなように書いていく「日刊かきあつめ」です。

今回のテーマは「#最近読んだ漫画」です。

『グリマス』を読んだ。

「最近読んだ漫画」というテーマで文章を書くにあたって、真っ先に思い浮かんだのがこの作品だった。でも、書けなかった。いや、書きたくなかった。この作品について書くこと自体、なんだかはばかられた。この作品を取り上げることによって、誰かの気分を害すると思ったのだ。

だから、他の作品について書けないかと1か月ほど思案してみた。しかしどうにもうまくいかない。別の作品をテーマとして3つの文章を書いたが、どれも書き切るほど集中できなかった。

結局、最近読んだ漫画の中で一番印象に残っているのはこの作品だと認めるしかないらしい。


本作は「笑顔強要マンション・サバイバル・ホラー」をうたっており、とあるマンションで繰り広げられる惨劇を描く。そのマンションには「オーナーの前では必ず笑顔でいること」というルールがあり、破るとオーナーのもつ不思議な力でひどい目にあわされる。

あらすじはこれだけだ。見どころは、オーナーが住民を処するシーンにおける、住民の反応だろう。独特のタッチで描かれる鬼気迫る表情は、不思議な説得力がある。またオーナーが設定する処罰方法もいちいちタチが悪いもので、終始「試されている」と感じた。これは決して悪い感覚ではない。

なお、ペナルティの詳細はここでは触れない。読みたい人は読んだらいいし、上掲のサムネイル画像やここまでの説明から不穏なものを感じる人は読まない方がいい。これは読みたい人だけが読むべき作品だ。間違っても布教するような類のものではない。

物語が進むにつれ、オーナーの力が一体なんであるのか、オーナーがなぜこのような仕打ちを住民に強いるのか、といった背景が開示されるが、逃げ惑う住民と虐げるオーナー、という支配構造は変わらない。ただただ、オーナーが住民に与える苦痛のバリエーションだけが増えていく。

全21話、単行本3冊という短さで本作は完結している。それくらいの長さで終わる作品ももちろん中にはあるが、作者がSNS上に挙げたコメントによると、先の構想はあったらしい。その話が真実であれば、これは打ち切りということになる。

売り上げや閲覧数が編集部の設定する水準に満たなかったか、あるいは内容に対して想定以上のクレームが入ったか。打ち切りの理由はその辺りと思われる。しかし、いくらクレームが入ったとしても売り上げが十分ならここまで早期の打ち切りは考えづらいから、まあやっぱり売り上げが足りなかったのだろう。

そもそもホラー漫画は売り上げが見込めないジャンルと聞く。はっきりとした数字は見つけられなかったが、電子書籍に関するとある資料によれば、ホラー漫画が好きな人の割合は、恋愛ものやバトルものの3分の1ほどのようだ。体感的には、恋愛ものやバトルものの3分の1もホラー漫画は売れないと思う。そんなジャンルで連載すること自体、すごいことなのかもしれない。

それに個人的には、全21話という短さで、住民たちに一切の救いがないまま終わった本作の結末も嫌いではない。胸糞が悪くなる漫画としてしっかり走り切っていて、これはこれで好きだ。

ちなみに私はこの作品を、マガポケという漫画アプリで知った。

漫画アプリを利用するようになってから、これまでであれば読まなかったであろう漫画を読む機会が増えたのは純粋に嬉しい。

売り上げが見込みづらいジャンルで果敢に挑戦した作者や担当者、この漫画をアプリに掲載してくれた編集部には感謝したい。

胸糞が悪くなりたいときに、ぜひご覧あれ。

文:市川円
編集:アカ ヨシロウ


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