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1年前に借りた千円を返して、心のしこりは消えたのか。

駆け出しのライターとして出会ったメンバーたちが、毎回特定のテーマに沿って好きなように書いていく「日刊かきあつめ」です。

日刊かきあつめの投稿数1,000記事目前を祝して、今回のテーマは「#1,000」です。

先日、産業カウンセラー養成講座の同期とお酒を飲む機会があった。集まった理由は、その中の一人が飲食店を始めることになったからである。お店のプレオープンということで、有志で集まり、お祝いをした。

私も参加したのだが、正直、最初は行くかどうか迷った。住んでいる場所から遠いこと、体調が万全ではない妻に子どもを任せることへの気がかりなど、理由はいろいろあったけれど、最終的には「1年前に借りた千円を返す」という小さなタスクを果たすために参加を決めた。

家へ着く時間を考えると、早めにお暇する必要がある。まだ料理も出そろわないタイミングで「もうそろそろ、帰ります」と声を発するのは、私にとってすこし勇気が必要な行為だった。

帰り支度をする中、会計のために財布を取り出し、「そういえば、あのとき借りたお金覚えてます?」と、そのとき思い出したかのように声をかける。相手は全く覚えていなかった。彼が訝しがるのにも構わず、「まあまあ受け取ってください」と押し付けるように千円札を渡し、そのまま逃げるようにお店を後にした。

1年越しに借りを返し、さぞすっきりするかと思えば……案外そうでもない。胸中は複雑である。

せっかくのお祝いの場で空気も読まず自分の都合を押し通してしまったこと、その目的が先行しすぎてろくにお祝いの言葉を伝えられなかったことなど、あれこれ考えて、いまだに気をもんでいる。こんなことなら、最初から借りたお金のことなんて忘れたふりをしていればよかったかな、などといった思いはぬぐい切れない。

それでも、私にとって千円を返すことは、自分の中にあった小さな重荷を下ろすために必要な行為だった。それがどんなに独りよがりだったとしても、自分を納得させるためには、やらなければならないこともある。たかが千円、されど千円。

とりあえず、今後はどんな少額でもお金を借りないように気を付けようと思う。

執筆:市川円
編集:真央


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