投資界隈のうさんくさい事件を紹介する
最近、投資メディアに参画する機会があり、日々、さまざまな投資についてリサーチしている。
調べたり、話を聞いたりする中で常々思うのが、「この業界うさんくさい情報多すぎるだろ」ということである。平たく言ってしまえば、詐欺みたいな商品やサービスが横行しているのだ。私自身は投資に回す金もないので心配ないが、友人・知人が被害にあったらと思うと結構ゾッとする。
そこで今回は、やるならやるでもうちょっとちゃんとした投資に手を出そう、という注意喚起の意味を込めて、個人的に興味深かった投資界隈のニュースをいくつか紹介したい。こういう特大の地雷を避けて、借金したりせずに現実的な範囲で投資すれば、何に投資しても良くも悪くも大差ない。
①無登録で約2万人から計800億超を集金
見出しの通り、無登録で、2万人近い人々から合計800億円以上を集金したというニュースだ。
グローバルインベストメントラボという会社で、1口100万円から出資できる海外の金融商品「スターリングハウストラスト(以下、SHT)」を販売しており、販売員(保険代理店的なもの)も400人以上いたようだが、そもそも国に出すべき届を出しておらず、無許可で業務を行っていたのである。それを受けて、業務停止命令が東京地裁から下された。
これだけなら「ちゃんと届くらい出しておけよ」という話に思えるかもしれないが、この件の本質はそこではない。そもそも同社の取り扱っていた金融商品が、実体のある投資スキームだったかどうかが怪しいのだ。知っている人は「ポンジスキーム」で通じるかもしれないが、なんのこっちゃという方のためにさらに掘り下げてみよう。
出資を募る金融商品は基本的に、集めたお金を何らかの方法で運用して、生まれた利益を分配することで出資者に還元する仕組みだ。身近なところでは、つみたてNISAなどで購入できる「投資信託」なんかもこれにあたる。しかし今回のSHTは、運用している痕跡がない。
SHT自体のホームページも実際に見られるので興味があればのぞいてみていただきたいが、ペラペラと語っている割に具体的な内容がまったくない。以下の内容は、トップページに記載された英文をDeepLで翻訳したものである。
文章の薄っぺらさはともかく、ここで重要なのは、出資金を運用していないならどうやって出資者に還元していたのか、という点である。
SHTは月1%、年12%の配当をうたっていた。つまり、100万円出資すれば毎月1万円が振り込まれる。このお金を一体どうしていたのか。考えられるのは、後から出資した人の出資金で支払っていた可能性が高い。この仕組みをポンジスキームという(ポンジという詐欺師が開発したから)。
厳密にいうと、SHTがポンジスキームだったかどうかの答えはまだ出ていない。2024年6月に業務停止命令が下され、続報はまだ出ていないのだ。
だからこの件から学びたいのは、「ポンジスキームには手を出すな」ではない。ポンジスキームと確定するのはすべてが終わった後で、その見分け方では被害を未然に防げない。実際、約2万人が、合計800億円もの出資金を預けているわけで、そこには何らかの魅力があったからだと考えたほうが理解が捗る。何より大きいのは、年12%の配当が実際に出ていたことだろう。
身に着けたいのは「ポンジスキームは危ない」などの小手先の知識ではなく、年12%という配当がどれだけ異常かという感覚だ。年12%の配当を出しながら運用を続けるためには、最低でも年12%以上の利益を出し続ける必要がある。年12%以上の利益を常に出し続けるということは、相応のリスクを取らなければならない。そんなリスクの取り方が何年も続くわけがない、と考える力を身に着けたい。
あるいは、仮に年12%の配当を無理なく出せるだけの利益を上げ続ける運用方法があったとして、なぜそんな超優良商品に自分が出会えているのか、という疑問を持ちたい。
投資は基本的に資金が多ければ多いほど有利で、出資を募る場合もふつうは大口投資を検討する。小口投資を募るのは、そのほうが都合がいいからだ。目の肥えた大口投資家を相手にするよりも、目の曇った小口投資家は騙しやすい。もちろんそれがすべてではないが、そういう視点は持っておきたいところである。
なにより怖いのは、この商品が2015年3月から2024年5月まで、10年近くもの間、販売され続けていた点である。それだけ長期間販売されれば、その点だけをもってしても、ある程度信頼に足るのではないか、と思ってしまう人も出てくるだろう。詐欺だったらすぐ捕まるはず、なんて考えは捨てなければならない。この界隈には詐欺まがいの商品なんていくらでも転がっているのだ。
②建設許可を取ってない土地を開発するとうたって集金
こちらもさきほどとちょっと似たケース。「みんなで大家さん」という不動産小口化投資商品を販売していたのだが、その内容にもろもろ問題があり、業務停止命令を下された。
不動産小口化投資商品とは、みんなから集めたお金で施設を作って、そこで出た利益を分配する、といったイメージの投資商品。居住用マンションを立てて家賃で利益を出すパターンも多いが、今回のケースではショッピングモールなどを含む大型施設の開発を、成田空港近くで計画していたらしい。
ところが、計画に含まれている土地の一部が建設許可を取っていなかったり、計画が途中で大幅に変更されたり、などなど問題が多く、業務停止処分が下されたのである。
内容的には先ほどのSHTに比べればマシなほうで、まあおっちょこちょいな部分はあったかもしれないが、一応出資金を運用する気があったことはうかがえる。ちなみに、実際には工事計画自体もかなり大幅に遅れていて、本当に完遂するのか?(完遂する気があるのか?)といった疑念も引き続きあるようだが、それは今回はおいておく。
出資者にとって大変だったのは、業務停止命令が出されたあとだ。この発表を受けて一部の出資者がこぞって解約を申し込んだ結果、業務が停止になってからわずか13日間で、1722人から総額95億6100万円の解約申し入れがあったらしい。ちなみにこの計画の累計募集総額はおよそ2000億にのぼるので、それに比べればまあ微々たるものと言えなくもない。
問題は、100億円の解約請求に運用側は対応できるのか、である。答えは、できたとしてもとても時間がかかる、だ。どれくらい時間がかかるかというと、公式発表では「6カ月から12カ月を要する」としている。これが守られる保証もないので、少なくともこの数倍はかかる可能性を想定しておくべきだろう。
この件で学びたいのは、投資したお金がすぐに戻ってくるとは限らない、という点だ。
だから、絶対に生活に差し障る金額を投資してはいけない。
③サブリースの解約を弁護士に依頼したら着手金だけ持っていかれた、という噂
これは「うわさ」レベルの話なのだが、こういう可能性もある、ということで紹介したい。
サブリースについて説明するために、まず不動産投資そのものの説明から入ろう。不動産投資では、不動産を購入して、入居者を募って、家賃収入によって利益を得る、というのが基本の仕組みだ。このとき、入居者の募集を含むもろもろの作業をオーナーが一人で行うのはなかなか厳しい。サラリーマンが副業で不動産投資をやる場合などは特にそうで、入居者募集などの業務は専門の管理会社に依頼するのが一般的だ。
ところで、不動産投資でネックになるのが「空室リスク」である。それまで入居していた人が退去してから次の入居者が決まるまでの間、家賃収入が途絶えてしまう。短くとも数か月、人気のない物件ならもっと長い期間、空室が続く。ローンを組んで物件を買った場合、その間もローンの支払いは続く。もともと家賃収入を当てにしてローンを組んでいれば、空室期間が長引いただけで返済に支障が出ることもある。これが空室リスクだ。そして、空室リスクの対策として勧められるのが「サブリース」である。
サブリースでは、「不動産会社がオーナーから部屋を借りる」契約を結ぶ。そして借りた部屋を、不動産会社が客に貸し出すのである。一般的な範囲での管理を依頼する場合とサブリース契約する場合とで、やっていることは大きく変わらない。だが、一部の不動産会社(サブリース会社)はこの契約を強く勧める。理由は、サブリースにすることでより多くの手数料が取れるから。もう一つの理由は、契約が変わることで、適用される法律が変わるからだ。
前述のとおり、サブリースでは「不動産会社がオーナーから部屋を借りる」契約を結ぶ。少し言い方を整理すると、「不動産会社が借主、オーナーが貸主」の賃貸契約を結ぶということである。賃貸契約では、借主が有利になるように法律が配慮されていて、たとえば大家の横暴で借主が追い出されたりしないようになっているのだ。これを逆手にとったのがサブリース契約で、法律によって借主である不動産会社が保護されるため、貸主であるオーナーがサブリースを解約しようとしても解約できないのだ。サブリース物件はサブリース契約を解除しないと売却もままならないので、ローンの返済が苦しくて不動産投資をやめたくなってもやめられず、オーナーは頭を抱えることになる。
困ったオーナーの頼る先が弁護士なのだが、そこで今回の問題が発生する。先に触れたとおり、サブリース契約が解約できない理由は法律の仕組みが原因なので、いくら法律の専門家である弁護士でも通常は太刀打ちできない。だから、良識のある弁護士ならそもそも引き受けないのだが、そんな中で引き受けてくれる仏のような弁護士がたまにいる。いざ依頼する段になり、着手金を支払ってみたものの、一向に話が進まない……そんなケースがあるというのだ。
不動産関連ではないが、この状況に酷似した詐欺事件がある。それが「国際ロマンス詐欺における二次被害」だ。
国際ロマンス詐欺の被害者が依頼を申し込んだところ、着手金を支払ったにもかかわらず、待てど暮らせど進展がない。そんなケースが相次ぐ中、被害金回収業者に弁護士名義を貸したとして、弁護士が逮捕されるケースが出てきた。弁護士から名義を借りて、無資格の業者が着手金を掠め取ることを目的として詐欺をはたらいていたことがはっきりしたのだ。
国際ロマンス詐欺の場合、犯人が海外送金してしまうケースが多く、こうなると弁護士でも手が出せない。こちらも基本的にやるだけ無駄なため、依頼を受けないか、受けるとしても「やっても無駄な可能性が高い」と念押しする。
良識ある弁護士ならまず依頼を受けないような依頼をあえて受けるという点で、国際ロマンス詐欺における二次被害と、サブリース解約のケースはよく似ている。
「サブリース解約の着手金詐欺」は私の観測する範囲ではうわさの域をでないが、国際ロマンス詐欺において二次被害が発生しているのは事実だ。このことから言えるのは、弁護士のような誠実なイメージの強い専門家ですら、詐欺の片棒を担ぐことがあるということである。
おわりに
今回紹介したものなんて氷山の一角に過ぎないけれど、うさんくさい世界の一端でも感じ取ってもらえていたらうれしい。
冒頭では「もうちょっとちゃんとした投資に手を出そう」としたが、致命傷さえ避ければ、個人的にはどんな投資に手を出してもいいと思う。
致命傷というのは、要するに借金で首が回らない状態のことだ。そこまではならない、と思うかもしれないが、その道の専門家たちはあの手この手でお金を掠め取ろうと狙っている。例えば不動産投資の世界では、サブリースのように、契約の穴をついて数百万円単位で損をすることも珍しくない。
皆さんくれぐれも致命傷だけは避けて、良い投資ライフを。
文:市川円
編集:アカ ヨシロウ
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