「尻の穴が小さい」ってどういうこと?
度量が小さい人に対して、「尻(けつ)の穴の小さい人だねえ」とか言いますが、あれっていったい何なのでしょう。気になったので調べてみました。
※「尻」という漢字は本来「しり」と読みますが、この記事では筆者の独断と偏見により「けつ」を推奨しています。なんとなく「けつのあな」のがしっくりくるので。
「尻の穴が小さい」とは
まずは言葉の意味から見ていきましょう。「尻の穴が小さい」を辞書で調べると、意味は次の通りです。
度量がせまい。小心である。(大辞林 第三版)
「度量がせまい」とは、ひらたく言えば心がせまいこと。人の事情や言葉を受け入れず、他人に対する思いやりがないことなどを指します。また辞書によっては、ケチな人のことを含めるものもありました。
ちなみに対義語として、「尻の穴が太い(広い)」という言い回しもあるようです。こちらは「度量が広い、大胆である」といった意味があり、転じて「図々しい」の意でも用いられるとのこと。
「尻の穴が小さい」の由来
続いて言葉の由来です。なんで「尻の穴が小さい」という表現が、度量のせまさや心のせまさを表すようになったのでしょう。
調べてみたところ、どうやらはっきりこれと言える定説があるわけではなく、いくつかの説があるようです。
①「出すものが小さい人はケチだから」説
1つ目は、「出すものが小さい人はケチだから」説。
尻の穴が小さいと出すものが小さい、つまり「出すお金が小さい(少ない)」ことから、尻の穴が小さい=ケチと考えられるようになった、という説です。
検索して真っ先に出てきたのがこの説で、ネット上ではこの説が主流のようでした。
しかしこの説では、「尻の穴が小さい=ケチ」の意味は説明できているものの、度量のせまさとはあまり関連がないように思えます。
「尻の穴が小さい人」という表現が用いられる場面を考えてみても、「ケチな人」より、「度量のせまい人」の方が主要な意味なのではないでしょうか。
たとえば「他の男と食事に行ったくらいでグダグダいうなんて、尻の穴の小さい人だねぇ」みたいな。スナックのママとかが言ってそうなイメージです。
②「フロイトの影響」説
2つ目は、「フロイトの影響」説。
フロイトは精神分析学の創始者として有名な精神科医ですが、「尻の穴が小さい」という言い回しも、彼の確立した概念に影響を受けたものとする説です。
フロイトの主張する「5つの心理性的発達理論」の中に、「肛門期」という段階があり、この段階における教育次第で、将来ケチになるかどうかを左右するのだと言います。
急に肛門期とか言われても何を言っているかよく分からないと思いますが、調べたわたしもよく分かっていないので安心してください。とりあえず用語から「けちと尻(けつ)」の関連は垣間見えたものの、やっぱり度量のせまさと尻の穴の大きさの関連は見出せませんでした。
ちなみにこの説に関しては、解釈云々以前に、客観的に正誤を判断する方法があります。
フロイトの精神分析が日本に導入されたタイミングと、「尻の穴が小さい」という言葉が使われ始めたタイミングが合致しなければ、そもそも成立しない説なのです。
この点について結論から言うと、「尻の穴が小さい」という言い回しはもっと古くからあるようでした。物的証拠からしても、解釈からしても、やや弱い説と言わざるを得ません。
③「穴が小さいと将軍の要望に応えられないから」説
3つ目は、「穴が小さいと将軍の要望に応えられないから」説。
家光公や綱吉公など、徳川家の一部の将軍は男色家で知られており、文字通り「穴が小さい」と将軍の要望に応えられないことから、このような言い回しが広まったとする説です。
男色家の将軍さまの要望とはつまるところ、夜のお相手ですね。尻の穴が小さいと、将軍さまの将軍さまを満足に受け入れられないわけです。
この説は、江戸時代からこの言い回しがあったことを示すもので、②を否定する材料のひとつでもあります。
真実のほどはさておき、個人的に①や②の説に比べてかなり「度量のせまさ」に迫るエピソードで、納得感のある由来だと感じました。
身もふたもなくていいなぁと思います。個人的にイチオシの説ですね。
④「器の大きさをソレの大きさで示したから」説
4つ目は、「器の大きさをソレの大きさで示したから」説。
三国志の時代、器の大きさをソレの大きさで示したという逸話があり、そこから来た言い回しではないか、とする説です。
たくさん出せる人は器も大きい、みたいな解釈のようですが、ざっと調べた限りは該当するエピソードを探し当てることができませんでした。それらしいエピソードさえ見つかれば、意外と有力な説のひとつと言えるのではないでしょうか。
ただしこの説に関しては逆説的で、「尻の穴が小さい→度量がせまい」ではなく、「度量がせまい→尻の穴が小さい」の順で解釈されているのが気になります。
「尻」にまつわる他の慣用句から考える
4つの説が出たものの、いずれも明確なソースがあるわけではなく信ぴょう性に欠けます。ここからは少し方針を変え、他の情報を集めることにしました。
まず、「尻」にまつわる他の慣用句の意味や由来を調べて、そもそも「尻」が日本語のなかでどのような意味で使われているのかを探ります。
「尻」をそのまま尻の意味で慣用句化しているもの(尻に敷かれる、尻に火が付く、など)は除外して、何らかの比喩表現として「尻」が用いられているもの(尻ぬぐい、など)を抜粋しました。
・尻が割れる(尻を割る)=悪事が露見する
・尻が来る=苦情や談判を持ち込まれる。他人の尻拭いをする羽目になる
・尻の持って行き場がない=不満や苦情を訴える所がない
・尻を持ち込む=問題の後始末を他の人に頼む
・尻ぬぐい=他人の失敗などの後始末をする
並べてみると、明らかに「尻=よくないものの象徴」として使われているケースが多いことが分かります。ちなみに尻ぬぐい以外は今回初めて知ったものばかりだったんですが、こんなに尻にまつわる慣用句ってあるんですね。
しかしこの法則に従って考えると、「尻の穴が小さい」方がよくないものを出す量も少なく済むのではないでしょうか。
あるいは、「尻の穴が小さい」とよくないものを溜め込んでしまう、といったニュアンスなのかもしれません。
【尻(けつ)論】結局どれが正しいの?
調べてみたけつ論(これが言いたかっただけ)は、結局どれが正しいかはさっぱり分かりませんでした。
どの説もソースらしいソースがなく、Q&Aサイトなどでごく少数の人が回答しているのみのため、どの説も信ぴょう性に欠けます。
「調べてみたけど分かりませんでした」は悔しいので、念のため別の言語にも目を向けてみたのですが、こちらもほぼ収穫はなし。とりあえず英語には、「尻の穴が小さい」をそのまま訳す言葉はないようです。
自分なりのけつ論としては、やはり言葉の持つ印象を重視して考えたときに、「狭量」や「受け入れられない」といった意味が強いように思うため、③「穴が小さいと将軍の要望に応えられないから」説を支持します。
何か情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、ぜひご一報ください。
編集:アカ ヨシロウ
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