【4社比較】 漫画原稿用紙描き比べ 【レビュー】
はじめに
どうもΣ田(えむた)です。
最近アナログで漫画のペン入れをしているのですが、はじめに手に取った原稿用紙が自分に合わなかったのをきっかけに様々な原稿用紙を試していくようになり、気づいたら4社の原稿用紙の個人的レビューが集まってしまいました。
ペンは試し書きできても紙を試し書きできるお店は私の観測した範囲ではほとんどありません。実際自分が原稿用紙を探すときもデータを集めづらく苦労&場当たり的な浪費をしてしまいました。
せっかくなのでまとまった詳しいレビューを書いて、「結局どの原稿用紙がいいのか」「何だか今使ってる用紙が気に入らないんだけどどれに乗り換えたらいいのか」などの悩みを持つ人の役に立てたいと考えました。
前提:えむたの作業環境、画材の好みについて
手汗が多めの体質(指ぬき手袋は必須、念のため当て紙。べらぼうに多い訳ではなく標準の範囲だと思います)
つけペン(カブラペン、丸ペン)、ミリペン、筆ペン(PILOT瞬筆)を使用
インクはPILOTの製図用インク
トレス台での作業がデフォルトのため、原稿用紙は135kgではなく110kgのものを使用することが多い
カスレを多用した画風が好き
前提2:えむたの使用原稿用紙の変遷
「マルマンクロッキー」のペラペラの紙に落書き(ペン入れ)して遊んでた。すっかり使い心地に慣れる
「DELETER (デリーター) 」の原稿用紙110kgを手に取るも、インクに合わず
「IC(アイシー)」の110kgを試す
「アートカラー」の135kgを試す
「MAXON」の110kgを試す
今回は2〜5のレビューをします。
順番は前後しますがご了承ください。
サイズは全てB4になります。
【主な評価点】
・枠線の印刷について
・質感、描きごこち
・滲みにくさ
・紙の丈夫さ
・黒が綺麗に出るか、etc
【注意】レビューは完全に個人の感想になります!!使う道具や本人の体質、筆圧、好みによっても使用感は大きく変わるため、あくまでいち個人の意見として緩く受け取ってください!
また、レビュー中で「最も」などの文言が使われていた場合それはこの4種類の中で最も、という意味であり、市販の原稿用紙全てを含む訳ではありませんのでご了承ください。
先に結論(最後にもほぼ同じこと書いてます)
IC…ツルツル、安定の高品質。滲みの心配ほぼゼロ
アートカラー…優しくて快適な描き心地
マクソン…驚異的ガリガリ
デリーター…ICの下位互換
それでも文章だけだと選べないという方は、お金に余裕があれば以下をお勧めしたいです。↓
まずはIC
ICのツルツルが合わなければアートカラー
さらなるガリガリを求めるならマクソン
アイシー漫画原稿用紙 110kg
抜群の質の良さと安定性、迷ったらこれ
この紙の印象を総評するとこうなります。さすがプロの漫画家や漫画家志望の方のTwitterを見るとほとんどの場合使われている(気がする)原稿用紙なだけあって、基本的に死角がありません。少し値段は高いのですが市販のものではもっとも高品質であると考えられます(アシさんをやっている友人談)。しかし、人によっては若干合わないポイントや弱点もある紙な気がしますので詳しく書いていきます。
見た目
他の原稿用紙と比べて明らかに黄色いです。目に優しいのかもしれない。
何より特筆すべきは枠線の印刷の濃さです。
もっとも薄いデリーターの枠線の不透明度を10%としたらこっちは50%はあります。
当然スキャンの時に濃く出てしまいます(弱点1)。
アイシーの困る点を挙げるとすればまずこれが一番に出ると思いますが、気にならない方もいると思うのでそこは使ってみて確かめてください。(クリスタなどで綺麗に消す方法あれば教えていただきたいです。)
描き心地:ツルツル
4枚の中では群を抜いてツルツルの紙質で、描いてみても非常にツルッとした手触り。ペンの引っ掛かりもなく、最もストレートにペンストロークが出る紙だと思います(クリスタの初期Gペンとかでぬるーっと描いてるような…つけペンにおいては全てがちゃんとした濃さで紙に乗ります)。細い線も滲んだりすることなくスッとそのままの太さで出ます。非常に丈夫な紙で、繰り返し同じ場所をつけペンでいじっても紙がボロボロになりにくいです。
ただし、描き心地においては後述のアートカラーの方が快適という方もいらっしゃる(自分がそう)と思うため、一番と定めることはしません。
ただ、このツルツルの紙の上にインクが「乗る」という感じが合わない人には気持ち悪く感じると思います(自分がそう)。
なにしろこの性質によってミリペンの黒が綺麗に出ません(弱点2)。
細いものだと顕著で、黒というより灰色になります。
スキャン時には何の問題もありませんが、描き途中で「仕上がりのイメージが持ちづらく描きにくい…」と感じる方には、「インクが乗るのではなく、染み込む」印象のアートカラーを試してみることをおすすめします。
またツルツルのため狙ったカスレを出すのが難しい印象ですが、私の技量の問題のような気もします。
滲みにくさ:◎
私が他の紙をメインに使うことになっても、アイシーを手放さないでおこう…と思った理由がここにあります。他のどの紙よりも滲みに強く、抜群の安定性を誇ります。
現在季節は6月頭、梅雨まっしぐらですが、こんな季節に袋から出して置きっぱなしにしていてもインクが滲まないのはアイシーくらいです。手汗多い勢にも優しい。ミリペンでモタモタ描くと絶望的に滲む紙(後述)もありますが、アイシーはそんな悩みとは無縁です。さすが選ばれる紙です。
しかしなぜか私のお気に入りの筆ペン(PILOT瞬筆)だけは滲みました(弱点3)。
まとめ
【長所】
・最も安定した高品質で、滲まない、描きやすい、こちらの邪魔をしない
・いろんな描き手から高い評価を得ている
・一番ツルツル
・迷ったらこれ!
【短所】
・枠線が濃すぎる
・ミリペンの黒が浮く
・限定的に滲むインクもある
・ツルツルすぎて合わない人には合わない
アートカラーシリーズ 漫画原稿用紙SD(スタンダード) 135kg
アイシーが合わなかったけど描き心地は追い求めたい人向け。ペンの滑りの心地よさはダントツ。あったかい印象
ICのツルツルさが苦手だった私が次に手に取った紙です。適度なざらざらで描きやすさ抜群、つけペンに馴染みのない身内に丸ペンを持たせてみてもこの紙なら問題なく描けました。インクがわずかに滲むように染み込みあったかい絵に。しかし、この紙にはなかなかにデカい弱点が一個ありました。
見た目
枠線の濃さはアイシーとマクソンの間くらい。数字のフォントが可愛い。
ちょっと気になったのは塗り足しの幅がアイシーやデリーターの半分(5ミリ)しかないところです。
描き心地:ちょっとザラザラ◎
あの扱いの難しい丸ペンが、思ったところにチュルっと入ってくれます!!描くときの音も嫌な感じがなく(一番良かったです)、軽い力で肉感的な線を引くことができました。もっちりした女の子を描くときとかに重宝しそう。
適度なざらざら感があるためアイシーよりカスレが作りやすいですが、カスレの途切れ方には若干の癖があります。
表面も問題ない丈夫さです。
アートカラーの原稿用紙は、その紙質のためにザラザラの紙にインクが染み込む感じになります。
ICの “インクが「乗る」“ のが苦手だった人には朗報です。
ミリペンの黒もバッチリ綺麗に出ます。
ただし、細い線が若干ザリザリっとした質感になるため、一切でこぼこのないスッとした一本線を引きたい方には不向きです。
滲みにくさ:△
愛用している製図インクでは“普段の描写は”問題なく行えましたが、
湿気の多い季節になった、手汗を吸い込んだ、など一度湿気を帯びれば簡単に滲みやすい紙になってしまいます。太い線で顕著です。
また、前述したこの紙の大きい弱点とは
ミリペンがすごく滲むことです。
ちょっと紙の上で手を止めると丸い墨溜まりが秒ででき、不安定に描写されてしまいます。
手汗の少ない方なら大丈夫だったりするのだろうか…
後述のマクソンなどもミリペンの滲みはあったので、アイシーが強すぎるのかもしれません。
ただ、アイシーでダメだった私のお気に入りの筆ペンは、この紙相手には滲みませんでした。
備考
丸尾末広先生の複製原稿を入手したところ、私がレビューした紙と同じものではないようですがアートカラーのブランドの原稿用紙を使用していらっしゃるようでした。ファンの方はぜひ。
まとめ
【長所】
・抜群の描きごこち
・いい感じのザラザラ
・黒が綺麗
・アイシーに次いで(総合的に)使いやすい
【短所】
・ミリペンが滲む
・湿気を含むとつけペンも滲む
マクソン マンガ原稿用紙BS(ベーシック) 110kg
予想を超えた超・ガリガリ。かなりの曲者
アートカラーのザラザラ加減に内心満足できなかった(!?)私はこんな落書き漫画を描いていました。
マルマンクロッキーでの落書きに慣れ親しんだ私は、さらなるカスレの出しやすさを求めていたのでした。黒か無地かのいわば二値ペンであるつけペンを、あたかも鉛筆であるかのように、カスレ〜ぶっとい濃い線を使いこなして自由自在に筆記したい。そんな思いを捨て切ることができませんでした。
マルマンクロッキー紙はペラすぎることを除けばなぜか滲まないし、ザリザリ描けて、自分にとっては一番いい紙でした。しかし、原稿用紙としては心もとありません。
そんな私にマクソンの原稿用紙をすすめてくださった方がいました。
早速使ってみて超びっくり、今まで私がつけペンを走らせてきたどの紙よりもザラザラの紙だったのです…
見た目
枠線はデリーターよりほんの少しだけ濃い程度で、非常に薄い部類。
塗り足しはこちらも5ミリしかありません。
また、他の110キロの紙に比べて圧倒的にペラいです。135キロの方が良かったかも。
描き心地:ガリッガリ
凄まじいガリガリ加減を誇り、ペンを走らせた瞬間引っ掛かりの強さに驚きました。がっかりして使用をやめる人もいると思います(Twitterを見てたらマクソンへの恨みを並べている方が一定数見られます)。しかし一方で、一部の方には大変に刺さる紙のようで、これでしか描きたくないという根強いファンの方も見受けられました。確かに唯一無二の描き心地なのは間違いないと思います。これにゾッコンならもう他の紙には描けないかもしれません。
目標のマルマンクロッキー紙をはるかに飛び越えてしまったガリガリ加減ではあったものの、私自身も楽しいとは感じました。しかし、使いやすいかどうかは要審議という感じです。
良い特徴としては「意図的にカスレが作りやすい」「細い線を綺麗に細〜く出せる」点があげられます。
筆記の質感はザラザラなのにアートカラーのように細い線が途切れたりジャミジャミになることはありません。ただ、ICのようにニュルッと濃くはいかず、極めて細いカスレ線となります。
悪い点というと、あまりに引っ掛かりが強すぎて、カケアミなどの線のコントロールが難しく、弱い力で狙った向きに描くのが困難だという点がありますが、それ以外に大きな弱点として紙の表面がボロボロになりやすいことがあります。強い力を込めて線を引くと、すぐ紙のカスがつけペン先に付着してしまい、マッキーみたいな線が出てしまいます。こまめな拭き取りが必要です。また、乾くのが少し遅めという特徴も兼ねているため、つけペンでたくさん描いたところに濡れたまま更に加筆すると、すぐ紙を掘ってしまいます。
滲みにくさ:△
袋から取り出して一晩置いたら、つけペンの太い線が滲むようになっていました。(上の絵でもふくらはぎの太い線が滲んでいるのが分かると思います)
ミリペンもアートカラー同様墨溜まりができます。
アイシーが強すぎる説が強固になってきました。
備考
どうも私の大好きな士郎政宗先生がマクソン推しだったようです。かつてはマクソン原稿用紙のパッケージを「アップルシード」の絵が飾っていたとか。ファンの私としてはかなり嬉しい情報です。私は先生が愛用していたつけペン先も知っています。最強になったかもしれません。
まとめ
【長所】
・最もガリガリの描き心地。好きな人は大好き
・安い
・細い(カスレ)線がシュッとでる
【短所】
・ペン先の引っ掛かりが強すぎる(最凶)
・紙の表面がボロい
・湿気を含むと滲む
かなりの曲者で変態向けかもしれません。最初に選ぶのはお勧めしません。
デリーター 漫画原稿用紙メモリ付A 110kg
入門向けとして知られるが性能は微妙。ICの下位互換
他の3種類と比べこれといった特徴はなく、中途半端な印象を受けました。値段以外で全ての点においてICに負けているため、これを買うならICを手に取ったほうがいいと思いました。また、私のお気に入りのインクが使えないという問題を抱えているため使用をすぐにやめてしまい、データが少ないです。ご了承ください。
見た目
最も枠線が薄いです。目の機能に不安のある方はアイシーなどの濃いものの使用をお勧めしますが、こちらはスキャンの邪魔をされる心配とは無縁そうです。
塗りたしはアイシーと同じ1センチ。
描き心地
書き心地に大きな問題はなく、最も普通〜の紙と言えます。髪質はツルツル寄り。
特異点は特にありません。
滲みやすさ:△(特定のインクだと全部❌)
湿気を含むと普通に滲みますし、ミリペンを使うとアートカラーほどではないにしろ滲みます。やはりこれに関してはアイシーが特別強すぎるようです。
デリーター、なんと私の愛用するパイロット製図用インクが使えませんでした(注:季節や画材、手汗など体質にもよると思います)。これで描くと全てが滲むので仕方なく開明墨汁を使っていましたが、乾きの遅さに耐えきれずデリーターの紙の使用をやめてしまいました。
まとめ
【長所】
・どこにでも売ってる、安い
【短所】
・全てにおいてアイシーに劣る。アイシーのツルツルで扱いやすいという性質に共鳴する人は、アイシー買いましょう。
結論
IC…ツルツル、安定の高品質。滲みの心配ほぼゼロ
アートカラー…優しくて快適な描き心地
マクソン…驚異的ガリガリ
デリーター…ICの下位互換
それでも文章だけだと選べないという方は、お金に余裕があれば以下をお勧めしたいです。↓
まずはIC
ICのツルツルが合わなければアートカラー
さらなるガリガリを求めるならマクソン
追記(2024/10/30)…選ばれたのは◯◯でした
線画までアナログで漫画を描くのを原稿用紙50枚分ほど続けた結果…
「マクソン」or 「ICの裏側」に落ち着きました。
マクソンはガリガリとした描き心地と線の温かみが気に入っています。ペン先が引っかかることでかえってしっかりした、勢いのある線が描きやすい気がします。マクソンにしか描けない線画は多分ある…(なんか線が男前な仕上がりになります(?))。
しかし、マクソンはトレス台で透過した時のボヤボヤが強く、また激しく湿気を含むと非常に描きづらい紙になってしまうため、精細度が問われるページや、何があっても綺麗に仕上げたいページはICの裏側に任せています。
ICは裏返すとなんだかフワフワした描き心地になり、これが不思議と自分に合っていました。カスレも思いのまま作れます。濃すぎる目盛りもないのでスキャナーにかけても大丈夫(ICも半デジの人向けの目盛りが薄い原稿が売ってるらしいですが…)。
終わりに
Σ田のTwitterはこちらです。説明に使ってた漫画「DEMONIO KONPEITO(1)」は24年の10月半ばから通販を始める予定です。良かったら見にきてね
https://twitter.com/emu_talom?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor
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