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なぜ、僕は、この本を佐藤真久さんと書こうと思ったのか?


エンパブリック代表の広石です。
書籍「SDGs人材からソーシャル・プロジェクトの担い手へ~持続可能な世界に向けて好循環を生み出す人のあり方・学び方・働き方」(2020年12月25日発売)を知っていただくために、書籍の背景、執筆中に考えたことなどを紹介していこうと思います。
第1回は、この本を書こうと思った背景・きっかけを紹介します。

「サステナビリティ」をアップデートしなきゃ!

サステナビリティという言葉の意味が大きく変化していると、私が気づいたのは、2014年に立教大学経営学部で「サステナビリティ&ビジネス」の授業を担当することになり、改めて国内外の事例を調べた時でした。
1990年代の後半、シンクタンクに勤め、医療福祉や市民社会の仕事をしていた私の同僚には、環境問題に取り組んでいた人が多くいました。ちょうど、1992年の地球サミットから京都議定書に向かう時であり、トヨタがプリウスの販売を始めた時であり、環境会計やトリプルボトムラインの議論が始まっていた頃であり、ISO14000sで企業が環境マネジメントの導入を始めていました。その頃、地球サミットから地球規模での環境問題の深刻さが認識され始めていた中で、地球や環境の立場を代表する存在としてNGOが国際会議に本格的に参加し始め、各国の利害調整だけでなく、地球市民という視座が掲げられ始めていました。その中で、環境をどう経済に組み込むのかが大きな論点で、環境と経済はトレードオフの考え方が強い中で、環境に配慮した経営は可能か、どうしたら両立できるのか、議論されていました。そして、日本は環境技術に優れていて、省エネやゴミ削減などに熱心に取り組んでいるというイメージがありました。それが、私の中でのサステナビリティのイメージでもありました。
それから私は社会起業家の育成やソーシャルビジネスの開発に従事し、その中で社会や地域の課題として環境問題に取り組むNPOや起業家とも接していました。そのご縁で、「サステナビリティ&ビジネス」の授業を担当することになったのですが、教えるために自分の知識をアップデートしようと調べ始めたところ、サステナビリティが思っていたのとは違うことに気付いたのです。

ビジネスとサステナビリティの統合が進んでいた!

パタゴニアのみなさんとお仕事をしたことがあり、パタゴニアが環境とビジネスの両立を掲げて取り組んでいたのはよく知っていましたが、多くの企業がサステナビリティをビジネスに統合していることに驚いたのです。ユニリーバは、企業の存在意義を「サステナビリティを暮らしの当たり前にする」を掲げ、sustainable living planとして先進的なサステナビリティの結果を出すことと事業規模を2倍に成長することを同時に行う取り組みを始めていました。Every Day, Low Priceを理念として成長してきたウォルマートは、2005年10月にCEOのリー・スコットが「21世紀のリーダーシップ」を宣言し、グローバル・サステナビリティ目標を掲げ、サプライチェーン全体での影響を生み出すためサステナビリティ・コンソーシアムを立ち上げていました。タイルカーペット企業のインタフェイスは、環境負荷ゼロを目指す「ミッション・ゼロ」を始めていました。企業経営において、サステナビリティの概念が、環境・社会・経済をより包括的なものであり、社会貢献や環境担当に限った話ではなく、事業の中心にサステナビリティを置き、それが成長戦略の核にすることがメインストリームになろうとしていました。そして、金融においても、環境・社会に配慮した一商品としてのSRI(Social Responsibility Index)ではなく、後にESG投資と呼ばれる投資のメインストリームへの動きが始まっていました。
しかし、これら動きは日本国内で、ほとんど知られておらず、報道もされていない状況でした。主流化しようとしていることは、企業にとっても環境等に取り組むNPOにとっても、重要な変化です。自分はたまたま授業のために調べたので気づきましたが、「みんな知らなくていいの!?」という危機感で、自分なりにあちらこちらに話しましたが、グローバルの動きを知る人は共感してくれましたが、「そうなのかもしれないけどね・・・」という反応が多かったと思います。

SDGsとパリ協定による関心の高まり

そんな中、2015年にSDGsとパリ協定が採択されました。どちらも、サステナビリティを前提とした経済社会にならないと持続できないことがテーマであり、サステナビリティを前提にした経済が主流になることを示すものでした。大きな流れが国際的に確定したのだと思います。ただ、SDGsも採択当初はあまり関心が高くはなく、「国連の持続可能な開発目標というのは、ビジネスから遠いもの」「国連の話は地域から遠いもの」というイメージを持たれていました。その後、多くの方の普及の努力があり、SDGの認知度や関心は国内でも急速に高まっていったと思います。
そのような動きの中で、佐藤さんと、2018年に、SDGs時代のパートナーシップの進め方、協働ガバナンスをテーマにした書籍『ソーシャル・プロジェクトを成功に導く12ステップ~コレクティブな協働なら解決できる!SDGs時代の複雑な社会問題』(みくに出版、2018)を出版できました。この本をきっかけに、様々な企業、行政、NPOの人達とのワークショップも行い、数百名の方と意見交換をさせていただくこともできました。
その中で、2つの事が心にひっかかったのです。

ソーシャルやSDGsに対する認識のギャップがある?

一つが書籍の読者の反応が大きく2種類に分かれたことです。自分で社会問題を扱う活動をしてきた人からは、本を読み、「困っていたことが書いてある」「自分の考えてきたことが整理されている」など好評を多くいただきました。その一方で、「こんな手順は必要?」「問題解決のイメージが違う」という声もいただきました。そのような声は、もちろん私たちの筆力の問題はあるのですが、それに加えて、地域や社会の現場の中に入って関係性や動きながらの問題理解を深めている人たちと、計画を緻密に立て計画通りに実行しようとする人たちとの間には、物事の認識・判断の全体に関わる思考モデルに違いがあるのではないかと考えました。
もう一つが、SDGsは環境・社会・経済の3つに関わってきますが、SDGsを社会問題解決のために「しなければいけないこと」と考えてしまうと、社会貢献のように捉え、経済とは別ものと考えてしまいがちです。また、企業が既存の事業をSDGsに紐づけることは良いと思いながらも、「我が社はSDGsに取り組んできてるのだから、これで十分」という声、「日本企業は十分に環境に取り組んできたので、今までの取り組みで十分だ」という声を聞くと、グローバルの積極的にサステナビリティをビジネスの価値にしようとする加速感とのギャップを感じました。
その時、まさに少し前までの自分のように、「サステナビリティ」という言葉に90年代と同じようなイメージを思っている人もいるように感じたのです。

「サステナビリティ」の意味の変化への理解が大切

このように考えていた時に、「ソーシャル・プロジェクト」の共著者である佐藤真久さんと話したところ、佐藤さんの携わってきた「持続可能性のための教育(ESD)」の議論が2000年ごろからどんどん変化してきたことを教えてもらいました。「サステナビリティ」は、90年代に環境問題の議論と貧困・人権の問題の統合が進み、さらに00年代を通して経済の統合も進んできていたのです。MDGs、気候変動枠組み条約(COP)の議論の進展や再生可能エネルギーの広がり、グローバル人権意識の向上などを経て、ビジネスの向き合い方も変わり、概念もより包括的なものになっていました。
SDGsに取り組む際、もし90年代の経済社会モデルを前提とした”古いサステナビリティのイメージ”で取り組む場合と、SDGsのゴールである2030年からバックキャストした経済社会モデルやサステナビリティに基づいて取り組む場合とでは、内容も成果も大きく違ってくるでしょう。特に、持続可能な経済社会システムへの変容(transforming)をテーマとするSDGsにおいては、変容の前後の違いを理解し、変容後の世界観に向かって動かなければ、頑張って取り組んだのに後になってズレてしまっていたと気付くことになってしまうかもしれない。それでは、もったいないでしょう。

持続可能性キー・コンピテンシーは、今の大人たちにこそ必要!

さらに、佐藤さんとESDについて話す中で、ESDにおいて、これからの時代を生きる人物像の議論が重ねられてきた成果が、UNESCO(2017)の「Education for Sustainable Development Goals Learning Objective」に掲載されている“Key Competencies in Sustainability”(持続可能性キー・コンピテンシー)としてまとめられていることを紹介いただきました。
SDGsや持続可能な社会・ビジネスの実現には制度や新事業も大切ですが、その前提となっている、私たち一人ひとりの考え方、動き方や、さらにその前提となる思考モデルやメンタルモデルが変わらなければ成果は出づらいでしょう。例えば、資源やゴミの問題を考えても、「大量生産でできた安いものを大量消費する」を無自覚なままに前提とする生活をし、それを前提とした企業経営や政策づくりをしていては資源有効活用やゴミ削減の取り組みの効果は限られるでしょう。つまりは、私たちの“あり方”自体を見直し、持続可能な世界を実現できるものにシフトすることが大切なのだと思います。
佐藤さんと話していて、私が感じていた、SDGsやソーシャル・プロジェクトに対する認識のギャップは何だったのか、自分の中で明確になってきました。そして、ESDというサステナビリティの担い手の人材育成の取り組みの中で、どのような議論を経て「持続可能性キー・コンピテンシー」が浮かび上がってきたのか話を聴き、そこからSDGsやサステナビリティに取り組む人にとって必要なことを明確にしていきたいと考えたのです。そして、佐藤さんの経験と私の現場で考えてきた経験を分かち合い、お互いにフィードバックしあう対話を行うことを通して、それぞれの経験に新しい意味や発見が生まれると思ったのです。
そこで、2019年から佐藤さんと広石で対話し、やりとりしながら原稿をまとめていく作業を始めたのです。

COVID-19によって浮かび上った「リスクの時代」

原稿執筆が終盤に差し掛かっていた最中の2020年春、私たちはCOVID-19のパンデミックに向き合うことになりました。当初、東アジアの問題のように思われていた感染症の問題は、1か月後には欧米の深刻な問題になり、さらに南半球へと広がっていったたことは、グローバル化した世界でリスクを共有していることを改めて確認することになりました。そして、たとえ経済の停滞が起きるとしても、人々の生命が守るための活動自粛や都市封鎖が各国で行われました。
これまで、人権や環境も大切だけど、経済は経済で自律的に動くように考えられがちでした。特に、2010年代後半は、00年代から10年代前半の人権や環境などへのconscious(意識の高さ)への反発が「経済の数字が良ければいい」という功利主義的な動きの巻き返しにつながり、各国で分断を生むことにもなりました。そのような中で起きたCOVID-19のパンデミックは、生命を守るという人権が守られなければ経済活動はできないことを体現しました。もちろん、経済か疾病予防かの議論はくすぶり、国や政治家、専門家に依っての意見も割れています。パンデミック後は元の世界にそのまま戻ると考えている人もいますが、この経験が意識の変化を起こすと考えている人もいます。
私は、経済は社会・環境の問題とは無関係に成長できるものではなく、人々の生命を守る社会の安全と自然環境があってこそ成立するものだという体験を世界中で同時に共有したと思います。そして、VUCA(変動し、不確かで、複雑で曖昧な状態)の中で生きる力の必要性を多くの人が感じました。感染症をめぐる状況がどんどん変化し、新しい感染症のため「正しい情報がない」状態で、経済か予防かなど正解がない問いに対して、先んじて動くことの大切さを共有体験しました。
この共有体験は、これからの世界で気候変動や災害、感染症や格差など様々な環境や社会の問題が経済に影響を与えることが増えていった時に、その意味が見えてくるものかもしれません。正しさが客観的に判断できない中で問われるのは哲学であり、ビジョンです。そして、今回、外出できない状況で柔軟にオンラインに切り替えることができたかどうかで経営に大きな差が出たように、新しい困難な問題が起きる中での状況への柔軟な対応力が問われる場面が何度も起きるでしょう。
そう考えると、この春の経験は、サステナビリティに「環境や社会の前提が変化していく中で、持続可能であるとはどういうことか?」という問いを多くの人に投げかけたといえるでしょう。これは、佐藤さんが「VUCAの中で、ありうる未来を考えることが大切」と話していたことの意味を、改めて深く気付きました。

経済や地域が持続し続けるとは、環境配慮や良いことをするのではなく、中長期的に起きうるリスクと機会に向き合いながら、ビジネスが、地域が、社会が、国が、地球が、どう生存していけるのか、問いかけ続けることだと、2020年を通して多くの人と共有できるようになったと思うのです。

こうして、2人の対話から始まった書籍ができました

佐藤さんと広石の対話は、サステナビリティという概念の変遷、ESDの議論から見えてきたサステナビリティの地域にとっての意味や担い手に求められること、サステナビリティ・ビジネスが促した変化、これからの時代の学びのあり方など多岐に渡りました。お互いに刺激し合うことで、考察が深まっていったことも多くありました。特にこの春以降の対話は、僕にとって、COVID-19への対応がうまく機能しづらい理由、世界が分断を深めていく理由を深く考察する時間にもなりました。
ただ、2人の対話は膨大なものになったことに加えて、対話そのものでは書籍にした際に読みづらさもありました。そこで、2020年の夏から秋にかけ、対話を組み込みながらも、章単位で担当を決めて文章をまとめることにしました。みくに出版のみなさんや編集者の方にもご尽力いただき、対話と原稿が重なる面白い構成の本ができました。

それが、「SDGs人材からソーシャル・プロジェクトの担い手へ~持続可能な世界に向けて好循環を生み出す人のあり方・学び方・働き方」なのです。

noteでは、執筆中に考えたことなども紹介できればと思っています。
また、書籍の背景、2人の考えたことを紹介するイベントも開催しますので、ぜひお越しください。

書籍発刊記念イベントを開催します




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