『すいません・ばーん』は、すいません。

「『すいません・ばーん』さん、おひとついかが」
しんしがタバコをさし出しました。
「すいません、わたしは、タバコは、すいません」
『すいません・ばーん』は、おだやかに答えました。

すいません・ばーんは　すいません
タバコのけむり　すいません

「『すいません・ばーん』さん、こちらはいかが」
ちょうちょさんが、お花をさし出しました。
「すいません、わたしは、お花のみつも、すいません」
『すいません・ばーん』は、残念そうに答えました。

すいません・ばーんは　すいません
あまーいみつも　すいません

「『すいません・ばーん』さん、これならどう？」
子どもが、ストローのささったジュースのカップを見せました。
『すいません・ばーん』は、申し訳なさそうに答えました。
「みなさんありがとうございます。けれど、それもすいません」

すいません・ばーんは　すいません
ストローちゅーちゅー　すいません

子どもが首をかしげながらたずねました。
「お腹がいっぱいなの？」
『すいません・ばーん』は言いました。
「すいません、お腹の中が、空気でいっぱいなのです」
それもそのはず、『すいません・ばーん』は風船なのです。

すいません・ばーんは　すいません
空気でぱんぱん　すいません

「ああ、腹がへった。どこかにおいしい血はないものか」
そこへ、腹ぺこの吸血鬼がふらりとあらわれました。
とたんにわっと、みんなくもの子をちらすように逃げてしまいました。
けれど『すいません・ばーん』はふわふわしていて逃げら
れませんでした。

すいません・ばーんは　逃げれません
ふわふわしてて　逃げれません

吸血鬼は『すいません・ばーん』をむんずとわしづかみにしました。
「すいません、わたしから血はすえません！」
『すいません・ばーん』はあわててさけびました。

すいません・ばーんからは　すえません
血は一滴も　すえません

「ええい、吸わないとか吸えないとかごちゃごちゃうるさいぞ」
吸血鬼はかまわず『すいません・ばーん』に牙をつきたてました。

バーン！

『すいません・ばーん』はわれてしまいました。
そのあとには、おどろいて目を回した吸血鬼だけがたおれていましたとさ。

すいません・ばーんは　われました
ぱんぱんで　ぱーんと　われました

おしまい。