現役エンジニアが教えるセットアップ術【其の三-タイヤ編】
こんばんは。Emperor-Dです。前回までの記事で基礎パフォーマンス評価の3つのうち、エアロレベルと車高設定の2つが終わりましたので、今回は最後のタイヤ編を進めていきましょう。
前回の記事をまだ読まれていない方はこちらからどうぞ。
タイヤの基礎パフォーマンス評価にあたり
自動車はタイヤ4本で地面に接して走っていますから、タイヤに関するセットアップ次第ではタイムが大きく変わってしまいます。では、どんなところに注目して評価していけばよいのか、注目すべきポイントを紹介します。
①タイヤ内圧は高いほうが速いのか or 低いほうが速いのか
②タイヤ内圧の前後差はつけたほうが良いのか
③キャンバー角は多めが良いのか少なめが良いのか
④トー角はどれくらいが良いのか
詳細を説明していくと…
①・・・タイヤのグリップは内圧と深く関与しています。、スリップアングルやスリップ率に対するタイヤが発生する力はポイントによって変わるので一概には表せませんが、一般的に低内圧だと低荷重のグリップが上がります。逆に高内圧の場合、高い荷重がかかったときやスリップアングルやスリップ率が大きいときにグリップが出やすい傾向にあり、サーキットによって速い内圧は異なります。
②・・・タイヤのグリップは荷重によって変わるということをお伝えしましたが、F3は前後のコーナーウエイトが異なりますから、内圧も前後で差をつけたほうが良い可能性があります。
③・・・キャンバー角はベースラインに対して、増やしたほうが良いのか、もしくは減らしたほうがグリップが増えるのか。これも荷重やスリップアングルによって結果が変わります。
④・・・③と同じですが、トー角はグリップだけでなく、フロントであればステアリングレスポンスにも影響しますので、その点もふまえて判断する必要があります。
余談になりますが、タイヤ編が基礎パフォーマンス評価の一番最後にして位置しているのにも明確な理由が存在します。それは、前述したとおりタイヤのグリップ特性は入力される荷重によって変わるからです。そのためエアロの設定が決まり、タイヤへの入力が凡そ確定された状態で評価することで、最終的にエアロの特性にマッチしたタイヤの設定が出来るようになります。
実際には、サスペンションセットアップを変えたらタイヤへの入力も変わってきますので、その後にも本当は再度確認するのが良いと思います。時間に余裕があればですが…(笑)
では、ポイントの紹介はこれくらいにして、実際に評価していきましょう。
基礎パフォーマンス評価-タイヤ編
最初はタイヤの内圧を低め・高めを比較していきましょう。
前回の初期設定の冷間内圧は4輪とも124kpaで練習がてら走ってみたところ温間内圧でフロントに左右差が出来てしまっていたので、左フロントの内圧だけ128kpaにしたものをベースとします。
これは今回のテストのベストのラン(1周目から6周目までの内圧推移です。フロントはピットアウト直後に内圧差がありますが、徐々に左右が均一になっていきます。また、計測6周目くらいにはサチレーション(内圧が安定)し始めています。
今回はF3の最低冷間内圧は124kpaが最低だったので、15kpaずつ上げて比較します。
温間内圧は冷間から約20kpa上昇し、走行中は145kpa,160kpa,175kpaくらいになりました。ラップタイムは内圧を上げたほうが落ちていくという傾向にありました。
走ってみた印象は温間145kpaに比べて160kpaはフロントの高荷重グリップが上がったように感じましたが、コーナーのボトムスピード付近のグリップ感が薄く、リアはトラクションが下がっていました。温間内圧175kpaはフロントの初期レスポンスは上がりましたが、全体的なグリップは下がっており、タイムが出ない雰囲気でした。内圧が低い設定の場合、周回を重ねるとタイムが上がるのですが、温間175kpa設定ではピットアウトした後の2周くらいはグリップが高めでしたが、その後グリップは低下する一方でタイムも伸びませんでした。
検証結果:内圧は低めが良さそう
次に、タイヤ内圧の前後差をつけていきましょう。内圧は一番低い所をベースとして、フロントの内圧だけ10kpaずつ上げたものを2種類、その中で最も良かったものにリア内圧を10kpa上げて比較します。
上がテストの結果表です。フロント内圧10kpa上げが最もラップタイムとしては速かったです。
フロントの内圧は10kpa上げた段階では全体的なグリップ感が増えていて良かったのですが、20kpa上げた時には横方向のグリップは増えているように感じましたが、ブレーキングのリリースしていくあたりのフロントグリップが下がっているのか、ロックしやすく感じました。それ故に速度をキャリーできず、タイムが落ちたのかなという印象です。
リア内圧はトラクションに対して顕著な差があり、内圧を上げた場合はホイールスピンしやすく、スロットルを開けられない感じがしました。
タイヤ内圧の前後差:フロント+10kpa程度が良さそう
では③キャンバー角の検証に入ります。今回の検証はフロントとリアキャンバーを片方ずつどちらかに振ってみて傾向を見ていきます。
ここでポイントとなるのが、これまでの検証ではラップタイムで評価を行ってきましたが今回はそれが出来ません。何故なら今回はフロントとリアのどちらかのグリップを増減させることになるので、ステアバランスが変わり、ラップタイムが出なくなることも考えられるからです。そこで重要なのは変更したことでステアバランスがどちらにシフトしたのかということです。
具体例を使って説明すると、フロントキャンバー角を増やしたところ、ステアバランスはオーバーステア寄りになってしまい、タイムが落ちたとします。この場合、オーバーステア傾向になったということは、フロントのグリップが増加しており、フロントサイドのパフォーマンスとしては上がっている可能性がありますので、ラップタイムが悪かったとしても良い評価をすべき、というものです。この評価で難しいのは、変なアンダーステアやオーバーステアの出方とかになったりすることもありますので、そこの良し悪しは経験で判断するしかありません。難しい場合はフロントとリア別々でやってグリップが上がってそうなものを組み合わせて、ラップタイムが上がれば高評価という形で進めるのが良いかもしれませんね。
話しを戻して、本題のテスト結果です。
最初はリアキャンバーを0.5度増やしてみたところ、タイムは約0.1秒落ち、ステアバランスはアンダーステア傾向が強くなりました。感覚としてはリアグリップが増えている感じだったので、更にキャンバー角を0.5度増やしてみました。傾向は同じでリアグリップは増えているようでしたので好印象でした。
そこで、これを基準としてフロント側のキャンバー角を変えてフロントグリップを上げられる方法を探してみました。現状の-4.1度は現状の最大設定で、キャンバー角を増やすにはキャスター角を変えなければいけません。今回はキャスター角±1度した際に付けられる最大キャンバー角でテストを行いました。
結果としてはキャスター角を減してキャンバー角を増やすのも、キャスター角を増やしてキャンバー角を減らすのもタイムとしては大きく差は有りませんでした。フィーリングとしてはキャンバー角を付けたほうがコーナーのボトムスピード付近でも曲がってる印象はありますが、タイムには繋がらないということで、キャスター角が変わると荷重移動の仕方が変わりますからその影響で結果的には旋回スピードを上げることには繋がっていなかったのかなと思います。逆にキャスター角を増やしてキャンバー角を減らしたセットアップはステアリング初期のレスポンスは高いのですが、コーナーのボトムスピード付近では曲がってないのにタイムは変わらず…この2つは正直感じてるバランスをタイムが合わずいい印象はないので、現時点では採用見送りにしようと思います。ただ、サスペンションセットアップを変えた場合には使える可能性もありますので、最後の方にリピートで確認しても良いでしょう。
リアキャンバー :-3.6度までは増やしたほうがグリップ増加
フロントキャンバー:-4.1度(Caster16.1度)がフィーリング良い
その他2パターンも悪くはない
最後に④のトー角の検証ですが、実は別サーキットで検証したことがあるのですが、iRacingのF3だとトー角はステアバランスへの感度だけだったのでここでは省略させていただこうと思います。これもフロントキャンバー角同様に、ある程度セットアップがまとまったタイミングで評価しようと思います。まだ試したことが無い方はやられてみることをお勧めします。フロントはステアリングのレスポンスへの影響はありますのでお好みの味付けにするのが良いかと思います。
まとめ
最後に今回の基礎パフォーマンス評価-タイヤ編のまとめです。
今回のテスト結果から分かったことは次の通りです。
タイヤ内圧:内圧は低めが良さそう
タイヤ内圧の前後差:フロント+10kpa程度が良さそう
(温間フロント155 / リア145kpaがベスト)
リアキャンバー :-3.6度までは増やしたほうがグリップ増加
フロントキャンバー:-4.1度(Caster16.1度)がフィーリング良い
その他2パターンも悪くはない
次回はドライブトレインのギアレシオ編となります。次の内容は軽めの内容になるはず…
今の所1つの検証で約60周~80Lapを走っており、思ったより大変です(笑)
これからも頑張ってやっていこうと思います。
もし内容が参考になったらサポートして貰えると嬉しいです。 継続的に活動を続けるモチベーションになります🥺