現役エンジニアが教えるセットアップ術【其の四-ギアレシオ編】
こんにちは、Emperor-Dです。今回も引き続きシムレーサーが使えるセットアップ術を書いていきます。前回までに掲載した3回の記事でセットアップのベースとなる基礎パフォーマンス評価は全て完了したので、四回目となる今回はドライブトレイン設定-ギアレシオ編です。
ギアレシオは意外と軽視されがちですが、シャシー側でエンジンの使い方を変えられるただ一つのセットアップ要素です。効率的なギアレシオに出来るかどうかでラップタイムと乗りやすさに大きな影響がありますので、今回はそのどちらも良くする方法を紹介していきます。
ドライブトレイン設定-ギアレシオ編
本来、レーシングカーのギアレシオを考えるには...
⑴どれくらいの最高速になるのか
⑵エンジンは何回転まで回して良いのか
⑶エンジンのトルクバンドはどこら辺の回転数なのか
といったことを事前に考えておかなければいけませんが…
iRacingの場合はそんなことは気にせず走行してロガーデータを取得しましょう。こういうところはシミュレーターの良い所ですね。現実だとテスト規制で思うように走れませんから。
F3のインテルラゴスをHDF純正設定のギアレシオで走ったロガーデータは次のようになります。
データを見てびっくりしましたが、この純正レシオそこまで悪くないです。
一体何をもって悪くないと言っているんだと思われますよね。どうやって判断していると思いますか?きっと皆さんも走っているときに感じたことがあるはずの2つの感覚を理論的に表現するだけ良いギアレシオにすることができます。
その2つのポイントは次のようになります。
①ギア変更回数を最小化すること(全部6速で走ればいいっていうの無しです)
②エンジン回転数がコーナー脱出でトルクが出やすい状態にあること
①・・・コーナー進入の直前でシフトアップするコーナーがあると、「無駄だな」とか「走りにくいな」と感じることがあると思いますが、それがまさしく①に該当する感覚です。ギア変更回数を減らすことができればシフトのロスを最小化できますし、ミス防止の効果もあるので結果的にラップタイムを短縮することに繋がります。ただ、1周を通してどうしてもギアレシオが合わないコーナーも時々ありますので、目を瞑らないといけない場合もあります。
ロガーデータで発見する方法も参考までに紹介ておきます。ギアレシオのデータは階段状になっていますがその階段の幅が異様に小さい場合、無駄なシフトアップの可能性があります。こういう場合は該当するギアをロング方向に調整することで解消できます。(下図の緑色枠内)
②・・・感覚的に表現をするとコーナーの出口でスロットルを開けた際に「かったるいなー」とか「前に進まないなー」と感じる場合のことを意味しています。この場合エンジンのトルクが出やすい回転数を逃しており加速でタイムロスをしています。②は①と逆でギアレシオがロング過ぎるのでショート方向に調整することで改善できます。
ではこのポイントに沿って評価をしてみましょう。
まずコーナー直前でギアを変えているところはないので①は問題ないと判断できます。②に関して私が運転した感覚では、このコースで一番低速な8コーナーと、ホースストレート前の13コーナーの2か所でかったるいと感じました。MoTeCを使ってトラックレポートからギアレシオと速度、回転数を表示させると下図のようになります。
※8コーナーと13コーナーは図中の赤枠部と青枠部です。
では気になる箇所のギアレシオを修正していきましょう。今回は2速と3速をショートにする側でレシオを変更しますが、ショートにする場合に気を付けるべきは、次の3つです。
Ⓐ該当ギアでコーナー進入まで引っ張ることがないか
or ある場合は現状で何回転まで回っているのか
Ⓑ直したいコーナー以外の別コーナーで回転数が高くなりすぎないか
or ギアを変更せざるを得なくなる箇所がないか
Ⓒ変更したギアと次のギアへの回転数の落ち幅が大きくないか
コーナー進入で2速が使われるのは9コーナーのみで、速度は115[km/h]、回転数は6300[rpm]くらいです。F3のエンジンが7200[rpm]まで回せることを考えると現状は余裕です。そして、2速を使うコーナーで最も速いコーナーボトムスピードなのは1コーナーで、回転数は5684[rpm]。ここも少しくらい変えても問題なさそうですね。現状の減速比2.000だと137.3[km/h]まで出せることから、減速比は2.200の124.9[km/h]まではショートにしてもよさそうですが、Ⓒの『次のギアへの回転数の落ち幅』が大きくなることから2速は減速比2.000から2.067(1枚ショート)に変更します。回転数の落ち幅が大きくなると、エンジンパワー面でロスする可能性もあるため注意が必要です。
次の3速はコーナー進入時の使用は無いため考える必要はありません。そしてコーナーでボトムスピードが最も高いのは4コーナーで138[km/h]、6510[rpm]でした。ボトムの回転数としては高めなので、あまりショートにすると3速で回れなくなりそうですね。ということで3速も1枚ショートくらいが妥当かと思います。
変更前と変更後のギアレシオを比べると下の写真の通りです。
最後に、実際に走ってみた結果を確認しましょう。
前回までのベスト1'28.687を上回り、1'28.581までタイムを更新しました。6と7コーナーでミスをしたのを考えるともう少しタイムは出そうです。
これは2速と3速をショートにしたことで加速が良くなったから言いたいところですが、実際にはギアレシオをショートにしたことで若干曲がるようになったのが大きな要素で、特に1コーナーが走りやすくなりましたね。勿論かったるさも減って乗りやすくなってますので考えていた通りの結果です。ギアレシオでバランスが変わることについての技術的な説明は省きますが、意外と感度があります。
まとめ
如何だったでしょうか。ドライブトレイン設定-ギアレシオ編は以上になります。以下が今回のポイントの抜粋です。
ギアレシオを考える際のキーポイント
①ギア変更回数を最小化すること
②エンジン回転数がコーナー脱出でトルクが出やすい状態にあること
ギアを変更する際の注意ポイント
Ⓐ該当ギアでコーナー進入まで引っ張ることがないか
or ある場合は現状で何回転まで回っているのか
Ⓑ直したいコーナー以外の別コーナーで回転数が高くなりすぎないか
or ギアを変更せざるを得なくなる箇所がないか
Ⓒ変更したギアと次のギアへの回転数の落ち幅が大きくないか
今回は標準のギアレシオが外れていなかったので、変更代が無くて面白みに欠けた感があるので、機会があればでまた別の車両でやってみます。
余談になりますが、ギアレシオを考える際はその車両が最も速く走る条件で合わせることをお勧めします。というのも決勝レースの条件でギアレシオを合わせてしまった場合、予選でラップタイムが上がるとコーナー進入でシフトアップしなくてはいけない可能性がでてくるのでご注意ください。
次は基礎バランス調整-メカニカル調整編です。今回の題材の中でここが一番の難しく山場となりますが、ついてきてくださいね!
もし内容が参考になったらサポートして貰えると嬉しいです。 継続的に活動を続けるモチベーションになります🥺