現役エンジニアが教えるセットアップ術【其の一-エアロレベル編】
こんばんは、Emperor-Dです。現在はオフシーズンということもあり、時間もあるので毎日のようにiRacingをやっております><;
さて、ここまで私のnoteではセットアップ講座ということで、基礎知識関係を記事にしてきましたが、振り返ってみるとシムレーサーがセットアップに使える内容がほとんどないことに気づきました。(今更ですが…)
ということで、今回からシムレーサーが自分でセットアップをする術を紹介していきたいと思います。この方法であれば、難しい知識は不要です。
必要なのは次の3つだけです。
①コースを安定して走れること
②セットアップの違いをなんとな~く感じられること
③ロガーデータを少し見れること
これだけでできますので、是非皆さん参考にしていただければ幸いです。
今回は例題として、iRacingのF3で2/16から始まるインテルラゴスサーキットを使ってやっていきたいと思います。F3なので3rdダンパーがあるため難易度は高めですが、折角なのでやっていきましょう。
この講座はレース週までに間に合うようにやっていこうと思っていますが、レースまでに完結しなかったらごめんなさい。
では、その方法を解説していきます。
手順紹介
まずは、どういう流れでセットアップをしていくのか簡単に紹介したいと思います。
①基礎パフォーマンス評価
●エアロレベル検討
●車高設定検討
●タイヤ検討
②ドライブトレイン設定検討
●ギアレシオ検討
③基礎バランス調整
●メカニカル調整(スプリング&ARB)
●エアロ調整(フラップ&車高)
●LSD調整
④動的バランス調整
●減衰調整
⑤最終比較
●エアロレベル検討(±2~3deg)
以上が大まかな流れです。では、順を追ってみていきましょう。
何故こういった進め方なのかという点に関しては、ポイントごとに私が走行したデータを使いながら、説明していきます。
基礎パフォーマンス評価-エアロレベル編
まず、セットアップで最初にやらなければいけないこととして、根本的なパフォーマンスを高い状態にすることです。これに関しては最初の方に書いた記事で紹介してありますので、詳しくはこちらを参考にしてください。
F3のようにダウンフォースが多く出る車両の場合、速い車両を仕立てるためには、エアロの設定が重要となりますが、特にどのようなダウンフォースレベルで走るのが速いかという評価が重要になります。
F3の場合は前後共ウイング角度が調整できますので、ローダウンフォースからハイダウンフォースまで3パターンほど見ていけばよいかと思います。
エアロレベルを変えるとサスペンションの硬さも変える必要があるため、同じセットアップにエアロレベルだけ変えるのは正しい評価が難いのですが、iRacingのF3には、Low-Medium-High downforceのセットアップがそれぞれ用意されておりますので、それで比較するのがよいと思います。
ちなみにこれは車両やサーキットによって変わりますので、ある程度傾向を掴むまではキチンと確認することをお勧めします。ここを間違えるとどんなに良いバランスのセットアップが出来ても根本のパフォーマンスが低くて遅いということになりかねません。
ということで、最初にエアロレベルの比較をしてみました。比較結果は次の通りです。
①HDF : 1'29.916 (HDF= High DownForceを略したものです)
②LDF : 1'30.523
③MDF : 1'30.942
セットアップは元々入っているLDF、MDF、HDFをそのまま使用しています。このデータを記録する際の注意点としては、アタック周(※ピットアウトしてから何周目のタイムか)を同じか、±1lapくらいにする必要があります。というのも燃料搭載量やタイヤの状態によってもタイムが変わってきますので、エアロレベル以外にタイムに影響する要素が入ってしまい、評価が正しく行えなくなることに注意してください。
さて、比較した結果、ラップタイムはHDF>LDF>MDFという順番になりました。ということで、このコースで一番速いエアロレベルとしてはHDFということになりますが…ここで考慮しなければならないのは、何故LDFがMDFより速かったのかという点です。可能性は色々ありますので、ここはしっかり掘り下げなければいけません。その要素としてはこんなところでしょうか。
①テストした順番によるドライバー習熟度の差
②MDFセットアップはステアバランスが悪かった?
③MDFセットアップのグリップはLDFより増えているのか?
それぞれ要素を見ていくと、①のテストした順番ですが、MDF→LDF→HDFという順でテストをしていたので、MDFは攻め切れてなかった故に遅かったという可能性もゼロではありませんが、ある程度練習してからこのテストに臨んでいるのでその可能性は低いと思います...><;
次に②ですが、MDFのセットアップは他の2種類に比べてコーナーのボトムスピード付近で曲がりにくいアンダーステア傾向ではありましたが、他のも同様に多少バランスが合っておらず、そのレベルとしては大差なかったと思うのでこの可能性も低いです。
最後に③ですが、これは本来データで比較するのがよいのですが…今回は敢えて難しいことはしません。
ではどうやって評価するかというと、”ステアリングの重さ”を使います。本来グリップ(≒ダウンフォース)が増えるとステアリングを切るのにも力が必要で重く感じるのですが…ステアリングの重さだけで言うとMDFとLDFには差があまりなく、HDFは明らかに重さが重くなったように感じました。
では実際どうなのか、車速をロガーデータで見比べてみましょう。私はiRacingのロガーデータを変換してMoTeCでチェックしています。
グラフ中央部の車速を見てみましょう。HDFが赤色、MDFが緑色、LDFが青色になってます。これを見てみるとストレートスピードはLDF>MDF>HDFの順番になっておりますが、各コーナーのボトムスピードを見ていくと、HDF>MDF=LDFとなっていることがわかります。ということは、MDFセットアップはコーナーが速くないのにストレートだけLDFより遅いのでタイムが出なかったという結論が出てきます。ということはやはり③の可能性が濃厚です。データを詳しく見て、検証してみましょう。
横軸を車速、縦軸を車高とし、上側がフロント車高で、下側がリア車高となっております。横軸は本来、対気速度にするべきですが、気候条件は同じにしているので車速で見ています。
このグラフから、LDFとMDFを比較してみると、リア車高はあまり大きな差は有りませんが、MDFのフロント車高はLDFに比べて高いことがわかります。最高速付近ではLDFのセットアップに対して約5mmもフロント車高が高いです。フォーミュラカーのフロントウイングはグランドエフェクトを活用していることもあり、フロント車高に対するダウンフォースの感度はかなり高いので、フロントのダウンフォース量はフラップ角度を立てているMDFに対して、車高が低いLDFのダウンフォースが近いレベルにあったのだと推測できます。
本来車高がこれだけ違うと正しい評価は出来ません。MDFセットアップは他の2つに比べて1G車高が2mm高かったので、その分フロント車高を調整して走行してみました。
①HDF : 1'29.916
②MDF2 : 1'30.291 (1G Front R/H 2mm down)
③LDF : 1'30.523
④MDF : 1'30.942
セットアップを調整したことでラップタイムが向上し、HDF>MDF>LDFという順番になりました。ステアリングの重さもLDFより感じることが出来るようになりましたのでグリップも増えていそうです。
MDFセットアップの改良版は白色で表示しておりますが、MDFの元々の車高から全体的にフロント車高が下がっていることが確認できます。ただ、これでもLDFとHDFに比べて高い傾向にあるので、もっと下げた方が良いかもしれませんが、これ以上はサスペンションを調整しないと変えられないので今回はパスします。
では、最後にMDF改良版に変えてLDF-MDF-HDFの車速を比べてみましょう。
こうやって見るとストレートはLDFが速く、コーナーのボトムはHDFが速いというのが顕著に見えてきますね。そして、このコースでは車速が低いインフィールドセクションでもHDFが速いことがタイムデルタから確認できます。
ということで、以上の検証結果から、結論を発表します。
インテルラゴスのF3において、エアロレベルはHDFをベースにするのが良い
※ただし、ストレートの取り分も有るので、HDFとMDFの間も検証が必要
まとめ
如何だったでしょうか。今回はシムレーサーが自分でセットアップを進めるための手順紹介と、その入り口である、基礎パフォーマンス評価のエアロレベル編をお届けしました。思ったよりボリュームがあったので、今回はここまでとなります。次回は車高設定編に入っていきます。エアロレベルに関してはある程度慣れれば、ラップタイムから速いか遅いかという評価は出来ると思いますので、是非皆さん試してみてください。
もし内容が参考になったらサポートして貰えると嬉しいです。 継続的に活動を続けるモチベーションになります🥺