平山さんがずっといる
私は昨日からおかしい。
足は地面についているんだけど、くるぶしから上が空に持っていかれそうになる感じがずっと続いて、とにかくふわふわしている。
それは、平山さんが忘れられないからだ。
平山さんは、昨日観た映画『PERFECT DAYS』の主人公だ。
🌾ここからは、やんわりとネタバレを含むので、敏感な人は注意してもらいたいけど、文字で説明したところで、映画の良さは損なわれないと思います。
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平山さんは、映画の題名とは裏腹に、なんの変哲もない日々を過ごしている。
でもそれが無性に羨ましくて愛おしい。
なぜなら、すべての瞬間が彼にとって贅沢な時間だから。
早朝、近所のおばさんの箒の音で起きて
朝ごはんの缶コーヒーを飲みながら
好きなカセットを流して車を走らせる。
昼過ぎまで仕事した汗を
開店直後の銭湯で一番風呂を浴びて流し
行きつけの飲み屋で酎ハイを飲んで
古本屋の100円コーナーで見つけた本を読んで眠る。
一番羨ましいのは、自分にとっての贅沢がなんなのか、完璧にわかっているところだ。
私は、(スタッフ)全員が平山さんとあの謙虚な暮らしぶりにまるで恋に落ちたように感じています。
監督ヴィム・ヴェンダースから平山さんへの手紙
そうか。私も恋に落ちたんだと、監督の言葉を見て気づく。
だからこんなにそわそわするんだ。
この気持ちは、何度映画を見直して、平山さんに会いに行っても落ち着かないと思う。
きっと、自分の中の「平山さん」を見つけないといけない。
そういえば平山さんは、1日の半分を仕事、半分を自分の時間に充てているようだった。
まずそれが贅沢だ。
もちろんその分お金はあまり稼げない。
でも平山さんは、自分の手の届く範囲の贅沢を、確実に味わっている。
それ以上求めることはなく、きちんと満足している。
この、自分で欲望の終わりを決めているところがすごい。
普通だったら、もっと上を上を、ともがいてしまう。
平山さんはこの境地に至るまで、一体どれだけの日常を過ごしたのだろう。
もし自分に毎日、半日自由な時間が与えられたとして、私は自信を持って贅沢だと言える時間を過ごせるだろうか。
やりたいことがパッと思いつかなくて、お腹がヒヤリとする。
少し時間をとって考えてみたら、こんな案が思いついた。
・気になってた本を読んで、頭の中が考え事でいっぱいになったタイミングで、あったかい湯船に浸かって、ひとしきり空想する。
・好きな曲のプレイリストを作って、聴きながら延々散歩する。
・こんな風に日記を書く。
まずはこんなところから始めてみようかな。