失敗を共有して肯定する場づくり「失敗展」のこと
失敗と聞いて、どんなことを思い浮かべますか?
どんな感情が生まれますか?
私は、失敗が怖いです。
そんな私が大学の卒業制作で実施した、失敗を共有して肯定する場づくり「失敗展」の活動についてまとめました。失敗に前向きなあなたも、失敗が怖いあなたも、ぜひ読んでいただきたいです。
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そもそも「失敗」ってなんだろう?
しっぱい【失敗】(名)スル ⇔ 成功
やりそこなうこと。目的を果たせないこと。予期した効果をあげられないこと。しくじり。
大辞林より引用(https://bit.ly/2DziAJY)
辞書にあるのは、とても抽象的な表現。
失敗って、どこからどこまでを失敗というのでしょう。また、良いものか悪いものか、この捉え方は人それぞれちがいます。
例えば、戦争を失敗と言う人もいれば、もはや失敗でないと言う人もいます。卵をうっかり落としたことを失敗と言う人もいれば、そんな日常の出来事は失敗ではないと言う人もいます。
失敗展の活動では、あえて「失敗とは○○である」といった定義づけはしていません。
個人が持つ価値観に委ねていて、私自身も私なりの価値観や失敗の定義を持っています。
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失敗が怖いのは、
「恥ずかしい」からだった。
私は失敗が怖いです。失敗するくらいなら、特に何も挑戦しないで安泰な暮らしを送りたいです。
…でも、そうにもいかないのが人生。
別に何か挑戦をしていなくても失敗はするし、やらなかった後悔ほど自分がいやになることはありません。
なんで失敗が怖いのだろうか?
失敗に恐怖感を抱く72人に調査した結果、お金や時間の損失よりも、「失敗をしたところを見られたくない」「嫌われたり見損なわれたくない」「ダメな自分を見たくない」といった、プライドや恥ずかしさが大きな理由にあると分かりました。
失敗が怖いと感じる人は自己肯定感が低い傾向にあります。ダメな自分のことが、許せないのです。それは個人だけでなく、現代の社会全体にもそう言えてしまうかもしれません。
では「絶対に成功する策」はどこにあるのでしょうか?これさえあれば、どんなに失敗が怖くてもへっちゃらですね。もちろん、無いんですけど。
レシピ通りに料理してもうまくいかないことがあるように、絶対に成功する策はどこにもありません。
ちょっと真面目な話をすると、人口減少や少子高齢化といった先進的な課題が深刻化する今、前例のない未来が待ち受けています。私たちはそんな未来を失敗なくして歩むことは不可能です。
失敗しない方法を探すのはやめて、失敗とうまく付き合う方法を探さねばなりません。
その第一歩は「恥ずかしい」という気持ちもひっくるめて失敗を肯定することだと考えています。隠したくなる失敗やネガティブな気持ちの存在を認め、受け止めていくことが大事です。
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「成功のもと」ってみんな知ってるけど、
みんな失敗はしたくない。
「失敗は成功のもと」という言葉は、その意味も含めて多くの人が知っています。でも、1で述べたように多くの人が失敗を恐れてしまいます。
私たち日本人の多くは、6歳になると教育の評価軸に則って等しく「普通」に育てられます。社会に出ると、世論というものがあります。所属や年齢、性別や肩書きによって「○○であるべき」といった認識が不自然にも深く染み込んでいます。
しかし、私たちは想像以上に多様な生きものです。何を失敗とするかは、定義づけられるものではありません。多様性を無視した失敗という言葉は、あまりに残酷で不条理なものです。
そして、失敗もきちんと評価されるべきです。失敗に必要なのは同情でも慰めでもありません。失敗を受けとめ、フィードバックをして次につなげなければ「成功のもと」にはなり得ません。成功ばかりを評価し賛美したところで、新たな価値は創造されないのです。
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余白だらけの「失敗展」は、
あなたの友だちになりたい。
失敗展には、2つのコンセプトがあります。
『 失敗そのものを肯定すること 』
『 多様な価値観や体験談を可視化すること 』
このコンセプトのもと、失敗展には10個の問いが展示されています。来場者は1〜10の問いに対し自問して、自分なりの答えを投票や書き込み等で展示に加えていきます。
01 失敗したことはある?
02 失敗を恐れて躊躇したことはある?
03 あなたにとって失敗はプラス?マイナス?
04 こんな失敗、したことある?
05 あなたの失敗談を教えて!
06 失敗と聞いてどんなイメージが思い浮かぶ?
07 どんな失敗を怖いと感じる?
08 失敗したその先に何があった?
09 失敗した時に何をする?何をしてほしい?
10 あなたなりの失敗の捉え方を教えて!
それぞれの問いの答えは随時蓄積され、可視化されています。来場者は他者の多様な答えを見聞きすることができ、新しい気づきや共感を得ます。来場者が手を加えることができる余白があるため誰もが主体的に参加します。
失敗を共有すると初対面でも直ぐに打ち解け、気づけば会場はいつも来場者同士が失敗の話で盛り上がっています。
失敗を「話す」ことで失敗が脳内で整理されます。そして、失敗展のスタッフや他の来場者が聞くことで失敗が受けとめられ、さらに頷きや共感、励ましの言葉によって徐々に「笑い」が生まれ失敗が昇華されていきます。人によっては笑いではなく、今まで泣けなかったと言う人がわんわん泣いていたり、失敗の昇華も多様です。
人通りの多いところで、派手に転んじゃった時に隣に友達がいたら、笑ってもらえるし
恥ずかしくない。それってすごく嬉しいこと。
失敗展は、まさにその「友達」のような場になることを目指しています。失敗を共有し受けとめ合い、一緒に笑ったり泣いたり怒ったりします。
そして、それ以上のことは何もしません。失敗を解決したり、来場者が後に新たな一歩を踏み出すか否かについては期待しませんし、期待しないでください。
ただ、信じています。失敗を肯定することが誰かにとっての小さな勇気になるかもしれないと。失敗が怖い誰かの生きづらさが、ほんの少し解けるかもしれないと。
信じるとは、期待することではありません。期待とは、成功を予期し待ち望むことです。失敗展にとっての成果は成功だけでないと捉えています。
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ネガティブな気持ちは
ネガティブなままでもいい。
この失敗展の原点は、私自身が失敗に恐怖感を抱いていたところにあります。
でもこの恐怖は、簡単に払拭できるものではないし、むしろ払拭するべきではないのかもしれないと考えるようになりました。
「怖い」「悲しい」「悔しい」「情けない」
「妬み」「怒り」「切ない」「恥ずかしい」
こういったネガティブな感情があるからこそ、人は反省したり努力することができます。ネガティブな感情に包まれたその瞬間は辛くて涙が溢れるかもしれません。けど、その涙は無理矢理に拭わなくたっていいのです。
失敗展には、失敗に前向きな人が比較的多く来場されます。ですが、前向き(ポジティブ)であることが正解というわけではありません。正解は常にあなたの中にあります。頬を伝った涙こそが、あなたの正解かもしれません。
ネガティブな気持ちもそのまま、ポジティブな気持ちは発散させながら肯定します。
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どんな失敗も許容されるなら、
どんなことがしてみたい?
失敗展は、2018年10月に山形で始まりました。11月には福島で、12月に東京と兵庫で、2019年2月に山形と宮城で、3月に福島で巡回展を開いています。巡回展の主催は私ではなく、各地域で「失敗展をやってみたい!」と声をかけてくださった方々です。
そんな、失敗展を一緒に運営してくださっている各地域の皆さんを「やらかし隊」と呼んでいます。メンバーは年齢層も職業も失敗に対する価値観も、十人十色。今、全国に50人程います。
失敗展のコンセプトに共感してくれた人たちが、出会い、ともに思いを共有しながら場をつくっていきます。
やらかし隊がつくる失敗展は、展示という形式のみならずトークショーや交流会、さらには「場」がなくても失敗を肯定できるツールとして「失敗かるた」の制作にも取り組んでいます。会場も、失敗展を届けたい年齢層や地域の特性に合わせて選んでいます。
失敗展の活動においては、いくら失敗をしても全てが失敗展のネタになります。例え来場者が数人しか来なくても、オープン時間が遅れてしまっても、チラシに載せた日付を間違えても、大丈夫です。
もちろん、わざと失敗をしようというわけではありません。ただ、失敗が前提でも「やってみる」選択ができる土壌づくりをしています。
一緒に何かやってみたい方、やってみたいことがなくても興味がある方はぜひお声がけください。
▶︎ 山形県山形市 ▶︎ 秋田県秋田市
▶︎ 宮城県仙台市 ▶︎ 福島県郡山市
▶︎ 新潟県五泉市 ▶︎ 東京都
▶︎ 福井県福井市 ▶︎ 滋賀県近江八幡市
▶︎ 兵庫県尼崎市 ▶︎ 愛知県名古屋市
▶︎ 大阪府大阪市 ▶︎ 京都府京都市
▶︎ 沖縄県 にて、やらかし隊 活動中!
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まとめ
〜 これからの失敗展 〜
失敗展はこれからも、失敗しながら歩んでいきます。失敗が怖くて活動をはじめた私自身にとってさまざまな気づきがあって、失敗に対する価値観もどんどん変化しています。
近日開催の失敗展と、現在計画中の失敗展について最後にご紹介させてください。
会期終了
▶︎『 失敗展 - illustration - 』2019.4/27-5/15
画廊喫茶「蜜」阪神尼崎駅より徒歩10分程
▶︎『 失敗展 in サマセミ!』2019.8/3 6時間目
琴ノ浦高校 阪神尼崎駅より徒歩7分程
https://www.facebook.com/events/383527125623582/?ti=ia
さらに今、福井での失敗展を検討中です。会場はなんと廃業になったスナック!結構広いので展示以外にも何かできないかなぁと妄想しています。ご興味ある方、ぜひぜひ一緒に何かしましょう。
失敗展は各会それぞれ、やらかし隊の皆さんによって場が紡がれています。ぜひ、会場にお越しください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。そして、失敗展に来場くださった皆さま、やらかし隊の皆さま、いつも応援してくださっている皆さま、本当にありがとうございます。
また数ヶ月後には、今と全くちがう失敗展になっているかもしれません。そのときはまた、綴ろうと思います。
失敗展の活動が、あなたの明日に、ちょっとしたワクワクをお届けできますように。
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失敗展 主催
遠藤百笑
design・illustration
遠藤百笑 / 木村有希(やらかし隊ロゴ)
photo
江村惇