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さや香の学び多き失敗

M1グランプリ2023、今年こそさや香が優勝じゃないかと期待される決勝戦で、さや香はチャレンジ過ぎるネタを選んで大コケするという展開になった。

もう、ここにはたくさんの学びがあるよねー!と、うちのシェフの人とも飲食店営業になぞらえて翌日話をしたのだけど、あらためて言語化してまとめておきたい。

さや香の決勝戦ネタは、四則演算に新たに「見せ算」という計算法を付け加えたいと、その計算法をレクチャーしてくれる理系ネタだった。

まぁ、ぶっ飛んでいたのだが、その前フリの段階で、仮想通貨やメタバースといった、多くの人がよく知らないが故に怪しく感じているワードから入ったもんだから、つかみの段階で引かせた感もあり、さや香ワールドに入りづらい空気感をまとった状態で本ネタに突入した。

なので、最初の「四則演算」と言った段階で、うちのシェフの人はさや香の漫才を楽しむことを放棄した様子だったし(早っ!)、わたしも応用編の2見せ5の眼は1.1というあたりでバンザイした。

笑ったという意味での面白さはまるでなかったけれど、決勝でよーこんなチャレンジネタ持ってきたなーという「感心」という意味では面白かった。が、やっぱり大笑いさせてほしかった。



M1大反省会で、さや香は千鳥のふたりにこう語っている。

・元々、あのネタは芸人、ダブルヒガシとコウテイを笑わせるためにつくった。

・決勝であのネタをどうしてもしたいがために、ファーストラウンドでは勝てるネタを持ってきた。

・NGKではもう少しウケた。

・自分のあのネタでは勝てないというのは、令和ロマンのネタ中でわかっていた。

さらに、ファーストラウンドを二度ほど見返すと(わたしも好き者である・笑)、ネタ終わりに「ウエストランドさんがウケてくださってたのが嬉しかった」と新山はコメントしていた。

そうか、さや香は玄人ウケの穴にハマっているのか! そう思った。

自分がもっともやりたいことを大舞台で実現するために、手堅い仕事をして勝ち進んでいって、大舞台で自分ワールドを表現するという考え方はよくわかる。

千鳥のふたりもそれをかっこよかったと評していたけれど、笑いをとってナンボの漫才、挑戦と笑いの両方を得るにはもう少し客観視するか、止めてくれる人が周りにいなかったのか⁉︎と思ってしまった。



翌日、シェフの人はさや香のネタを「料理だけに没頭しすぎて、サービスとかや店のしつらえとかを見ていない、みたいなのと同じ」とたとえていた。なるほどである。

飲食店に限らず、事業をしているとこういう「玄人の穴」に落ちることはよくあって、わたしも、編集者時代も、いまの飲食・宿泊事業でも、これはホントーに気をつけていることのひとつでもある。

ファインダイニング屋をやっていると、レストラン慣れされた方やフーディーをお相手する機会が多くなる。しかも、ゴエミヨやディスティネーションなど評価をいただいたりすると、黒帯のお客さま率が高くなるので、どうしても意識しがち。

それはとっても光栄なことだし、実際めちゃくちゃ鍛えられるので本当にありがたい。

が、ファインダイニングのお客さまの60%は、一般の方の人生の特別な日でできているのだよね。誕生日、結婚記念日、プロポーズ、入籍日…。

テーブルで共感し合える料理に、場を和らげる接客だったり、心地よい空間、そして時間や食べ手の気持ちなどが総合的に合わさって「おいしい」という世界はつくられ、特別な日を彩る。

はずが、玄人ウケを気にするあまり、お客さまに上下をつけたり、料理がマニアックになりすぎたり、技巧に走り過ぎたりして、本来の「おいしい」を忘れたり、目の前のお客さまを見ていないひとりよがりな店になってしまったりする。

そうならないよう、弊袋では試食を重ねたり、お客さまから感想を聞いたり、カジュアルデーやイベントなどで、いつもとは違う層のお客さまをお相手したり、冬の日本料理やビストロごっこなどで自分たちに風を通して客観視のできる機会をつくったりしている。



でもまあ、そういう弊袋だって、イベントとかでやり過ぎちゃう時あるんだよねー(汗)。


見せ算でいうところの、さや香見せ愛と胃袋は0に他ならない。

だから、エンゾにも届きそうなほど語っちゃうのよねー。

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石田恵海
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