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創造性を高める「無知のアート」スキル

VUCA時代(Voatility 変動、Uncertainty 不確実性、Compexity 複雑、Ambiguity 曖昧)と言われるように、また、新型コロナウィルスの影響もあり、先を見通すことが、ますます困難な社会になっていると考えられます。

2006年に、ダニエル・ピンクの著書「ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代」が出版された、10年以上も前から、新しいことを生み出すスキルとしてのクリエイティビティ(創造性)の重要性が増しています。

創造性は、

・前例のない問題に対して、アイデア(解決策)を発想したり
・新たな事業の機会(インサイト)を発見したり
・先を見通せない状況でも、自信をもって解決策を発見したり

など、VUCA時代を生き抜くために、大切なスキルの1つです。

でも、「創造性を高めるにはどうしたらいいのだろうか?」と考えてみると意外と多くの知識を、われわれは持っていないことに気が付きます。

私が留学していたフィンランドのアアルト大学は、新しいビジネスを構想したり、社会のためのイノベーションを創出していく、"創造性"についての、知識やスキルを誰でも育むことができる機会を提供していました。

留学して最初の導入プロジェクトでは、創造性を発揮するためのマインドセットや、知識、思考体系についての基礎を学びます。タイトルにあるようにそこでの学びの1つが「知らないことのアート」戦略です。

関連する文献として、ミュージシャン・教育者・ライターの3つの肩書きをもつCraig Coggie氏が書いた"The Art of Not Knowing(知らないことのアート)"があります。彼は、学校やホスピス、ビジネスの現場で音楽やインプロヴィジョン(即興演劇)のツールを用いて、イノベーションを生み出す個人・組織の変革を支援しています。

上述の導入プロジェクトでも、演劇についての授業がありました。ダンスをやっている人であれば良く聞くであろう"インプロビジョン"(型にとらわれず、即興で自由に思うままに作り上げる動きや演奏、またその手法のこと)を体験するものでした。

現在ではこのインプロビジョン=即興劇が、ハーバードやMITなど、世界的なビジネススクールでも注目され、『ビジネスインプロ』として、ビジネスパーソンのトレーニングで使われています。

話がそれましたが、それでは本題である「知らないことのアート」について、紹介します。

WHAT WE KNOW: 知っていることが大好き

最初に確認しておきたいのは、私たちは「知っている状態」が好きだということです。子供に質問をすると、知っているフリをすることがあるように、わたしたちには、知っているということを誰かに示すことに嬉しく思う性質が備わっています。

TwitterやInstagramなどで「こんなことを知っているよ」、「あんな体験をしたよ」と、私たちは知っていることを人に伝えるのが好きなようです。

知っていることのメリットとして、人に伝えるためだけではなく、問題を解決するために役に立ちます。

例えば、洗濯機が壊れたとき、専門家を呼んで、直してもらいます。それは専門家が私たちには知識と経験を持っていて、洗濯機を直すことができるからです。

でも、この「知っている」ことが好きで役にたつことは、創造性にとってはボトルネックになってしまうことがあります。

WHAT WE DON'T KNOW: 知らないことこそが大事

何か新しいものが生み出されるときは、常に、「知らない」という状態から始まります。

化学の世界で考えると、「この物質Aとこの物質Bを混ぜたら、どうなるだろうか?」という"好奇心"があるからこそ、新しい発見が生み出されます。

それは、自分が知らないということを前提に立った時、何かを学ぼう、新しい何かを生み出すために知りたいという好奇心が生まれるためです。

でも、私たちは「知っていることが大好き」なので、おうおうにして、「知っているつもり」になりがちです。

例えば、彼氏や彼女、パートナーと口論したとき、私たちはどんなやりとりをするでしょうか?

「この話って本当に大事なことかな!?」
(あなたがイラっとしたのは分かるけどね)

「うーん、あなたどう思うの!?」
(あなたがどう考えようが関係ないし、無関心なことも知ってるけどね。)

「おいおい、またその話かよ!?」
(聞く耳を持たないから、議論をしても仕方ないことは知ってるけどね)

こんな具合で、私たちは、自分の考えを曲げようとせず、「自分の主張が間違っていないこと」を主張する傾向があります。私にとっては、とても頭が痛い話です。

著書のCraigさんは、相手の主張が"Typical"(典型的)で、どこかで聞いたことのあるありふれたものだと、錯覚をしていることが原因だと言います。

つまり、相手が言いたいことは、本当は知らないことかもしれないのに、あたかも「知っている」かのように思えてしまい、聞く耳をもたないなど、新しいことを学ぶ姿勢を失ってしまいます。

このように、知っていることが大好きな私達は、「知っている」つもりになりやすく、この性質が"創造性"を発揮できない理由になってしまいます。

“Make yourself more open to possibility by practicing being more open to not knowing"(あなた自身をもっと可能性に解放してあげなさい。もっと、知らないということに身を置くことを訓練しなければならない)。

そこで、著書Craigさんが送るアドバイスは「知らないことに対してジブンをオープンにしておく訓練」をすることです。自分が知っていることは限りがあることを自覚して、もっと色んな可能性があるということに自由でいようと伝えています。

ソクラテスの「無知の知」のようなアドバイスですが、ここから踏み込んで「どのようにすれば、無知のアート戦略を身につけることができるのか?」についても、提案をしています。

知らないことのアートを実践する

創造性を高めるには、「知らないことに対してオープンでいる」訓練をすることが大切だという話をしました。

最も簡単で大切な訓練方法として、「私はどれくらい知っているの?」という自分に対する問いを投げかけることだと言います。そして、その知っている度合いを1~10で評価します。

例えば、会議に出席するのであれば議論される内容は、どれくらい知っているのか?と自分に聞くと、4、5、6と案外と知らないことが多いのではないでしょうか。

パートナーと喧嘩したときも、相手が言っていることや、その状況について私はどれくらい知っているのだろう?と考えてみると、意外と、8、9、10といった数字ではなく、4~7といった具合で、知らないことがたくさんあることに気が付きます。

このように無知を意識する訓練について理解したとして「無知にオープンでいることが本当に創造性を高めるの?」と疑問に思った方もいらっしゃるかもしれません。

些細なことに聞こえるかもしれませんが、無知にオープンでいることが創造性を高める理由として、次の2つあります。

1つは、「知ろうという意欲がたかまる」ことです。

仕事の例を考えてみると、新規事業のアイデアを考えている場合に、想定するお客さんやユーザーの方が、どんなモノやサービスを欲しているのか、私達はどれくらい知っているのでしょうか?

スタートアップの失敗理由TOP20

source : CB insights/The top20 reasons startups fail(元記事

スタートアップの約7割は失敗(倒産)に終わり、その理由の半分近くが、「市場ニーズ」の不足であると言われています。つまり、私たちは自分たちで考えるほど、顧客やユーザーのことをよく知らないということです。

だからこそ、「私は顧客やユーザーのことをどれくらい知っているの?」と自分に問いを発することで、4なのか6なのかと、自分がいかに知らないかについて意識することができ、「もっと知ろう」という意欲的な行動が出てくるのではないでしょうか。

もう1つは、「アンテナが立つ」ことです。

私たちは、無意識に「世界を自分の見たいように」見ていると言われています。

例えば、妊娠している女性は、妊娠中の女性がどこにでもいるかのように感じます。あるいは、フェラーリが欲しいと考えている人は、街中のフェラーリが気になって、実際以上にフェラーリがたくさん走っていると感じます。

同じような要領で、知らないことのアートをうまく活用することで、「無意識に働いてもらう」ことができます。

先ほどの新規事業やスタートアップの例でいうと、顧客やユーザーについて驚くほど知っていない(例えば、10段階中4)と自問自答して、意識しているとします。そうすると、私は、"顧客ニーズを知りたい"というアンテナが立ちます。例えば、想定する顧客と近しい友人と出会ったときに、ふと想定しているニーズがあるのかどうか話をすることがあるかもしれません。あるいは、街を歩いていて、対象とする顧客と近い人を見かけると、その人の行動をつぶさに理解しようと務めることがあるかもしれません。

このように、自分が知らないということを理解し始めると、創造するために必要な情報が、無意識的に入ってきやすい状態を作ることができます。

加えて、創造性は「いつ」発揮されるのか予測できないものです。例えば、シャワーを浴びているときに、良いアイデアを思いつく。ずっと考えていて分からなかった問題の答えがランニング中に思いつく。など、どのタイミングで自分自身の創造性が解放されるのか、分かりません。

唯一、このタイミングのランダム性を活かすことができるのは「アンテナ」を立てることです。自分が好奇心をもって「知りたい」、「解決したい」と思っていることを、意識しておくこと、つまり、知らないことに対するアンテナを立てることによって、ふとしたタイミングで創造性が訪れる環境を整えてあげることができます。

だからこそ、「私はどれくらい知っているの?」という問いを発することから始めてみてはどうでしょうか。案外、知っているつもりになっていることを意識する"無知のアート戦略"によって、創造的になる道を拓くことができるかもしれません。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

Photo by Helen Sepp on Unsplash

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