サステナブルと自然の豊かさ:なぜ北欧スタートアップが今注目されるのか
サステナブル投資、ESG投資、インパクト投資などと呼ばれる「人類と地球環境の持続的な発展」に貢献する分野における投資熱が高まっています。
先週、フィンランドで留学していた友人と話をしていて「サステナビリティに関する研究テーマを選び、「北欧らしさ」のある研究ができて良かった」という話をしました。
私たちが留学していたアアルト大学はスタートアップとの距離も近く、キャンパス内にスタートアップのオフィスがあったり、在学中に起業する人も、多かったと記憶していますが、そのなかでも「サステナビリティ」をテーマに事業を起こす人がたくさんいました。
日本でサステナビリティと聞くと、地球温暖化や気候変動にまつわるビッグすぎるトピックで、研究ならまだしも起業のテーマになることにピンとこない人も多いと思います。
ところが、北欧では約1/3のスタートアップがサステナビリティに関連する事業領域で起業しており、ホットなトピックの1つです。この記事では北欧のサステナビリティへのマインドと、そのマインドから生まれるスタートアップについてご紹介したいと思います。
なぜ「サステナビリティ」は北欧らしいのか?
初めにサステナビリティは、北欧らしいという話をしましたが、その背景にあるのは、北欧の「気候」だと私は考えています。
日本にも四季があり、暑さ、寒さ、台風や雨など、多様な自然環境があると思いますが、北欧の自然の特徴はなんといっても「厳しさと身近さ」にあると考えています。
例えば、私が滞在していたフィンランドの首都圏では、冬にマイナス20°近い気温となり、太陽も1日2−3時間という過酷な日々が約半年つづきます。
アイスランドでの自然(とても風が強いです)
そんな厳しい環境からこそ、自然をいやでも意識せざるを得ないですし同時に、自然との「近さや繋がり」を感じやすいと思っています。
家族で旅行したアイスランドでは、Airbnbで滞在したレイキャビックのお家のオーナーは開口一番、「必ずゴミは分別して捨ててね。だってほら、未来に大人になってこの世界を生きる子供たちが、今みたいに豊かな社会で暮らせるように。」
という地球環境と遠い未来に配慮する言葉が自然と出てくるくらいに、サステナビリティという概念がとても身近で、大切に感じているようです。
他にも、日本で菜食主義というと、「お肉を食べると体調悪くなるの?」と心配する人もいると思いますが、北欧では「あっ、二酸化炭素の排出量削減に貢献するサステナビリティの感度が高い人なのかな?」と思われるくらいその意識はとても高いです。
このような生活をしている人ひとりひとりのサステナブル・マインドの高さから、起業家のパッション、投資する会社の条件、サステナブル志向のあるブランドに対するニーズの三拍子が揃っているのが北欧だと考えています。
北欧スタートアップに対する世界の見方
そういうサステナブル志向の強い北欧とそのスタートアップに対する世界の見方はどうなのでしょうか。
北欧を拠点とする日本のVCであるNordic Ninja(国際協力銀行と経営共創基盤の関わっているVC)が発行している「北欧バルトに学ぶデジタル ・ イノベーションと社会変革」というレポートが分かりやすいので引用します。
北欧バルト各国は8か国合計で、約3300万人(日本の1/3)の人口しか持たない小国の集まりにもかかわらず、起業家精神や、イノベーション指数、幸福度など様々な指標において上位を占めています。
北欧の幸福度は日本でも有名ですが、実は、世界トップレベルの起業家やスタートアップの割合が人口あたりで、非常に多いというデータがあります。
日系の大企業による出資や買収の事例も、デジタル系、ヘルスケア系のスタートアップを中心に増えています。
なかでも、北欧のインパクト投資(社会的な価値も重視した投資手法)では2020年に約2000億円という数字もあり、大きく伸びており、世界的な潮流がサステナビリティ、インパクトに向かう中で、今後を占う意味で、北欧に注目が集まっているようです。
欧州のサステナブル・スタートアップ
北欧に特化したサステナブルに関するスタートアップ情報が少なかったので欧州のカオスマップを調べてみました。
B to B 領域を中心にサステナブルに関して、次の3つのテーマで数多くのスタートアップがたくさん(乱立?)あるようです。それぞれのテーマについて1社ずつ紹介します。
サステナブル・スタートアップのテーマ:
A:循環型経済(リサイクル・材料取引・プロダクト寿命延長)
B:サプライチェーンの透明性(可視化・マネジメント・モニタリング)
C:排出量マネジメント(排出炭素量の推定・排出炭素の吸収)
A:循環型経済(プロダクト寿命延長)
1つめは、Circular IQという製品の循環性に関する可視化に取り組んでいるオランダのスタートアップです。
Circular IQは、製品ひとつひとつに「Product Passport(製品パスポート)」と呼ばれるIDを付与することで、その製品の循環性を可視化するオンラインソフトウェアを提供しています。
背景にはCradle to Cradle®(ゆりかごからゆりかごまで)という認証(企業がどれだけ循環型サイクルを生み出せているか、条件に則った製品を作れているかの基準)が欧州で導入されました。しかしながら、その基準を満たすことは容易でなく、多くの企業ではその認証を満たすのは大変難しいため、データマネジメントを用いてサポートしようと考えたそうです。
B:サプライチェーンの透明性(追跡)
2つめは、UNISOTというノルウェーのスタートアップで、養殖した魚に関するサプライチェーン管理アプリケーションを提供しています。
ブロックチェーンの技術を活用し、サプライチェーン内で異なる3社の企業間での信頼性と匿名性の高いデータ連携を可能とし、魚が養殖されてから、消費者の手に渡るまでの全ての情報を追跡可能にする取り組みです。
C:排出量マネジメント(排出炭素量の推定)
3つめは、The Upright Projectという企業の炭素排出量を算定するモデルを提供するフィンランドのスタートアップです。
世界的に排出する二酸化炭素(CO2)に値段を設定し、投資の是非を決める企業が増えています。一方で、1つの企業がプロダクトやサービスを提供するまでに関わるステークホルダーやサプライチェーンが複雑になっており、企業の炭素排出量を算定することは容易ではありません。
The Upright Projectはオープンデータをもとに独自のアルゴリズムにより、企業毎に排出する炭素量を推定することができ、より世界が炭素の排出量に強い意識をもって生産活動を行うインセンティブを創造しようとしています。なお、今年の6月にはアメリカのNasdaqとの提携を発表しており、益々投資に対するサステナビリティの重要性が高まっていきそうです。
===
この記事では北欧とサステナビリティの親和性や、スタートアップの事例についてご紹介しました。日本でもサステナビリティへの注目はビジネス領域でも高まっていますが、一歩先を行っている北欧からの情報は今後も注目していきたいと思っています。
北欧ではサステナビリティと合わせて、ウェルビーイングやヘルステック、デジタルガバメントなど北欧らしい起業テーマが他にもあります。今後も、調べてご紹介していこうと思っています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
Photo : taken in Reykjavik, Iceland