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論理的思考を捨てる勇気

論理的に考えることは、ビジネス基本であり共通言語と考えられています。

・会議では、結論から話して、理由を要点のみ伝える。
・客観的事実をまとめて話し、意見を添える。
・問題を分解して、解決することができるまで分析する。

これらの論理的思考は誰しもが聞いたことがあると思いますし、論理的思考=デキるビジネスパーソンだと考えている方もいらっしゃると思います。

私も大学院で研究をしたり、エンジニアとして物作りをしたり、新規事業の市場調査をしたり、常に論理的に考えることが求められていました。

しかし、今は、論理的に考えることで非効率的になったり、成果が出ないタイプの仕事ってあると感じています。同じ仕事でも、論理的思考によって、遠回りになったり、足かせになってしまうことがあるとさえ考えています。

論理的思考がなぜ非効率になってしまうのか、また、論理的思考の対となる感性的思考がどのように私たちの仕事を高めてくれるのかについて書こうと思います。私の考えるこれからの時代の仕事術」として、ますます重要性が増してくるスキルだと思っています。

論理的思考の罠

論理的思考の非効率性は、一般に論理的思考が適していると考えられる仕事にも当てはまります。最近、Twitterでバズっている天才プログラマーの「論理的思考の放棄」というブログを読みました。

このブログでは、一般に考えられている「コンピュータに関する技術的な仕事 (プログラミングやソフトウェア設計など) は、論理的思考で行うのが良い」という常識を完全に否定しています。彼の高速プログラミングは、どんなソフトウェアがあるといいかについてイメージを膨らませて、心の中に、具体的な設計図やデータ構造を思い起こすまでは、決して、論理的に考えないそうです。我々がビジネスの常識として教わってきたことの真反対です。

では、どうして、論理的思考が非効率となってしまうのでしょうか?

論理的思考とは

まず、論理的思考とは何かを考えてみると、一貫して筋が通る考え方であり(wiki)、原因と結果の因果関係を整理したり、問題を解決できるまで分解したり、MECE(漏れなくダブりなく)に考えることに特徴があります。

論理的思考のイメージ

論理的思考は、物事を「分解」して考えることで、WHY(なぜ)の場合は真因を突き止める、HOW(どうやって)の場合は問題解決、WHAT(何)の場合は構成要素を把握するのに役立ちます。

ここで考えたいのが、これらはすべて、思考を「収束」あるいは「分析」で考えることで、閉じていく考え方だと言えます。逆に言えば、思考を「発散」あるいは「創造」させていく考え方ではありません

論理的思考が非効率になる時

一言で言えば、論理的思考は、新しい何かを創造させていくときには、別の考え方が必要で、論理的思考は適した考え方ではない可能性があります。

例えば、新規事業やイノベーションを創出するために役立つと言われているデザインのアプローチを考えてみます。アップルや任天堂などの著名なデザイナーを研究して作成したdouble diamond design processを参照すると、次のようなモデルになっています。

Double-diamond design process (British Design Council)

リサーチから始まり、機会の定義、プロトタイプの開発、ソリューションの検証というデザインの標準モデルです。

図をみるとわかるように、思考が「発散(開く)」するフェーズと、思考が「収束(閉じる)」フェーズが交互にきていることが分かります。論理的思考は、オレンジ色で塗った「収束(閉じる)」の考え方であり、青色で塗った残りの半分の「発散(開く)」フェーズには適していません

先ほどの天才プログラマーの例でいくと、最初に「ソフトウェアの全体像を描きイメージする」という創造的なプロセスについては、一切論理的思考を使わずに、実施していました。おそらく、その後のプログラミングを実際に行うところでは、多少なりとも収束させていく論理的な思考が働いていたのではないかと思います。

論理的思考の対となる感性的思考

論理的な思考ではない考え方とは、なんだろうかという疑問が生まれると思います。仮に「感性的思考」と呼ぶことにしますが、厳密に定義することは既に、論理的思考による発想なのでしません。

私たちが好きな映画をみて「感動して、これは素晴らしい!」と感じたり、洋楽を聞いて歌詞はわからないけど、「なんだかリズムがとても心地よい」といった発想は、感性的思考であると考えます。

感性的な思考は、私たちの頭というより身体などの感覚(五感)を使って考えているとでも考えられます。右脳的な性質をもつ感性的な思考は、非連続的にヴィジュアルで考えることが得意だと言われています。そして、論理的思考が1歩ずつ石橋を叩いて進むとすれば、感性的思考では細かいことを気にせずジャンプして進んでいきます。

例として、創造的な仕事だと考えられている起業家がどのように考えているのか取り上げたいと思います。エフェクチュエーションと言われる起業家の思考をモデル化したものがあります。

起業家思考(エフェクチュエーション)
What makes entrepreneurs entrepreneurial? Saras D. Sarasvathy

図に示すように、今手に入れることができるリソース(お金、人脈、技術、情報など)を元に、どんな未来(事業)を作ることができるだろうかと、imagining(イマジネーション)をさせることから始めます。

天才プログラマーが使っていた思考法と同じように、論理的に「ゴール」を決めて逆算するのではなく、今手持ちの手段から「発散」させて、ゴールを鮮明に思い描いていくことで、高速に新しい何かを発想していくようです。

ここでは、感性という言葉は出てきませんが、身体的・感覚的に記憶している情報を元に、抽象的なイマジネーションを用いているという点で、感性を働かせているだろうと考えられます。

それでも我々が論理的に考えてしまう理由

ここまでみてきたように、論理的思考は、新しい何かを生み出すという点において、重要な感性が働かず、遠回りになったり、非効率になったりするため、論理的思考を捨てる必要があることを書きました。

それでも、わたしたちは、とりわけ仕事においては、論理的に考える傾向にあります。だから、新しいものが生み出すことは難しいとも言えます。

その原因は、感性的思考は、論理的思考に殺されやすいからです。

「もっと細かく分析して、穴のないように準備しなきゃ。」
「1つでもミスをおかしたら、昇進はできないぞ。」
「なんだお前、話の辻褄が合わないじゃないか。」
「この資料、論理的に破綻してるぞ。」

といった具合で、論理的思考を放棄すると周囲にいる何者かにより、批判や否定をされやすく、不安や焦りといった負の気持ちがわきやすくなります。

この記事を書いている私も、論理的に考えて「論理的思考を捨てる」なんておかしいじゃないか!と言われるかとビクビクして、様々な文献を探して、論理的に正しいことを証明したいなんて気持ちが働いてしまいます。

先ほどのdouble diamond design processでみたように、たしかに論理的思考も必要ですが、新しい何かを生み出す(ブログを書く、サービスを考案する、事業を考える、顧客への提案内容を考えるなど)活動にはすべて感性的思考が適しているわけです。

だから、これまでビジネスの常識と考えられてきた論理的思考を捨てる勇気が必要です。一旦、論理的思考を脇に置いておくことで初めて、直感やイマジネーションといった感性的思考が解放されるのだと思います。

Photo: ノルウェーのオーレスンで撮影

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