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デザインハッカソン # Stanford大学 Peace Innovation Lab
何かと注目が集まってるデザイン思考。
IDEOと並んでデザイン思考の生みの親であるスタンフォード大学から、「デザイン思考とは異なるイノベーションプロセス」を学ぶ機会がありました。
10月13〜14日で、ヘルシンキで開かれたデザインハッカソン"DASH"に参加しました。参加者約300名。ヨーロッパ最大のデザインハッカソン。
私のケースでは、スタンフォード大学のPeace Innovation Labと共同でハッカソンを行いました。ラボのCo-FounderであるMarkさんが3日間通して、独自に開発したプロセスとその理論を説明しながら、ファシリテートしてくださいました。
貴重な学びがたくさんあったので、まとめておきます。
Peace(平和)とは?
今回の大きなテーマであるPeace(平和)について。一般的にPeaceは「戦争や争いがない状態」のことを指しますが、Peace Innovation Labでは「他者とのポジティブで利他的な関わり」と定義しています。Peaceを具体的な行動として捉えることで、Peaceを計測でき、具体的にデザインすることができます。背景には、グループ間を超えて(性別、国籍、宗教etc)ポジティブな関わり合いが増えると、戦争や争いがない状態もしくはフェア(公平)な状態に近づくという理論があるとのことです(詳細はこちら)。
今回はこのポジティブな関わりを増やすために、どうテクノロジー (PeaceTech) をデザインするのかっていうのがテーマでした。PeaceTechの例をあげると、Facebookで「イスラエルはイランが好き」というグループができ、異なる2つの文化が交流するプラットフォームとなっていたそうです。他にはドローン。シリアの内戦によって物資が届かないエリアに、周辺国からピンポイントで救援物資を届ける活動があるそうです。
今回のお題
今回はポジティブな関わりの中でも、性別を超えた仕事上でのポジティブな関わり合いを増やすというテーマでした。背景には、シリコンバレーのIT企業で、男女関係なく世界中で使われる製品を開発しているにも関わらず、女性のポジションが男性よりも悪いことがあります。スタンフォード大学がはるばるヘルシンキにやってきた理由は、フィンランドでは男女平等がとっても進んでいて、その知見をシリコンバレーに持って帰りたいという思いがあったそうです。
デザインプロセスの特徴
今回のデザインプロセスの特徴は、ユーザー調査から始めない、短い時間(10分~30分)でプロトタイプを作ってインサイトを得る、メンバーをどんどん入れ替えてプロトタイプを作る、WHY?ではなくWHAT?HOW?を重視して素早く前に進める、といったことが挙げられます。
好例の分析とデザインエリアの決定
まず、男女平等の先進国と言われる、フィンランドでの良い具体例を分析しました。身近で男女間でのどんなポジティブな関わり合いがあるか、その特徴、システムなど、とにかくアイデアを多く出します。例えば、フィンランドでは男女共通のトイレの御手洗場がある、育児休暇が男女共に同じだけ取れる仕組みがあり実際に取っている、そもそも階層がないもしくは緩い、などが挙がりました。
各自のアイデアを共有したのち、アイデアのグルーピングを行い、メインのインサイトを抽出しました。
そこから、「インパクト」を縦軸に、我々が実施した際の「介入し易さ」を横軸に取り、インサイトを評価し1つに絞りました。今回は、フィランドでは、女性が男性と遜色なくキャリアを積んでいく機会と仕組みがあり、リーダーシップを発揮しているというインサイト(Female Leadership)に注目しました。ここで1つに絞る理由は、2日間という短い時間でアウトプットを出すために、精度は落ちても、フォーカスするエリアを決め打ちして走り始めて、ダメなら後からピボットするのが最速の手順だから、と理解しました。
ここから、男性 ⇨ 男性、男性 ⇨ 女性、女性⇨男性、女性⇨女性の4つの関わりから1つを選びました。再びインパクトと介入し易さから選んだのですが、この時点で正確に評価できないので、多数決(女性の参加者が多かったというのもあって)によって、女性⇨女性に焦点を当てることにしました。時間がある場合は、他の関わり方のパターンでも検討する必要がありそうです。
ポジティブな関わりを増やす手段の分析
次に、女性のリーダーシップを向上させるというテーマで、女性⇨女性のポジティブな関わりを増やすために、どのように我々が介入できるのかについて分析しました。まず、分析対象のフィンランドでよく使われているテクノロジープラットフォームを選びました。今回はインスタグラム。
インスタグラムで、我々がどんな働きかけを行えば、女性のリーダーシップを向上させる関わり合いを促進することができるのか、検討しました。
その前に、Peace Innovation Labの方から、Behavior Design (行動デザイン)とPersuasive Technology (説得の技術)について講義を受けました。
例えば、人間が行動を変えるのに必要な3要素:モチベーション、能力、トリガーについてや、ソーシャルゲームで使われているような、人の行動を変えるためのステップ、報酬の仕組みなどについて、講義をしてくれました。悪い目的でも使える知識なので、参加者の中には嫌悪感を抱いて、退出する人もいました。先生も利他的な目的で使用することを念押ししていました。
詳細は共有しないでくれ、とのことでしたので、ラボのホームページへリンクを貼っておきます。こちら。
それから、我々ができる働きかけのアイデア出しとプロトタイプを15分で作り、自分のインスタアカウントを使って実行します。3人 x 5 グループに別れ、1つのプロトタイプが終われば、1人入れ替えて同じことを繰り返しました。この入れ替え方式で、別のチームが考えていたアイデアのエッセンスを共有し、効率的にプロトタイプの改善を行うことができます。実際には、15分でアイデアの共有、プロトタイプの作成、実際にインスタで行うのは難しく、とにかく新しいアイデアを試すことに集中していました。
例えば、ストーリーで女性がリーダーシップを発揮しているモデルを紹介、それに対する意見を聞いたり、他に女性のリーダーシップを発揮している例を知らないか、それをさらに共有してくれないか、などの働きかけのプロトタイプを作り実施しました。
ここで1日目終了。非常に展開が早く、1日でこれだけやれるのかと驚きました。LabのCo-Founderがファシリテートしてくれたことが大きく、短期間のデザインプロジェクトには特に、ファシリテーターの技能と経験が重要だなと感じました。
翌日。
昨夜の間に、インスタグラムで実施した内容に友人からフィードバックをもらいました。そのフィードバックの内容を踏まえて、どんな働きかけが上手くいきそうかについてインサイトをまとめました。例えば、具体的な個人の体験の共有、ロールモデルの紹介、同じ業界に持つ人たちでグループを作りそこで意見交換、などが出ました。これらのインサイトの中から、1番友人からのウケが良かったものに絞りました。今回は「アドバイス」でした。 ここまでで、「女性のリーダーシップ」、「女性⇨女性」、「アドバイス」の領域に絞りました。「女性のリーダーシップを向上させるために、女性から女性へアドバイスする関わりを増やすテクノロジーをデザインする」、という課題まで落とし込みました。
プロトタイプの作成
以上のインサイトを踏まえて、実際にアプリのプロトタイプを作りました。同様に、3人 x 5グループに別れ、30分で1つのプロトタイプを作り、1人入れ替えて別のプロトタイプを作る、というのを繰り返しました。全部で、約15個のプロトタイプを作りました。プロトタイプの作成には、POP (Prototyping On Paper) を使い、スマホ画面のスケッチを取り込んで、簡単な動作ができるようにしました。
プロトタイプの中で、これだけは盛り込みたいという重要な特徴を書き出しました。そして、1番良さそうなプロトタイプを選び、それを精錬させていきました。最終的に、女性が心を開いて、職場での働きやすさについて、意見を開示でき、相互にアドバイスを送ることができるプラットフォームアプリというコンセプトになりました。これに決まった理由は、すでに日本でいったらキャリコネのような会社に関する意見をまとめるプラットフォームはあるものの、女性のための働きやすさ、リーダーシップ、キャリアの機会に特化したアプリはないこと。また、ここに特化することで女性が意見を発信しやすいこと、男女の機会平等の社会の流れに企業も注目していることから、プラットフォーム集まる知見を活かしたビジネスの機会があることが理由です。
プロトタイプのスクリーンショット (アプリ名:"Winsight")
ここで、Markさんから、クラウドファンディングサイトに掲載しよう、という鶴の一声が掛かり、Indiegogoに今回のプロジェクトを掲載しました。 お金が集まれば、実際に作り始めることができるし、何より、実際にお金を出したいと他の人が思えるかが重要なフィードバックになると思いました。クラウドファンディングサイトに掲載するには、より機能を具体化したり、セールスポイントを書いたり、自分たちのコンセプトに対して理解を深める機会にもなったと思います。
最後に、他の課題に取り組んでいた参加者とゲストの方達にプレゼンして、今回のハッカソンは終了。
左がMarkさん。
考えたこと
今回のデザインプロセスは、非常にエンジニアリング的なアプローチだなと思いました。エンジニアリングは、対象となる現象を記述し、それを定量化できるようにし、仕様や目的に合わせてデザインしていきます。どんな現象(WHAT)が、どうやって起こっているか(HOW)を重視しており、どうやって実現するのか (HOW)が最も重要な問いです。一方で、留学先のアアルト大学では、常々、デザイナーはWHY?から始めよと教えられてきました。これは、ユーザーの調査から始めて、なぜユーザーがそのような悩みを抱えているのか深掘りすることで、解決すべき本質的な課題が見えてくるという思想に基づいています。今回のように、ビジョンを既に定義した状態(今回は、グループ間のポジティブな関わりが平和に繋がるという思想)からスタートする場合、WHY?を問うよりも、WHAT? HOW?の問いを投げかけることで、効率的にアウトプットを出すことができると思いました。
終わりに - 今回のデザインプロセスを抽象化して捉える
最後に今回使ったデザインプロセスを他のケースでも応用できるように、より抽象化して捉えておきたいと思います。意図する行動を促すために、どうテクノロジーをデザインするか、に使えるデザインプロセスとしては、下図のようになるかと思います。
さらに、今回使ったアプローチさらに抽象化してみます。
ここまで抽象化すれば、他のケースでも応用することができそうです。
ここまで分析して思ったのは、東京大学 i.school(イノベーションスクール)で紹介されているイノベーションワークショップのデザインプロセスと似ていることです。創設者で教授の堀井先生がここに簡単にプロセスを書いています。
Stanford大学 Peace Innovation Labのメンバーは、ほとんどがエンジニアであると聞きました。そして、ファシリテーターMarkさんは元投資銀行出身。また、i.schoolの堀井先生は工学博士です。元々、デザイナーのバックグラウンドを持たない人がイノベーションを生み出すためには、今回のようなデザインプロセスが機能するのかもしれません。なぜなら、WHY?から始めるユーザーリサーチはデザイナーの経験と技量に依存する部分が大きく、誰でもイノベーションの種となるインサイトを抽出できるわけではない(と私は思う)からです。今回のデザインプロセスでは、ゴールを達成した好事例と、ゴールを達成する手段の分析と実験を通して、プロトタイプの出発点となるインサイトを抽出/決定することができました。
デザイン先進国のフィンランドにいる間に、色んなデザインプロセスを研究、経験して日本に持ち帰ってきたいと思います。
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