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起業家志望の選択肢としてのフィンランド留学について【アアルト大学のスタートアップ・エコシステム】

フィンランドは日本ではあまり知られていませんが、ヨーロッパのシリコンバレーと呼ばれるほど、多くのスタートアップの生まれる場所です。

ヨーロッパ最大のスタートアップの祭典であるSLUSH(英語でぬかるみの意味で、11月の雪が融けて、ぬかんだ地面が名前の由来)もフィンランド発のイベントで、日本でもSLUSH TOKYOが毎年開かれています(カバー写真)

背景には、フィンランドは、小国であってもグローバルで戦えるイノベーションを自国企業で起こすという国家的課題を抱えており、社会全体でグローバルスタートアップを生み出す仕組みを整えています。

私自身、2017年8月から約2年間、フィンランドのアアルト大学IDBM (International Design Business Management)に留学していました。実際に、スタートアップのエコシステムについて見みていくなかで、非常に恵まれた環境が整備されていると感じました。エコシステムとは、企業、研究機関、投資家などを含め、様々な領域の人たちが技術やノウハウ、知見を集結させてイノベーションを起こす事業生態系のことです。

この記事では、フィンランドのアアルト大学周辺のスタートアップ・エコシステムが優れている理由について、私の感じたところをまとめていきます。起業家志望の学生さんや、スタートアップのエコシステムに関心のある大学、企業の方々に参考になればと思います。

起業家育成プログラムの充実

まず、アアルト大学自体が、イノベーションを創出するエコシステムの一部として設立されたという歴史的背景があります。元々、ヘルシンキ工科大学、ヘルシンキ経済大学、ヘルシンキ芸術デザイン大学の3つが2010年に統合して、設立された大学です。狙いは、科学・工学・ビジネス・芸術の専門性を密接に連携させることによって、イノベーションの創出に寄与するアカデミックな拠点を構築することです。そのため、起業家(イノベーター)を育成するプログラムが非常に充実していました。

Aalto Venture Program
起業家養成プログラムの代表となるのが、Aalto Venture Programです。AVPは、様々なコースを通じて学生に知識と機会を提供し、起業家がどのようにビジネスを拡張していくか、実際に手を動かして経験する機会を提供しています。アアルト大学の学生であれば、誰でもコースを受講することが可能です。一部、エントリーシートによる選抜があるものもあります。

コースの例として、次のようなものが提供されています。

・Starting Up:スタートアップのアイデアを考えるツールを学ぶコース
・Startup Experience:6ヶ月でスタートアップを立上げを経験をするコース
・Opportunity Prototyping:顧客ニーズを捉えたプロトタイプの設計コース
・Storytelling:起業家のストーリーテリング養成講座
・Startup Finance:スタートアップの財務を学ぶコース

起業に必要なアイデアの作り方、プロトタイプの作り方、資金やメンバーの集め方、そして、実際にスタートアップを立ち上げを経験できるコースまで用意されており、網羅的に知識・スキル・経験を学ぶことができます。

加えて、週1回、現役の起業家や投資家の方を招待して、レクチャーやワークショップをうける機会が用意されています。これは、学生だけでなく誰でも参加できるもので、社会人も多く参加していました。

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起業家のゲストレクチャーの様子(写真

私が印象的だったのは、Haarlaさんという女性のエンジェル投資家の「エンジェル投資家と契約締結後の価値創出について」というレクチャーです。彼女は、化学系事業会社のマネージャー、MBA、起業、政府系ベンチャーキャピタル、PhD、大学教授、エンジェル投資家という異色の経歴があります。

エンジェル投資家の目線から、スタートアップを立ち上げて成功させる人に向けてのアドバイスを事例を交えて紹介してくださいました。このように、実際に活躍している投資家や起業家との距離が近く、実際にアドバイスをいただける機会がありました。

企業×学生の連携プロジェクト

日本の大学では、知識を習得して試験をパスすること、大学院では研究を実施して論文を出すことが主な教育内容だと思います。加えて、フィンランドでは、企業との連携によるプロジェクト型の教育も重視されていました。

例えば、学生が主体となり、企業が提供するテーマや課題に応じて、製品やサービスを開発したり、企業の抱える課題を解決するコンサルティング型のプロジェクトが数多くありました。学生にとっては、このプロジェクトを通じて製作したプロトタイピングを使い、企業から出資してもらい、事業を起こす機会が得られることもあります。

企業にとってはかなり低価格でアイデアやプロトタイプから学びが得られたり、優秀な学生をそのまま採用することができます。

いくつかコースの紹介をしたいと思います。

PDP: Product Development Course
提携企業が考えているふわっとしたテーマを基に、プロダクトのプロトタイピングをするコースです。エンジニアやビジネス系の学生を中心に参加し、ユーザーのニーズ調査から、プロダクトの試作品の開発まで行います。企業から一定の(数百万円ほど?)予算をもらい、調査や開発費にあてます。

私の友人は、このプロジェクトで、家にいながら海底探索を楽しむというコンセプトのもと、海の海底を探索する遠隔可能なロボットをプロトタイピングしていました。依頼した企業から資金をもらい、プロジェクト終了後、会社を設立して製品開発までいっていました。

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ME-310: Design Innovation at Stanford University
スタンフォード大学のデザインイノベーションプロジェクトで、アアルト大学もパートナーとして参加しています。

日本からもANAなどの企業がスポンサーとして出資し、デザイン思考やリーンスタートアップの方法論を学習しながら、教授や産業界のメンターの指導のもと、学生は、プロダクト・サービスのデザインを行います。約6ヶ月ほどのプロジェクトで、特徴としては、プロトタイピング(仮説を検証するための試作品)を目的と段階に応じて、いくつも(5回程度?)作っては考え作っては考えを繰り返すことです。

私の友人は、ANAが提供するテーマである「高齢者向けのフライト体験価値の向上」に取り組み、実際にIoTデバイスのプロトタイピングを行なっていました。

IDBM Industry Project
私が留学していたIDBM(国際デザインビジネスマネジメント)のプログラムで、スポンサー企業が提供するテーマに対して、イノベーティブな解決策とプロトタイプの提案を行うものです。

予算には比較的余裕があり、対象とする地域(中国、アメリカ、アジアなど様々)でのユーザー調査のための出張や、ウェブサイトの製作、プロトタイプの製作まで行うことができます。我々のチームは、ケニアの食の安全性をテーマに、2週間ほど現地に滞在し、トウモロコシや牛乳のサプライチェーンの調査、消費者のデザインリサーチなどを行う機会がありました。

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Workshop at University of Nairobi

顧客との距離も近く、2週に1回のペースで、報告会やワークショップなどを開催し、共創型でサービスコンセプトなどを作り上げていきました。

アクセラレーションプログラムの充実

フィンランド全体に言えることですが、アクセレーションプログラム(数週間~数ヶ月の短期的支援で、ビジネスを急速に成長させる支援プログラム)が充実しており、学生でも参加可能なものも多くあります。学生が中心となり、投資家や起業家のメンター達とのコラボレーションによって運営されるNPO団体であったり、政府系のプログラムなど数多く存在します。

Aaltoes

学生のフルタイムワーカーによって運営されるNPO法人です。応募して得らればれたスタートアップに対して、起業家や投資家たちからのメンターシップや、他のスタートアップと競い合いながら、一気にプロダクト開発を進めるといったプログラムが提供されています。

Kiuas

フィンランドでは夏に長期休暇をとるため、この夏の間にアクセラレーションプログラムをていきょうしている団体です。

Espoo Innovation Garden

「Espoo Innovation Gardenは、1万8000人の学生と40の研究開発組織、100以上の国籍の異なる人々が参加する国内最大級のエコシステムです。人材や企業のマッチングが行われ、オープンイノベーションの機会となっています。エコシステムの基盤となっているのはアールト大学。2010年にヘルシンキ経済大学、ヘルシンキ工科大学、ヘルシンキ芸術デザイン大学の合併により誕生し、スタートアップ発展の鍵を握る学生や大学主体の団体が中心となり、さまざまな起業プログラムが運営されています」引用:Forbes

スタートアップ支援施設の充実

フィンランドのなかでも、特にアアルト大学周辺にはスタートアップを支援する施設が充実しています。

A-Grid
アアルト大学のメインキャンパスが存在するオタニエミにあるスタートアップが入る施設です。120社以上のスタートアップと国連イノベーションテクノロジーラボ、欧州宇宙機関ビジネスインキュベーションセンターなどからなるスタートアップコミュニティと言われています。アールト大学の施設に入居しているこのコミュニティには、コワーキングスペースや工房、ラボなどが完備されているほか、有能な卒業生や元ノキア社員などの人的ネットワークも充実しており、スタートアップのハブ的な役割を果たしています。

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A Grid: https://forbesjapan.com/articles/detail/25884/2/1/1

Aalto Design Factory
アアルト大学のなかにあるデザイン研究機関であり、イノベーションの拠点となっています。ここでは、プロダクトデザインの教育、研究、適用を目的とした共同制作プラットフォームという位置付けです。

学生を中心として、小さく、早く、安く、イノベーションのタネであるプロトタイプを作るために環境が整っています。3Dプリンターやクリエイティブになれる空間、コーヒー、工作機器などなど。

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デザインファクトリー: https://forbesjapan.com/articles/detail/25884/2/1/1

Maria 01
Maria 01は、2016年にオープンしたコワーキングスペースで、建築家・Lars Sonckによって設計された「病院」を改装して造られています。ヘルシンキ市は北欧でスタートアップにとっても最も重要な年になるという目標を掲げており、市が主導となって進めている施策の1つです。

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Maria 01 (写真は公式LinkedInから)

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今回紹介したように、フィンランドにとって、グローバルで活躍できるスタートアップとその担い手である起業家を育成することは、国家課題になっており、学生時代から起業やプロダクト・サービス開発を経験する機会が多くあります。また、ヘルシンキ市などの公共団体、企業などとのエコシステムが整備されており、起業したい人とそこを支援する様々な人や施設、仕組みが手に届きやすいと感じました。また、人間関係も礼儀はわきまえながら、フラットな関係性を大事にするため、積極的な若手の起業達は先輩の起業家や投資家などとのネットワークを広げ、アドバイスをもらっているようにも思いました。ゼロワンで事業を作っていく起業家を目指している方には1つ選択肢としてフィンランドも考えてみてはいかがでしょうか。

Cover Photo from https://www.slush.org/

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