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「笑坂&吉野大夫ツアー」(9)
【ツアー24】 軽井沢郵便局
二度に一度の旧軽局の方へは、バスで出かけた。軽井沢駅前のバス停から、郵便局のある旧道までは歩くと三十分かかった。バスも出ているが、わたしはそこを呆んやりと何か考えながらいつも歩いた。駅から五分くらいのところに、郵便局の出張所があった。原稿を送るのは、そこからでもよかった。
しかし私は旧道までの約三十分の道を、ぶらぶら歩くのがたのしみだった。
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【追分雑記】
昨年わたしが信濃追分で書きつけた「追分雑記」は、わたしにしてはまことに珍しい記録だ。わたしは、昨年の四月五日から、九月二日まで信濃追分で山暮しをしながら、生まれてはじめての書下ろし長篇『挾み撃ち』を書いた。
「追分雑記」は、横綴じの極くありふれた小さなメモ帖である。青い表紙にボールペンで「追分雑記 一九七三年」と書いてある。(中略)
ただ、何が何だか判らないのでは仕方がないから、若干の補足、注釈をつけることになるだろう。わたし自身、『挾み撃ち』を書いていた当時のことを出来るだけ思い出しながら、そうしてみたいものだ。
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(信濃追分での長篇『挾み撃ち』書下し生活、1973.5.9~8.19脱稿までの記録)
【鉛筆と消しゴム】
最後に一つだけ書いておきたいのは、鉛筆書きのことである。常用していたペリカン万年筆が故障したのは、一昨年(昭和四十六年)の五月だったと思う。インクを吸い上げるネジを力一杯ひねり過ぎて、ねじ切ってしまったのである。『挾み撃ち』はまだ一行も出来ていなかった。書き出し寸前のところで、ウンウン唸っていた。力はそのために入り過ぎたのだろう。(中略)
わたしは草道を下り、油屋の手前の亀田屋に行って4Bの鉛筆と消しゴムを買って来た。(中略)消しゴムは一個二十円くらいで、漫画がついていた。
『挾み撃ち』は亀田屋で買った鉛筆と消しゴムで出来上った。文字通り、書いては消し、消しては書いた。そしてそれ以来わたしは鉛筆常用者になったのである。
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さて、『挾み撃ち』脱稿直前でわたしがおどろいたのは「新潮」編集部の坂本忠雄氏からの電話だった。確か脱稿の三日か四日前だったと思う。まるでわたしの脱稿予定日を見抜いてでもいるようなタイミングだった。
電話の用件は、長篇脱稿後の気晴らしに「新潮」に二ページの随筆を書けという。その原稿依頼の電話だったが、どうしてわたしの脱稿予定日を見抜いたのか。実さいわたしは、電話口で狐につままれたな気分になった。
この随筆は「追分便り」(「新潮」1973.10月号、エッセイ集『分別ざかりの無分別』1974.12所収)と思われます。
この神業の秘密は、あとになってわかった。たまたま河出書房を訪れた丸山健二氏が、石野氏の机の上に置かれていたわたしの原稿をちらりと見たらしい。(中略)いずれにせよ、丸山氏はそれを見て、坂本氏に話したのだろう。石野、坂本両氏は、丸山健二担当の編集者である。
この話は当の坂本氏からあとになってきいたものだ。坂本氏はこういっていた。
「いゃあ、机の上の原稿をちらりと見ただけで、すぐに『挾み撃ち』だとわかったと丸山氏はいってましたよ。大したもんですよ」
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(「朝日新聞」1973.10.28朝刊)
【追分便り】
とうとう五カ月間、信濃追分の山暮しになってしまった。四月の初めにやって来た日は、粉雪のようなものが宙を舞っていた。もちろん、あたりは一面の裸木だった。夏には雑草だらけとなる庭の地面もむき出しのままだ。宙を舞っている白い粉雪のようなものは、地面に積らなかった。雪ではなかったのかも知れない。いったい何が舞っていたのだろう? 結局わからないままであったが、昨年の九月以来閉じっぱなしの雨戸を開くよりも、まず石油ストーブである。電気ごたつである。
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【番外15】 雲場池
旧軽のもう一つの代表的な癒しスポットは雲場池です。
雲場池には、旧軽ロータリーから南西方向の六本辻に向かい、右に曲がってすぐの所です。
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(続く)