「出久根育展 チェコからの風 静寂のあと、光のあさ」を見に吉祥寺へ
こんにちは、みしまです。
少し前になりますが、武蔵野市吉祥寺美術館へ「出久根育展 チェコからの風 静寂のあと、光のあさ」を見に行ってきました。
出久根 育さんのことを知ったのは、出久根さんが国際的な絵本原画コンクールであるブラチスラバ世界絵本原画展で、過去にグランプリを受賞したことのある3人の日本人画家のうちの1人だということを知ったのがきっかけでした(他2人のグランプリ受賞者は、瀬川康男さん『ふしぎなたけのこ』、中辻悦子さん『よるのようちえん』)。その受賞作は『あめふらし』という作品で、グリム童話に絵がつけられたものです。
あめふらし
初めてこの絵本を目の前にしたとき、あめふらしという生物自体も、グリム童話の『あめふらし』もよく知らなかったけれど、とにかく出久根さんの不穏で美しい表紙絵に心をわしづかみにされました。
グリム童話『あめふらし』のあらすじは以下のとおりです。
改めて見ても、こんなに黒黒とした絵本の表紙はめったにないように思います。怖いもの見たさに、ついページを開いてしまう魔法の書のようなたたずまいです。
なぜこんなに心が揺さぶられるのか。表紙や最初の見開きに表現された、赤(王女のドレス)と黒(背景の壁)の強烈な組み合わせだったり、決して笑わない登場人物の冷たい表情が、読者の不安を掻き立てるのかもしれません。そして読み終わったあと、恐くて美しいお城を冒険してきたような、胸の高鳴りと達成感を味わうことができるのです。
「出久根育展」会場へ入ると……
鳥の翼をひろげる少年
さて、展示のほうに話を戻しましょう。今回の展示で印象に残っている作品は、まず、初期の作品である銅版画です。少年のような少女のような、すこし変わった風貌の子どもたちの、無表情の表現に目を奪われてしまいました。
特に《上昇する欲望Ⅱ》というタイトルの、少年が大きく手を伸ばしている絵。その手は鳥の翼のようになっていて、大きく高く上に向かって広げられています。そして、少年の上を飛ぶカラス。とにかくアンバランスで不気味で、そして美しいのです。
ルチアさん
次に目を奪われたのは『ルチアさん』。2人の少女が描かれた絵とそこに添えられた文章を読んだ瞬間、お話の世界に引きずり込まれていくようで、どんなお話なのか気になって仕方がありませんでした。作者の高楼方子さんは、本展覧会の図録で以下のように記しています。
展覧会から帰宅後すぐ、私はこの『ルチアさん』を入手して読み始めました。
『ルチアさん』のあらすじは以下のとおりです。
小さな子ども向けの冒険ファンタジーかなと思って読み進めていましたが、次第に、ルチアさん、ルチアさんの娘、スゥ、ルゥルゥ、2人の両親、それぞれの思いや人生観が胸の奥に伝わってきて、最後は何度も読み返していました。
そして、このお話の鍵である「水色」がベースになっている出久根さんの表紙絵は、やはりとっても素敵なのです。裏表紙に描かれた青く光るルチアさんの後ろ姿を見ると、私もルチアさんに会ってみたい、と思わずにはいられませんでした。
マーシャと白い鳥
今回展示されている作品の中で圧巻だったのは、絵本『マーシャと白い鳥』からの作品です。マーシャの赤いスカーフ、リンゴの実。豊かな厚みのある「赤」が来場者を包み込みます。絵本の中で描かれているリンゴの木と少女が再現された大きなキャンバスがあり、絵本の世界に没入していく感覚になりました。
『マーシャと白い鳥』のあらすじは以下のとおりです。
私は、マーシャが暗く深い森にやってきて、はりねずみに助けを求めるページが好きです。暗闇の中でマーシャがひと際輝いていて、その目からは意思の強さを感じます。ひらひらとスカーフを翻して走るマーシャの赤色から彼女の決意が伝わってくるからです。
* * * *
ほかにも、出久根さんが住んでいるチェコの豊かな自然が表現された作品からは、見たことのないチェコの空や風、光が感じられました。
皆さんも、出久根 育さんの絵本、ぜひ読んでみてくださいね。