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僕の覚悟と彼女の戸惑い

「彼女のそばにいよう」

僕はそう決めた。

何事もなく過ぎていく毎日の中で、一滴のしずくが落ちたあの日。

僕と彼女は、別々の時間を過ごし、違う景色を見る。そんな仲になった。

それでも、毎日のように来るライン。「おはよう」の一言で終わる日もあれば「今日は何してる?」と、予定を聞いてくることもある。何してる?のあとは、読まなくてもだいたいわかる。ランチしよう、買い物に付き合って・・・ほとんどはこんな感じ。

恋人同士ではなくなった瞬間、この人とどう接していいのかわからなかった。完全に関係を断ち切ってしまうには、あまりにも長い時間、一緒にいすぎたから。

たぶんだけれど、きっとこれからも適当な距離を置いてそばにいるような気がした。そして、それは当たっていた。

キスなんてしない。抱き合うこともしない。変わったのはただ、それだけで、相変わらず一緒にいる時は手をつないで歩いている。

歩くときも食事をするときも彼女はいつも僕の左側。

何も変わらないけれど、彼女には新しい恋人がいる。それが唯一変わったこと。僕には全く理解できないけど、なぜか彼女は僕のそばにいる。

誰かが言っていた。恋愛の相談をする相手にいちばんぴったりなのは、長く付き合った元恋人なんだそうだ。それはお互いのことを誰よりも知っているから。

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じゃあ、僕は彼女にとって最高の相談相手だ。

二人でいる時に酔っぱらうと彼女はいつも僕にこう聞く。

「ねぇ、最近どう? 彼女できたの?」って。

そして僕はいつもこう答える。

「俺に彼女がいたほうがいいの?」

すると彼女の答えはいつも同じ。

「だって、フェアじゃないじゃん。私には彼氏がいるのに・・・」

その日の夜も、いつもと同じように彼女は酔っていた。

「彼女・・・いるよ」

ちょっと冗談で言ってみた。

「えっ」

ちょっとびっくりしたような、彼女の声。

「嘘だけどね」

「だよね、彼女がいるのに私と二人でいるような性格じゃないもんね」

いったい、彼女の気持ちはどこにあるんだろう?不思議で仕方なかった。

お店を出たあと、自然と手をつないで歩く。特別なことじゃなくて、ごく自然に。二人にとって当たり前のこと。だけど、彼女には恋人がいて、僕にはいない。アンバランスな関係、いびつな関係。

(ちょっと教えて欲しいことがあるんだけど)

そんなラインが来た。話を聞けば、たいしたことじゃない。もっと言えば、彼氏に教えてもらえばいいじゃん、って言う程度のこと。それでも彼女は僕に連絡をしてくる。

そして、会う約束をして、色々と教える。すると、いつものパターン。大事な部分だけ聞くと

「あとは彼にやってもらうから」

なんで?それならわざわざ、僕に聞くことない。ますます、わからなくなる、彼女の気持ち。

元サヤ・・・全然考えてない。僕には僕の時間があって、彼女には彼女なりの生活がある。だけど、いつも近くにいる。

電話することも、会う回数も減ったけれど、まったく連絡を取らない時間は、長くても3日間。それ以上だと、ラインが来る。

「おはよう」とか「何してる?」とか

僕は僕で、出会いがないわけじゃない。でも、なかなか気持ちが動かない。だから、いつかその時が来るまでは、無理になにかをしようとも思わなかった。

その時? その時ってなんだろう? 

「今つないでいる、彼女の手を離すとき」

きっと、そんなタイミングがやってくる。そう思っていた。だけど、最近では逆。

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この人の手を離す時なんか来ないなんじゃないかって気がしている。

彼女できた?って聞かれる。そして、そのあと僕が返事をする。そこに続く言葉はいつも同じ。

「私、ほんとに甘えてるよね。感謝してるんだ、誰よりも」

それがどんな意味なのか、どんな気持ちから出てくる言葉なのか、僕はまったくわからないし、知ろうとする気もない。考えれば少しは理解できるのかもしれないけれど、彼女の声を聞いているだけ。

だから、その言葉に返事はしない。

そして、僕はいつしか覚悟をした。

彼女のそばにずっといよう。

恋人同士じゃないから離れるんじゃなくて、恋人同士じゃなくてもそばにいる。そんな覚悟。


「私、やっぱり甘やかされてるな。でも、ありがとう」

少し寂し気で、だけど安心したような彼女の声。

そんなことが、繰り返される

僕と彼女の日常。







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