悲しいのは、アナタがいないから・・・じゃなかった・・・
少し前からなんとなく気がついていた。アナタの気持ちが、どこか他の場所にあるってこと。
優しくしてくれないとか、近くにいてくれないとか、そんなわかりやすいことじゃない。
だから、自分が想像する通りの結末が、近いうちに訪れるだろうからって、必死で身構えていた。
「ねぇ、もしかしたら、他に好きな人ができた?」
彼は少しだけ私の顔を見てから、こう答えた。
「うん、気になる人はいる」
その言葉を聞いた瞬間、何もかも諦めた。どうにしかして引き留めようとか、彼を説得しようなんて考えなかった。ずいぶん長い時間、一緒に過ごしたせいもあるけれど、彼のことに関しては、驚くほど察しがいい。いいことも悪いことも。
それほど、大切に想える人だった。
こうなった以上、私がどんなにもがいても、彼の気持ちが戻ってくることはないことを嫌というほどわかっていた。だから、私はこんな選択肢を思い浮かべた。どの道を選ぶかなんてわからなかったけれど。
その一つは、彼の前からきれいさっぱり消えてしまうってこと。きっと一番つらい選択だけど、一番楽な方法でもある。
もう彼のことで悩まなくて済むんだから。
二番目の道。お互いのことを本当によく知っている友達になる。そのうち、私にも新しい恋人ができて「そっちはどう?」なんて軽口が言い合えるようになれたらいいんだけど、今はちょっと難しそう。
そして最後。ちょっとだけ、他の誰とも違う特別な存在になる。友達以上で恋人未満。そんな言い方があるけど、それってどんな関係なのかはよくからないかな。
もちろん、彼にフラれたんだから悲しかったし、それなりに涙も流した。一緒にいた時間が長いから、きっと私たちのことを知っている友人に話したら、かなり驚かれることだろう。
ただ、私は絶対に都合の良い女にだけはなりたくなかった。別れても身体の関係だけとか、暇つぶしの相手とか・・・。
最後に彼に聞いてみた。
「私があなたの生活から、完全に消えてしまったらどう思う?」って。
(仕方ないよね、俺が他の人を好きになってしまったんだから)
こんな答えしか返ってこないことはわかっていたけれど。
でも、彼の返事は意外だった。
「きっと、本当に悲しいし寂しいと思う・・・」
それなら、なんで別れるの?どうして、他の誰かに惹かれたの?とは思ったけど、心のどこかで嬉しいと感じてしまった。
それでも彼と私は、今でも一緒にいる。
お互いのことをよく知っているから、居心地はとってもいい。別れたことを知らない友人からみれば、私たちは仲の良い恋人同士のまま。本当のところは、もう恋人ではないんだけれど。
元カレ元カノという立場になった私たちだったけれど、一緒に過ごすことが多い。それは趣味が同じだったり、共通の友人が多いせいもある。
だけど、二人の間に決定的な、縮まらない距離ができてしまったのも確か。手とつなぐことも、キスすることも、肌を重ねることもなくなってしまったから。
そして、元カレと過ごす時間は気を使わないけれど、楽しいわけじゃない。私の横を歩く姿を見ると(この人はもう私の恋人じゃない)って、ついつい自分に言い聞かせてしまう。本当は、以前のように手をつないで歩きたいとは思うけれど。
未練なんだろうな。
やっぱりサミシイ
これは本当の気持ちだった。
私がずっと彼にしてほしかったこと、かけてほしいと思っていた言葉。そんなものをいとも簡単に手に入れられる、元カレの新しい彼女。私の知らない、元カレの新しい恋人。
私の回りには誰もいなくなってしまった気がした。だから、今でも苦しくて、悲しい気持ちを押し殺してでも、元カレの前で笑っている。いつまで続ければ終わるんだろう、この関係。
そして、彼が元カレになってから3ヶ月が過ぎた。相変わらず、私は新しい恋人を作る気になれずにいた。
「恋人になる」っていうのはちょっと違う。「恋人になっていく」これが正しいと思っているから、そんなに簡単に恋人を作ることなんて私には無理だ。
でも、「まずは付き合ってみる。そこから考える」なんていうこともできる私。それは気持ち的な話ではなくて・・・。
これでも意外と私はモテる。男性からアプローチされることも、そこそこあった。だけど、彼氏がいる時の私は、驚くほどガードが堅い。というよりも、大切な彼氏しか目に入らないってのが本当のところ。
そして、その人のことを長い時間、想い続けられるのもきっと私の長所。
そんなんだから、少し器用に立ち回れば、元カレのことなんか忘れて楽しい時間がやってくることはわかっていても、なかなか自分の気持ちをごまかすことができない。
なんだか、もやもやした気持ちのまま、元カレは用事があれば連絡もしてくるし、私も頼み事を平気でしてしまう。
(こんなんじゃダメ? これが友達以上恋人未満?)
自問自答しながら過ぎてゆく時間。そしてある日のこと。
相変わらず、元カレは私の横にいる。ちょっとした買い物に一緒に付き合っているだけ。
だけど、私は元カレと一緒に店内を歩くことはない。きっと元カレが買うのは私の知らない誰かと一緒に使うものだから。そんな姿や物を見て、落ち込むほど私もバカじゃないってこと。
やっぱり、いろんな場面で寂しいって思ってしまうのは、彼の気持ちが私の近くにないからなのかな。
そんなことを考えていた私のスマホに一通のライン。
(これから時間ある?)
最近、よく食事をしたり、飲みに行ったりする男友達からだった。特別に好きとか、会いたいって思う人じゃないけれど、いろんな価値観が似ていて、一緒に過ごすのは楽しかった。
この買い物が終わったら、特に予定もない私は、すぐに返事を書いた。
(今外だけど、用事が終わったら大丈夫だよ)って。
すると買い物を終えてお店から出てきた元カレが
「このあとメシでも食べに行く?」
って私に聞いてきた。もちろん、つい数秒前に予定ができた私は元カレの誘いを、その場で断った。
「ゴメン、このあと用事あるんだ」
こう口にした瞬間、私の気持ちがトクンと波打った。
(あっ、これが悲しいって思ういちばんの理由だ)
気がついてしまった私。
悲しいのは、一緒にいられないからとか、新しい恋人の元へ行ってしまうからじゃないんだ!って。
もう、彼のことを最優先に思えない
このことに気がついてしまった私は、溢れる涙を止めることができなかった。
私が彼といても悲しいって感じてしまうのは、彼の気持ちが離れたのが理由じゃない。
何よりも、誰よりも大切に想ってきたその人のことを、一番に思えなくなってしまったからだ。
それって、本当に私にとっては、なによりも悲しいこと。
あんなに好きだったのに、大切だったのに。その人と過ごす時間よりも、他のことを選んでしまう自分。
それができることに気がついた私は、黙って泣くことしかできなかった。
諦めてしまったのか、それとも冷めてしまったのか。もしかしたら、疲れてしまったのかもしれない。
本当に本当に、彼のことが好きだったから、こんな日が来るなんて思ってもいなかった。
アナタのことが一番に思えないワタシ
これが悲しい気持ちの理由
大好きでした
あなたのことを