復讐はデートのあとに
あっけない終わり方だった。
4年も付き合ったのに、別れるってなったら、それまでどんなに長い時間を過ごしていようが関係ないんだっていうのが嫌ってほど理解できた。それくらい、あっさりとした別れ。
どうして私がフラれるの? なんで別れなきゃならないの? そんな気持ちなんて一切あなたには伝わらない。
私が涙を流しながら、寝られない夜を過ごしているときも、彼はきっと何も考えずにぐっすり寝ているんだろう。いや、それどころか新しい彼女と楽しい時間を過ごしているのかもしれない。
そんなことを考えると、悲しいし辛かった。でも、どんなに私が苦しんでも、楽しかった時間は返ってこないこともわかっていた。
この辛さや寂しさが薄らいでゆくまで、どれくらいの時間がかかるんだろう?そんなことを考えると、また涙が溢れ出してくる。
悲しい、辛い、寂しい・・・そして、悔しい。
悔しい?
そうだ、私が悪いことなんてなかった。いつも彼のことを一番に考えていたし、心配をかけたことなんかもない。彼氏がいるって知りながら、近寄ってて来る男も、そうじゃない男も、私にとっては石ころみたいなもので、気にも留めなかった。
なのに、なんで私が泣くようなことになったの?
そして、私は泣きはらした顔を鏡に映しながら、こう決めた。
絶対に復讐してやる!
私はイイ女のままでいる
色々考えた末に私はこう決めた。
別れてしまったあとも、イイ女でいようって。例えばそれはこんなこと。
彼が連絡してくれば、すぐに返信もするし電話も出る。何かを求められたら、嫌な顔なんか絶対にしない。私が出来る範囲で助けてあげる。
これって付き合ってた時に私がしていたことだから、特別な事じゃないんだけどね。
そして、私の予想通り、彼は別れた後もちょくちょく連絡をしてくる。
なんでかって? それは私とは友達になれたって思ってるから。
だけど、私はそんなに甘くない。
いつものように、気軽にラインしてくることも、電話をかけてくることも、すべてを受け入れたふりをする私。
食事に誘われれば、よほどのことがない限り断らないし、彼の買い物だって付き合う。
「なんかさ、夏物の服が欲しいんだよね」
「いいよ、私がお見立てしてあげるよ」
「サンキュー、俺一人だと似合う服とかわかんないからさ」
「だよねー。今着てる服だって私のチョイスだもんね」
ほら、彼にとって私はとっても役に立つ女。
食事に行けば、彼の好きなものも嫌いなものもわかっているから、迷う事なんかない。
「なに頼む?」
「じゃあ、これとこれ」
そう私は言ってメニューから数品を選ぶ。
「それな! ちょうど俺も食べたいと思ってたんだよ」
居心地がいいってこういう事。
こうして、彼と私の時間が過ぎてゆく。デートなんかじゃない、かといって一緒にいるのが苦痛なわけでもない。
だけど、私と彼は恋人同士じゃない。
こんなふうに、誰が見たってイイ女のままでいることが、私の復讐の第一歩。
とことん私の存在をアピールしておいて、彼の気持ちに安心感が芽生えたところで、思いっきり冷たくするか、目の前から完全に消えてやるつもり。
そして、心の底からこう言ってやるんだ「ざまあみろ」って。
「相談したいことがあるんだ」
あたりまえのように、彼から電話がかかってくる。その電話が鳴るたびに、一瞬だけ私の時間が止まる。
「もしもし、どうしたの?」
いつものように明るい声で電話にでる。
(あのさ、今週って時間ある?)
どうせ、こんな調子で予定でも聞いてくるんだろうって思ってた。だけど、その日の電話は少し違っていた。
「いや・・・ちょっと」
そう言って彼は声を詰まらせた。
「なに?」
問いかける私。
「実はさ、ちょっと相談したいことがあって」
私はその言葉を聞いた瞬間、ついにその時が来たって思った。
ずっと、彼にとって居心地のいい女を演じてきたのは、この時のため。彼がどんなことを言うのかわからなかったけれど、元彼女に相談事なんていうんだからきっと、悩んだり困ってるはず。
残念だけど、私は今までみたいにあなたを助けることなんてしない。
優しくもしないし、「あっそ、頑張ってね」とひと言だけで電話を切ってやることだってできる。
もちろん、そうする心の準備だってばっちりだった。
だけど・・・
私は「ざまあみろ」っていう事も、電話をそっけなく切ることもできなかった。
彼女のことで悩んでいる彼。本当に私からのアドバイスを欲しがっている彼。
その彼を突き放せなかった私。
最後に彼はこう言った。
「ありがとう。お前がいてくれてよかった」
電話を切った私の目から、大粒の涙がいくつもこぼれ落ちていく。止まることのない涙と、やむことのない悲しさ。
(バカみたい私。なにやってるんだろう)
いつか、彼を捨ててやるって思ってたけど、そうじゃなかった。本当は、まったくの逆で、いつまでも恋人のままでいたかったんだって。
でも、そんな気持ちを持ち続けられるほど、強くないことがわかっていたから、それを復讐なんて言葉に置き換えて、自分を誤魔化していただけ。
もし復讐が成功したら、その時はきっと晴れやかな気持ちで彼を過去にできるんじゃないかって想像してた。
心のどこかで誰かが囁く言葉は聞こえていたけど・・・
「彼を捨てるなんてできっこないでしょ」って。
認めたくなかった自分の気持ち。認めてしまったら、悲しくなるだけの現実。
でも、もうわかってしまった。先に進むためには、もう諦めなきゃいけないんだって。
だから私は、彼の連絡先をすべて消した。
これで大好きだったあの人からのラインを読むことも、電話を取ることもしないっていう、大きな決心。
決して思い描いていたような、すっきりとした結末じゃなかったけど、私の復讐はこれで終わり。
あなたの後悔が、私に届くことはないけれど、ずっと思っています。
がんばってね。
私の大好きだった人。
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