近所の薫さんの話
同じエリア内で引っ越しをした。マンションが立ち並ぶ場所から少し離れて一戸建てばかりのゾーンに。戸建てゾーンはお年寄りのおうちが多くて古い家が多くて、とにかくみんなペットを飼っている。
その中でも猫の「薫さん」のエピソードをば。
薫さんは推定18歳くらいの黒猫だ。晴れた日は道路のど真ん中にドテーンと寝ころび、車がくるとやっと重い腰を上げて道路の脇による……とても人慣れした猫だ。
ある日の夕方、保育園からの帰り道に娘が「ねこちゃん見たい」というので薫さんに会いに行った。
膝をついて「おいで!」と手を広げたら、薫さんが膝の上にのってきて、なでろなでろと催促する。
夕ご飯の準備があるので早く家に帰らねば、そう思い薫さんを下ろして「ごめん、またね」と声をかけた。まだ膝にいたかったと文句を言う(言っているように聞こえた)ので、「薫さんごめんね。また夜来るね。わたしの愚痴聞いてよ~。いやなことたくさんあるの。また夜くるね」と言って帰路を急いだ。
22時頃。
ねかしつけが終わり小腹がすいたので、コンビニへ行こうと外へ出た。といっても同居人と喧嘩して、むしゃくしゃしていたので一人になりたかった。「くそやろうまじでふざけんなよあいつ!」とジャブをかましつつ玄関を出た。
そしたら、なんと家の前に座っていたのだ。
「薫さん! ここにいたの!?」
「にゃ~」
「約束したの覚えてたの?」
「にゃーにゃー!!」
「わたしの愚痴を聞いてよ~」
「にゃ~」
ってなことがあり、黙って膝の上でくつろぐ薫さんに、わたしは延々と愚痴を投げ続けた。
薫さんはときどき相槌を打ちながら聞いていた。あの瞬間は会話が成立していたと思う。
腕をなめたのは「そうカリカリしなさんな!」というメッセージだったのかも。
生来の犬好きで、猫は怖くてさわったことがなかった。
猫の舌はざらざらしていると聞いていたけど本当だった、というレベルで触れ合ったことがなかったのだ。
長生きしている猫は人の言葉と心がわかる、と聞いたことがあるけれど、本当かもしれない。
かわいいな~、猫飼うのもいいな~。
なめられた腕がジンジンしてきた。
そうだったわたし猫アレルギーだった……
帯状に発疹が広がりぷっくり腫れた腕を見て、猫は外で適度に会うのがいい。
そう思った。