夜中1時のできごと
「出ていけ!」夫の声で目が覚めた。
とっさに、身体が反応して起きた。高校生の息子に怒鳴りつけている。
オンラインゲームである。息子が毎晩のように友達とつながり、携帯ゲームをしていたのは私も注意していたけれど、ついに夫がキレた。
「何?どうしたの?」ベッドから起きて廊下に出たら「ええ加減にしろ!出ていけ!」と言われた息子が、まさに玄関で靴を履いていた。
「どうしたん?どこいくの?」と声をかけたけれど、出て行ってしまった。
「今日、身体測定で177.4cmになってたわ」と言っていた息子の、しっかりした背中を追いかけながら「待って」と口ではいったものの、頭の中ではいろんなことを考えていた。
思春期真っただ中の16歳。ヤケを起こさないだろうか?どこにいくつもり?
ここで無理やり腕をつかんでも力では負ける
このまますぐに連れ帰ったら「出ていけ」と言った旦那の立場もないのか
感情をしずめる時間も必要だよね
真夜中に子供が出歩き、被害にあった事件まで、寝ぼけた頭の中をぐるぐるとした。
マンションの外の階段をドンドンと降りていく息子。私は階段を下りずに、「マンションから出て行かないで。10分くらいしたら帰っておいでよ」と声をかけた。
帰るふりをして上からそーっと見ていると、マンションの2Fにある中庭の椅子に腰を掛けたので「あそこなら安心かな。しばらくそのままにしておこう」と思い、いったん部屋に戻った。なぜなら、手には携帯を持っていたから。
万が一、マンションから出て行っても、充電がキレない限りは連絡が取れる。「携帯を使うな」と言っても買い与えたのはこちら。「22時には電源を切ってリビングで充電する」ルールも、携帯を持ち始めて数か月で曖昧に終わってしまった。
初めはこちらも頑張って使えないように設定したり、私の枕元で充電したりと戦っていた。しかし部活の連絡はLine、学校の連絡もメールで入ってくるこのご時世、「課題を確認したい」と22時を過ぎて言われたら見せない訳にもいかない。
ましてやコロナ禍で、陰性ではあったものの濃厚接触者となった息子は2週間自宅待機。体力は有り余り、学校側も対応に追われこれといった指示もなく、一歩も家をでることが許されない状態で、携帯を取り上げることが私にはできなかった。オンラインゲームが唯一の外部との繋がり。それで助かったている部分も否めなかった。
「高校生になったらライブにいってみたい。だから受験の時は我慢する」と、1月末にあったライブに行かなかった。私なら我慢できないなと「1日くらい大丈夫ちゃう?行けば?」と勧めてみたけれど行かなかった。なのに、コロナでライブはオンラインになり、息子の生ライブの夢は当面叶いそうにない。
部活の練習も制限され、合宿も公式戦もなくなった。たった3年しかない高校生活は入学式もなく、約2ヶ月遅れのスタート。いろんなことを経験し、感じ、学んで、友達と馬鹿をしながら青春を謳歌するはずが規制だらけである。
もちろん、息子だけではないし「そんなことを言っている場合ではない。甘い親」と思われるかもしれないが、不憫で仕方ない。大人になったら「あの時はコロナで大変だったな」と友達と語り合い、それも懐かしい思い出に変わるとは思うけれど。
時計をみると午前1時40分。「10分じゃ落ち着けないかな」と約30分近く時間を置いた。そしてワンコを抱いて座っているはずの椅子を見に行くと姿がない。しかも雨が降り出していた。
あれ? あ、自転車置き場は濡れないから自転車にでも座ってるのかな?と、見に行ったが自転車がない。念のためロビーのソファと、前のコンビニを見に行ったけどいなかった。
無茶をする子ではないのは分かっているけれど、雨も降っているし、自転車だし、真夜中だし。やっぱり心配。家に戻って「自転車ででていったみたい」と夫に言うと「男やし大丈夫や。もう寝たらええ」と。寝れるわけないし~。
やっぱり携帯の出番である。「どこ?」「帰っておいで」とLine。「2時までに帰れる?」と聞くと「たぶん」。「まだ未成年やから、警察に補導されてもややこしいから帰っておいで」と我慢できずに念押ししてしまった。
「おけ」と返事。ちゃんと返してくれるのね。あとは待つだけ。妙に救急車の音に敏感になりながらも、ただひたすら(と言っても20分くらい)待った。
雨の中、ちゃんとカッパを着て自転車で帰ってきた息子を見てホッとし、自転車置き場でワンコと出迎えると意外にすっきりした顔。「○○大学の前までいってきた」と。コロナで高校が始まらない間、同じ中学の同級生何人かと週に数回か集まって、1時間近く走っていたからなんとなく場所を覚えていたからと言ったが、車でも15分はかかる場所。まぁまぁなスピードで走ったと思われる。
本当にそこまで行ったのかは定かではないけれど、この約1時間半の真夜中の外出は、きっと彼には必要な時間だったのだろう。
「携帯しばらく制限やね」と私。
「中間テストで見返したら大丈夫やろ」と息子。
「全て4以上取れば文句言われないかもだけどね~」と話しながら家に着くと、「もう寝るわ、おやすみ」と、部屋の前に携帯をポンとおいてドアを閉めた。
私もベッドに戻ったけれど、眠れない。大学生になれば、もうここまでの干渉はしないはず。あと2年もないんだなと思うと、もうすぐ子育てが終わることが急に寂しくなった。
感情が動いた時。それはnoteの書き時。まぁまぁ真面目な息子と口数の少ない夫のバトルはかなりレアケース。初めての出来事だったので書き残しました。そしてもう夜が明ける。