『さよならのつづき』 ドラマを観ながらゆらゆらと思い出の珈琲のつづき
【 喫茶店 今昔】
自分のお小遣いで外で珈琲を飲むようになったのは
高校への通学路で池袋を経由するようになってからだ
東武ホープセンター地下街にあったカウンターだけの
“珈琲専門店”でサイフォンで淹れてくれるグアテマラを
学校帰りに一人で飲むのが楽しみになった
Jazzを聴きくようになり友人と新宿の「木馬」や
「ワークショップ」、代々木の「NALU」などに出入りした
薄暗い店内のバカでかいJBLのスピーカーの傍らで
分かった風な顔をしながらピーターソンやチックコリアを聴き
一杯の珈琲を啜って過ごした
喫茶店が“明るいおしゃれな場所”になったのはその後だ
「ボガ」「スクラッチ」「西洋乞食」「プレンティしもん」
「マッチボックス」「COBU」「くぐつ草」「伊万里」
公園通り入口の「アプリコットハウス」などにも
女友達とよく出入りするようになった
若者に人気だった街の店舗はいちいち洒落てたし
食事や珈琲も美味しかった イタ飯を覚えたのもこの頃だ
高校の友人に京都の衣笠が実家の男がいた
彼のウチに招かれた時「vingt-et-un」や「シアンクレール」に行き
立命館の学食にも顔を出した
どこか“二十歳の原点”気分が抜けきっていない頃
“カフェ”という言葉をあまり耳にしなかった時代の話
【 ドラマの背景としての珈琲 】
映画における“飲食”は、そのドラマの中で登場人物の状況や想いを示す
重要な“小道具”として巧みに配置されています
Netflixシリーズで11/14から配信中の『さよならのつづき』のそれは
『珈琲』なのですがそれは小道具という範疇を越えて
「背景」としてどんな場面にも珈琲が登場しています
このドラマを観ていると普段何気なく飲んでいる珈琲の
サプライチェーンが良く分かります
珈琲豆は珈琲農園で生産されますが
このドラマに登場する農園の場所はハワイという設定です
珈琲の産地は赤道をはさんで北緯25度、南緯25度の間のベルト地帯で
その地域が珈琲の栽培に適した気候、土壌を持っています
珈琲は熱帯性の高山植物なので暖かければいいというわけではなく
栽培に適しているのは昼夜の温度差がある高地に限られています
収穫された珈琲は商社等を通じて珈琲豆焙煎業者が生豆を仕入れ
生豆を焙煎して小売店や喫茶店などに販売します
そんな珈琲豆を購入して自宅で淹れて飲んだり
カフェに行って淹れてもらった珈琲を楽しんでいるわけです
舞台になっているハワイの珈琲ですが、その生産量は
世界的に見てほんの微々たるもの(0.1%程度)です
ではなぜハワイの農園を舞台にしているかというと
ひとつには日本人経営の農園が実在するということと
ハワイの珈琲豆は州政府によって厳格な品質基準が設けられており
この基準をクリアした豆だけが「ハワイコナ」と名乗ることができます
EUのワイン生産におけるのAOP法みたいなものですね
ドラマの珈琲豆焙煎問屋は品質を第一としている会社という設定で
その会社が選んだ拘りの珈琲豆がハワイのこの農園だったのでしょう
あくまで個人的な推測ですが…
【 珈琲が飲みたくなって 】
このドラマ見ていると無性に珈琲が飲みたくなります
珈琲豆のブレンドを決める味覚テストの場面や
臨時停車した単線のホーム上で珈琲を淹れて乗客にふるまう場面
「そりゃ無理だよ」と突っ込みを入れたくなるシーンですが
外で飲む珈琲も美味しいよなぁと思わせられます
古い焙煎機を修理して起動させるシーンなども
焙煎時の香りが漂ってくるようです
味もそうですが香りも記憶を刺激します
人は悪い記憶はできるだけ奥に仕舞い込み
良い記憶を「より良い」ものとして再形成するようで
香りがそのよい記憶を呼び起こして鮮やかに再現します
珈琲の味はbitterですが思い出はbittersweet
辛く切なく割り切れないbitterな想いも
時間の経過がbittersweetにしてくれます
『ときぐすり』とはよく言ったものです
だから人は生きていけるのでしょうね
【 珈琲を淹れるということ 】
珈琲の淹れ方はいろいろありますが
このドラマでは主にペーパードリップで淹れていますね
ドリッパーは時々で違っているので見ていて楽しいです
豆の焙煎度合いはさすがに分かりませんが
豆の挽き具合は画面越しでもある程度わかります
中挽き程度の挽き方をしているようで
豆の種類やブレンドの仕方によりますが
抽出された珈琲はさっぱりとした切れのいい味に
なっているのではないかななどと想像しています
我が家のドリッパーはハリオのV60とカリタの102
それにシンドーのOTMバートドリッパーMを使っています
ハリオとシンドーは漏斗型、カリタは船型のペーパーです
それぞれ個性があるので気分によって使い分けています
豆は焙煎されたものを200g一袋でネットで購入しています
40数年使い続けている手動の珈琲ミルで都度挽いて
ペーパーでドリップします
一投目のお湯が注がれ珈琲豆に含まれた炭酸ガスの放出で
珈琲豆がゆっくり膨らんでいくのを見ているのは
何とも言えない幸せな時間です
こんな時間がとても愛おしく感じます