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がん告知 ~ 入院 ~ 手術 ~そして(26) ある日突然 声が出なくなって

ある日突然二人だまるの
あんなにおしゃべりしていたけれど
いつかそんな時が来ると
私にはわかっていたの
ある日じっと見つめ合うのよ
二人はたがいの瞳の奥を
そこに何があるか急に知りたくて
おたがいを見る
         作詞 : 山上路夫

【 2021年10月1日(金)  16:05 】

それはいつもと変わらない金曜日の夕方
16時に会社貸与のスマホに部下から電話があった
仕事の進捗報告で特に問題がある内容ではなかった
報告に相槌を打ちながらアドバイスを行っていると
  (あれ、なんか痰が引っ掛かっている?)
と思うような声が喉に引っかかってガラガラする
「ごめんごめん、なんか喉がいがらっぽいな」
「タバコの吸い過ぎじゃないですかぁ、気を付けて下さいよ
 本社もコロナ流行ってるみたいだし…」
「いやいや、熱ないし」
その日はそのまま帰宅
喉のガラガラ感が改善しないので
ドラッグストアでうがい薬を購入して
しばらくコマめにうがいをしていました

【 10月4日週 】

次の週になっても声の状態は変わらず改善しません
多少かすれていますが会話に支障が出るほどでもない
回りからは冗談半分で
「コロナじゃないですかぁ?」
「抗原検査やりました?」
などの声がかかります
そんな会話を適当にいなしながら仕事をしていました

1週間近く経っても改善は見られず
むしろ声が出しにくくなってきたので
10/8(金)に自宅近くの耳鼻咽喉科で診てもらいました
「原因は分からないが左の声帯が動いてないですね」
“声帯が動いていない”という事実が何を意味するか分からず
「はぁ・・・」
と返事をするしかありませんでした
「紹介状書きますから大きい病院で診てもらって下さい」
そう言うと医師は看護師に何やら指示を出しています
「明日は土曜日ですが〇〇大学病院は月1の診察日なので
 都合が付くなら明日行ってみてください」
何やら急だなぁと思いながら病院を後にしました

【 耳鼻咽喉科 → 呼吸器外科 そして】

大学病院へはあさイチで行ったのですが大混雑!
初診の受付を済ましまずは耳鼻咽喉科へ
紹介状があるとはいえ初診のためかなり待たされました
順番が来て診察室へ
上部内視鏡で診てもらいましたがすぐに
呼吸器外科へ行くように言われそちらへ
そこで調べてもらった結果がこれでした

腫瘍だと?ここから怒涛の検査ラッシュが…

こんな流れでほんの1週間前に“声が少々枯れた”という
これまでもあったような自覚症状から一転して
なにやら重大な状況に直面してしまったのです

【 食道がんで声が枯れるという意味 】

結果的に私のこの症状は「食道がん」が原因だったわけなのですが
素人の私は食道がんで声が枯れるという認識は全くありませんでした
声が枯れる原因の腫瘍は“喉頭がん”か“咽頭がん”と思っていました
ところが発声するために声帯を動かすのに大切なのは
脳から首を通っている“反回神経”という左右に分岐している神経で
私の場合、食道がんが左の首のリンパ節に転移していて
その影響で左の反回神経が麻痺しているということでした
それで左側の声帯が動かないため“嗄声(させい)”が起きていて
ガラガラ、ザラザラの声になっていたというわけです

【 食道がんを治療したら声は戻るのか? 】

当初、私は食道がんの治療が上手くいったら
この声は時間はかかるとしても戻ると思っていました
ところが担当医による手術前の手術内容同意の説明時に
「食道がんの転移・再発のリスクを最小限にするために
 転移している可能性の高い左反回神経も切除する予定」
との説明がありました
つまり手術を受ければ左反回神経も切除するので
残るのは右反回神経のみで動かせるのは右の声帯のみ
「あぁ、そう…ですか…」
声は元には戻らないと理解しました

麻痺だけならリハビリで回復可能ですが切除したらそれは無理です

【 抗がん剤治療・手術が終わり退院して 】

手術は無事終わり  その後感染症などもなく退院できました
但し約3か月の入院生活と9時間に及ぶ手術を受けたため
筋肉量は激減し体力も衰えてしまいました
そんな状態なのでますます声は出しづらい
発声しようと思ってもスカスカな声しかでません
“声”というよりむしろ“空気”が喉から洩れている感じです
家内に話しかけても
「え?何?」
と返されるばかり
筆談の方が早い!

こんな状況だと外出が億劫になります
それでなくても10数キロも体重が落ち
頭髪は脱毛してしまって坊主頭
腰痛がひどいので歩く時は腰が曲がりがち
買い物などに出れば“他人との会話”に迫られる
ますます外出を避けるようになっていました

【 僻みっぽい弱者ポジションの面倒くさいジジイ 】

まさに面倒くさいジジイが出来上がっていました
家でごろごろして食事のたびに咽る、吐く、トイレに駆け込む
口は開くが声がかすれて何を言っているか分からない
腰が痛いだ、お尻が痛いだ、気持ちが悪いだ、声が出ないだ…
なんとめんどくさいジジイなんでしょう!
その時の自分を振り返ってみると“ぶったたいてやりたい!”

【 会話の回復 】

「あれ?前より声が出るようになった?」
と家内が言います
「え?変わらないと思うけどなぁ」
「いや、前より聞きやすいよ」
以前より声が“前”に届くようになったようです
買い物に行っても多少聞き返されたりしますが
なんとか会話が成立しています
スマホでの音声通話も問題ないことが分かりました
“声”は元に戻っていませんが“会話”は失いませんでした

【 失ったものを補う代償能力の不思議 】 

退院から時間が経ち身体を動かすことや食べることに
慣れてくると共に社会生活も徐々に元に戻り始めました
特に復職してからは否応なしに会話する相手が増えます
「後遺症で声が出しにくいので早く慣れてね」
復帰当初は会う人会う人にそうエクスキューズしていました
ところが・・・

「〇〇さん、意見はその辺にして少し休憩して下さい」
ミーティング中にメンバーに途中休憩を促されます
気が付くと隣のシマのメンバーが振り替えるくらい
大きな声を出して話をしている
ハアハア言いながら・・・

相変わらず声は枯れたような“音”を出しています
左が動かないので“右”が頑張って発声しています
動かない左も含めて肺から送り出された空気が声帯を
震わせて音にしているので半分は無駄になっています
疲れますがなんとか声らしきものは出せています

「そんな大きな声で言わなくても分かったから!」
家内に言われます
「息が続かないんだから大きな声出さないの!」
こんなふうにも言われます
相変わらず声は“嗄声”です
でも仕事を引退した以外は
幸せなことに
以前と変わらない日常を送っています

コロンビアスプレモ

ではまた!

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