“映画を早送りで観る人たち”と“なぜ働いていると本が読めなくなるのか”と“バカの壁” 『壁・壁と毎日騒がしいこの日本社会は危険か?』
【 2024年12月20日(金) 日経新聞 ヘッドライン 】
利上げ材料「もう一段必要」日銀総裁、賃上げ見極め
トランプ再び 崩れる国際秩序 イスラエル傾斜、盟主孤立
渡辺恒雄氏が死去 読売新聞主筆 政界に影響力
税制改正 修正含み 与党大綱きょう決定
「常に妥協の用意 」停戦「ウクライナが拒否」
経営統合の事情 ホンダ・日産が抱える課題
AI事業者を政府調査
維新呼び込む教育無償
中学生殺傷、43歳男を逮捕
【 損をしたくない症候群 】
“タイパ”と言う言葉が闊歩している
消費した時間に対して得られたモノの“価値”が
高いか低いかという判断のことだ
YouTubeなどの動画共有サイトでオリジナルの短縮版を
公開しているサイトが先日摘発されていたが
そういったネタバレサイトであらかじめストーリーを
先に確認にしたがっている人たちが大勢いる
彼らは自分にとって観る価値があるかどうかを
判断してから観たいと言う
その映画に2時間費やして結果面白くなかったら
その2時間が無駄になってしまうことを避けたい
面白くなるかもしれないとの期待よりも
その確信が持てずに過ごす時間がストレスになる
そのストレスを避けるために信頼している人や
大勢の人が見るサイトが薦めている評判の作品しか
観に行かないのだそうだ
“映画を早送りで観る人たち”とはそのような
「損得勘定」を価値観の尺度として持っている
配信サイトで1.5倍速や2倍速で映画を観ている
いや、コンテンツの情報を確認しているという
表現の方が近いだろうか
【 読書はノイズか? 】
三宅香帆さんの「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」
によるといまや読書は「ノイズ」として捉えられているらしい
自分の欲しい情報はネットで簡単に手に入るのに
書物には余計な知識が紛れ込んでいて忙しい人のニーズと
ずれている… 純粋に必要な情報のみ直ぐに手に入れたい
「間違いたくない」「直ぐに正解を知りたい」「損したくない」
どうも今の現役世代の人たちの価値観はこんな感じらしい
あとがきを先に目を通して自分が期待していた結論であれば
それを情報として取り込む
ネットのレビューに目を通して“他人”の評価によって
その本の概要を把握する
どうもそういった行為の“タイパ”が良いようだ
【 レコメンド機能というノイズ発生器 】
ネットを利用しているとウェブサイトやアプリのアルゴリズムで
閲覧履歴や購入履歴などから好みと思われる商品やコンテンツが
どんどん表示されてくる
「よく一緒に購入されている商品」
「この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています」
など、出てくる出てくる…
サマリーやカスタマーレビューがどんどん表示されてくる
私にとってこれらの情報の方がはるかに『ノイズ』だ
まったくいらない 『消音』したい
【 「お勧めは?」と訊く人 】
「お勧めの映画ないですか?」
「何かお勧めの本はありますか?」
たまに映画鑑賞や読書の話になった際に
このように訊かれることがことがある
訊いてくる方は他意はなく話の流れの中で
素直に訊いてきているだけの場合が多い
ただ訊かれた私は大いに戸惑うのだ
その人に何を基準としてどのような観点から
何を薦めればよいのかまったく分からない
ふわっと訊かれると応えようがない
ビジネスできちんとプレゼンしようと思うと
前提として相手方がしっかりオリエンをして
くれないと的外れになってしまうのと同じだ
あえてこれまで観た映画で個人的に好きで
繰り返し観たり、もう一度劇場で観てみたい
と思っている作品を無理やり数本取り上げて
その人に伝えたとしてもたぶん“観ない”だろう
本もまたしかり
処分せずに手元に残してある本の中から
ことある毎に読み返している本や
付箋がたくさん張られているような本を
数冊推奨してもたぶんその人は“読まない”だろう
彼らは誰かが“推奨していた”という事実が
確認できれば目的達成なのだから
【 「コツを教えて」と言ってくる人 】
仕事でもスポーツでも「コツを教えて!」と言ってくる人がいる
「コツ」とはもともと「骨」と漢字で書いていたが
最近ではもっぱらカタカナの「コツ」と表記されることが多い
すなわち「コツ」とはそうそう手軽にできる効率的なものではなく
それなりの期間、真剣に実地で取り組んだ者だけが体得できる
モノなのだがどうも簡単な“ノウハウ”と思われている節がある
「コツ」を会得した人の姿を見ていると
いとも簡単に行っているように見える
経験のない人が何回試みてもできないことを
プロはごく簡単にやって見せることができる
すると未経験者は経験してないがゆえに
「コツ」が分かれば自分も簡単にできると
思い込んでしまう
「コツ」を伝えることはできる
しかしそれを実践することはできない
「できない」という事実に直面して初めて
「できる」の扉の前に立ったわけだ
さぁ、あなたはその扉を開きますか?
ほとんど人は開きも叩きもしないのだ
そしてその扉の前でこう叫ぶ
「分かりやすく教えて!」
【 古くて新しい『バカの壁』】
養老孟司氏が2003年に刊行した『バカの壁』は
「壁」シリーズとしてその後7作出版されて
累計発行部数700万部という大ヒットとなった
この「バカの壁」という強烈でキャッチーな題名は
『自分の内側にこそ壁がある』という古くて新しい
問題提起を表している
この本が大前提としているのは
「人はわかっていない」
という認識だ
つまり『壁』は「わかっている」と
思い込んだ時に存在するもので
問題を安易に結論付けたり
複雑な世の中を分かりやすく単純に
一元論や二元論でまとめたりすることへの
戒めである
分かりやすい話や口ぶりは非常に危険だ
スローガンやアジテーションは共感しやすい
しかし本当の姿を語っていない
都合の悪いことは陰に押しやっている
そう思った方がいいだろう
【 料理のレシピ本通りに作ると美味しいか? 】
不味いモノにはならないが
期待していたような美味しい料理にはまずならない
調理は突き詰めれば“化学反応”ではあるが
実験のように常に同じ条件で行えるかといえば
そんなことはまずない
調理の結果は数値で検証するのではなく
ヒトが五感で行うものなので評価基準が変化する
工業製品としての加工食品ですら品質はブレる
まして家庭料理などブレて当たり前だ
その中で美味しい料理を作るにはどうすればよいか
実践あるのみでチャレンジと経験の積み重ねだろう
それは純粋な情報だけでは成立しない
失敗やロス・無駄、不味いという経験、悪評、
金銭的な損失、時間ロスなどを踏まえて
習得されるのだろう
言語で言うところの「記号接地問題」と同義だ
グルメサイトの評価が高いということが
イコール「美味しい」という絶対評価に繋がり
長い行列に並んでお目当ての料理がサーブされ
まずはスマホで色々な画角で撮影
一口食べている画像も撮影しUP
キャプションには「超おいし~💛」と一言
言葉が接地しておらず
どう美味しいのかが全く伝わってこない…
自分の体感を言語化する能力が低い人は
物ごとの良し悪しと好き嫌いの軸の明確な基準が
曖昧なため評価と言う行為ができない
逆に“because”を語れる人の意見は
賛同するか否かは別として信用できる
【 刺身ばかり食べるな、骨太の焼き魚を喰え 】
キュレーションサイトやネット動画を見て
世の中のことを把握していると思っている人の
なんと多いことか
米国だけでなく日本でも東京都知事選や
先の衆議院選挙、兵庫県知事選挙などで
SNSを上手に利用した候補者や政党が
支持率を伸ばした
テレビや新聞などは「オールドメディア」として
情報源としての地位を奪われつつある
ではSNSの情報は正しいのか?
何をして「正しい」と言えるのか?
採れたて、切りたての刺身が一番美味しいのか?
喉に骨が引っ掛かるような焼き魚や煮魚、
アラ汁のような調理法も魚を美味しく頂く方法だ
色々な食べ方を経験した方が視野は広がる
何をどうすればどのように美味しいかという
見識も身についてくる
こういった事が本当に必要になってきた時代だと
しみじみ思う
【 SNSは規制されるべきか? 】
自民選挙制度調査会の逢沢一郎会長は12月16日
10月の衆院選を受け、日本保守党などとも新たに
調整を進める必要が出てきたと記者団に説明
「丁寧な手順を踏む。来年の都議選、参院選には間に合わせたい」
と語った
大野敬太郎事務局長は「今回は断念することになる」と明言した
選挙ポスターに「品位」の保持を求める規定の新設を柱とする
公職選挙法改正について来年1月召集の通常国会に先送りする
方針を固めた
自民党は16日の総務部会・選挙制度調査会の合同会議で
11月の兵庫県知事選を踏まえ、SNSなどでの偽・誤情報や
当選を目指さない候補者への対策を別途検討する方針も確認
立件民主党などとまとめた現時点の公選法改正案も了承した
改正案は品位保持規定に加え、ポスターに
「公職の候補者の氏名を記載しなければならない」と明記
特定の商品を宣伝した場合に100万円以下の罰金に処するとの
規定も盛り込んだ
今年は主要先進国の国政選挙で政権与党の敗北が続いた
米国では大統領と上下両院の多数派を制する「トリプルレッド」
を達成し、英国では労働党が14年ぶりに政権を奪取、フランスでは
7月の下院選挙後に議会が内閣不信任案を可決した
ドイツも来年2月の総選挙に向けて与党の苦戦が報じられている
お隣の韓国は大統領が弾劾され落としどころが見えず混沌としている
そんな中、日本でも10月の衆議院選挙で与党が大敗した
自民党の政治資金問題が主因と言われているが真因は
長年続いてきた所得格差やプッシュ型インフレによる
生活苦によるものだろう
日本の選挙結果の特徴は欧米と異なり
国民の不満のはけ口は極右や極左の政党に向かわず
“分かりやすいスローガン”を掲げた中道政党に向かった事だ
真の問題には光を当てずに分かりやすい
「年収103万円の壁」の引き上げという
スローガンを掲げた政党が大きく伸長した
これまで配偶者控除や配偶者特別控除などを
見直したにも関わらずいまだに103万円を境に
就労調整をしている人が多いのはこれらの制度の
理解が十分ではないからだろう
また社会保険料負担で手取りが減るなら制度疲労を
起こしているということで制度設計を見直す必要がある
第3号被保険者制度の見直しも棚上げされてしまったが
検討を加える必要があるだろう
この制度の開始は1985年で専業主婦世帯が多数派だった
現在では共働き世帯が専業主婦世帯の2.5倍となっている
人口が減り高齢者が増え生産年齢人口割合が激減している
負担増は避けられない現実だ
「600円も出せば天ぷらそばが食べられたのに!」
と嘆いても時代は変わった
それなりに美味しい天ぷらそばを食べたいなら
1200円は出さなければ食べられない
500~600円しか出せないのであれば
月見かせいぜい山菜そばで我慢しなければならない
多様な生き方を認めたうえで中立的で公平な
税と社会保障の負担の在り方を税源とセットで
真面目に考えて国民に提示する必要がある
この国の長期にわたる低迷は政治の不作為が
原因ではあるがそれを支持した国民の総意の結果なのだろう
【 表現の自由と基本的人権 】
極右や極左に参加してしまう人が急には増えないと
思うが直近の選挙結果や闇バイト事件の増加を見ると
欧米ほどではないが日本でもダークサイドに吸収される
人が徐々に増加しているように感じられる
どうもそういった事に参加してしまう人々は
程度に差はあれ「心の闇」を抱えていると言えそうだ
「崇高な理想や難しい理屈はいいから
私たちの苦しい生活を早く良くしてくれ!」
という叫びが怨嗟のごとくあふれ出している
“孤独” “孤立” “いじめ” “貧困” “家庭内暴力”など
心の闇や極貧を埋めてくれるのが安易な仲間意識や
目先の金、日本人と言うアイデンティティ、
既存の権力者・組織に対する平民・一般人という立ち位置
それらの既存パワーに対して
「勝つためなら何でもあり」
「儲かるなら何でもあり」
「経済を牛耳るならなんでもあり」
という風潮が出来上がりつつあるのではと危惧する
※「夢中人」聴きたくなってきた
1994年7月1日香港公開から30周年で2024.O5.01に記念4K版が公開された