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『アメリカは内戦に向かうのか』   リアル“Civil War”の近未来

先日「シビル・ウォー  アメリカ最後の日」を観てしみじみ考えてしまった
「本当にこうなるのではないだろうか…」と
そういえば…と、昨年の春に読んだ本を引っ張りだしてみた
バーバラ・F・ウォルター著の『アメリカは内戦に向かうのか』
著者はアメリカの政治学者で、カリフォルニア大学サンディエゴ校グローバル政策戦略学部の国際問題担当教授 専門は内戦、暴力的過激主義、国内テロリズムで世界銀行、アメリカ合衆国国防総省、国務省、国連、連邦議会の襲撃事件に関する米国下院特別委員会などのコンサルタントも務める
(出典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

【 2021年1月6日  連邦議会乱入事件 / トランプの檄 】
当時現職大統領だったトランプの支持者たちが連邦議会に乱入した事件は
アメリカ市民の「法の支配」という民主主義の根幹をなす基本ルールを
揺るがす大事件となった

トランプ支持者が連邦議会に乱入した

トランプはバイデンの勝利を絶対に認めないと、これ以上ないほど明確に
表明し支持者らにも同調を強く求めた
トランプはさらに「盗みが行われたのに敗北を認めるなどということは
しない。私たちの国はうんざりしている。もうこれ以上受け入れない」と
続け「非合法の大統領が存在することになる。それが今後起こることで、
そんなことを許してはならない」と発言
『死に物狂いで戦わなければ、もはや国を失ってしまう』などと
現職の大統領が自動小銃で武装する市民に向かって檄を飛ばした

【 どのようにして内戦は始まるのか / How civil wars start 】

バーバラ・F・ウォルターの講演

【 ポリティ・インデックス 】
この本によるとポリティ・インデックスという指標がある
それはある国がどの程度民主的か、または専制的かを点数付けしたものだ
その数値は完全な民主主義体制だと+10、完全な専制体制だと-10となり
21段階で評価している
(例)  【+10】 / ノルウェー、デンマーク、カナダ、日本など
  →国政選挙が公正に行われ特定の少数者への差別・排除がなく
   政党は国民の意思を適切に代表している
   【-10】 / 北朝鮮、サウジアラビアなど
  →国民には為政者を選ぶ権利がなく為政者は法に縛られることなく
   やりたい放題のことができる
ポリティ・インデックスが+6~+10の国は「完全な民主主義国家」
-10~-6の国は「専制国家」とみなされる
中間の-5~+5のスコアの国は「アノクラシー(anocracy)」と呼ばれる
アノクラシーは反民主主義、部分的民主主義、ハイブリッド民主主義
などと呼ばれている
この「アノクラシー」の状態が内戦が始まるきっかけになることが
統計的に明らかになってきたというのだ

ポリティ・インデックス

【 内戦のきっかけはアノクラシー状態 】
なかなか信じがたいが政治的不安定をもたらし、内戦が始まるきっかけとなるのは、貧困や民族多様性、不平等や政治的腐敗などよりもその政治体制がアノクラシー・ゾーンにいるかどうかだということが統計的に明らかになったというのだ
それはどんなにその国が貧しくても、民族的に分断されていても、貧富の差が大きくても政治的な腐敗が進行していたとしても、その国が完全な独裁体制であれば内戦は起きにくい
それよりも政治体制が流動化したときに内戦は起きるというのだ
「内戦リスクの最も高い国は、最貧国でも不平等国でもなかった
 民族的・宗教的に多様な国でも抑圧度の高い国でもなかった
 むしろ部分的民主主義の政治社会において市民は銃を手にし戦闘に
 手を染める危険性が高かった…

政治体制と内戦勃発の相関関係グラフ

【 アノクラシーになる2つの道筋 】
1. 専制政治が崩れて民主体制に移行する過程
2. 民主政治が崩れて専制体制に移行する過程
この両方のプロセスで同じように政治的に不安定な
アノクラシー状態になり内戦のリスクが高まる
アメリカは連邦議会へのトランプ派の乱入でポリティ・インデックスが
+7から+5へ下降してアノクラシー・ゾーンに入ってしまった
「かくしてアメリカは2世紀ぶりにアノクラシー国家へと変貌した(中略)
 私たちはもはや最も伝統ある一貫した民主主義国家にはいない」
アメリカはいつ内戦に突入してもおかしくない国になったのだ
まさに今目の前にある「シビル・ウォー」の危機ということだ

【 過去の内戦勃発リスク 】
かつてアメリカは英国との独立戦争に勝利した後、それまで持っていた州の
権限をどこまで連邦に委譲しどこまで州に残すかを長年に渡って論争した
フェデラリストが州の権限を制限し連邦政府の力を大きくしようとした
最大の理由は「内戦に備えて」だった
フェデラリストはこう考えていた「共和国にとって最も危険なのは
外敵ではなく“支配に執着した国内の敵”である」と

【 現在の内戦勃発リスク 】
18世紀のアメリカにおける連邦レベルでの有権者は全員白人男性だった
今日、投票行動を予期する主要因は“人種”と言われている
アイデンティティ・ポリティクスとはある政治家を支持する際の理由が
その政治家の掲げる政策の適否ではなく、自分と同じ「部族」に帰属して
いるかどうかを基準にする政治的行動のことを言う
ドナルド・トランプはアイデンティティ・ポリティクスの典型といえる
トランプは国民をその政治的意見によってではなく帰属集団によって分断し
自分たちの「部族」以外のすべての部族は消えてなくなっても構わないと
いう過激な主張をなして圧倒的なポピュラリティを獲得した
彼は有権者にこう問うているのだ
『What kind of American are you?』

「We are American. OK?」「What kind of American are you?」

【 人を政治的暴力に駆り立てるもの 】
人間を行動に駆り立てるのは「何かを新たに獲得しよう」という動機よりも
むしろ「失ったものを取り戻したい」という動機と言われている
「人は幾年にもわたって耐えることができる。貧困、失業、差別などは
 認容しうる。お粗末な教育機関、機能不全の病院、荒れ果てたインフラも
受け入れるだろう。しかし当然に自らのものとしてきた地位をある日喪失
すること、これだけは許すことができない。21世紀において最も危険な派閥
がこれによっている。かつて権力を保持していた集団が力を失ってゆく局面
である」
「内戦の当事者が極貧層ではない事実は記憶にとどめておくべきだろう。
 それはかつて特権を保持しながら、そのありふれた幸せを喪失したと
 感じる人々
である」
今トランプを支持する人々を見ると何か具体的な差別を受けている
わけではない
しかし大切にしてきたものを「奪われた」と感じているのだ
親の世代までは手にしていたものが自分たちの手には届かないものに
なってしまったと感じている
こういった喪失感や被剝奪感は感覚的なものであるがために
政治的な支援や福祉政策などでは補うことができない
物理的な不満ではないのだ

【 民主主義は内戦を防止できるか 】
「法の支配」「言論の自由と説明責任」「健全な政府」が
きちんと機能していれば
またSNSのフェイクニュースの拡散が抑制されれば内戦リスク
は逓減させられるだろう
しかし今のアメリカは大統領選を見ても民主主義が機能不全に
陥っているように見える
今アメリカで起こっていることは諸々の課題に対して政治的に
正しい政策の実施で対処できる問題ではないのではないかと感じる
自動小銃を持ってトランプの集会に集まってくる人々を駆り立てて
いるのはある種の強力な分断の呪文だ
その呪縛を解く方法は何かあるのだろうか…

呪いは解けるだろうか?

【 大統領選の潮目の読み方の難しさ 】

7月21日にバイデン大統領が大統領選挙から撤退することを表明し
8月22日の民主党の党大会最終日にカマラ・ハリス副大統領が
大統領候補としての指名を正式に受諾した時には
私は今回の大統領選挙の潮目が変わったと確信した

「潮目が変わる」とはものごとの情勢が変化することを言う
そもそも「潮目」とは水温や塩分濃度などの異なる潮の流れが
ぶつかり合うことで海面に現れる筋状の境目のことだ
異なる潮流の衝突で海底のプランクトンが巻き上げられ
小魚が集まりそれを狙った大物も寄ってくる
潮目に魚が集まるのは異なる潮流の衝突で空気が取り込まれ
酸素濃度が上がるからだそうだ

民主党の大統領候補にカマラ・ハリス副大統領が指名され
正式に受託したことで民主党内に新鮮な空気が送り込まれた
潮目に集まるのは魚も人も同じなのだろう
民主党だけではなくアメリカ国民全体の大統領選に向けた
雰囲気に変化が生じトランプ絶対優位の情勢が変わった
そのままカマラ・ハリス優勢で11月に突入するように見えた…

【 大統領選挙 その困難な未来予測 】

〈米大統領選2024〉激戦7州 最終盤まで僅差
世論調査 各州2ポイント差以内

日本経済新聞 朝刊(2024/10/22)  より
【ワシントン=坂口幸裕】11月5日の米大統領選まで残り2週間になっても
民主党のハリス副大統領と共和党のトランプ前大統領が異例の接戦を
繰り広げている。
米世論調査によると、勝敗を決する激戦7州はいずれも2ポイント以内という僅差のまま最終盤を迎えた。
米リアル・クリア・ポリティクスが集計した世論調査の平均によると
20日時点のハリス氏の支持率は49.2%、トランプ氏が48.3%と競る
9月下旬に2ポイントを超えていた差は0.9ポイントに縮んだ
激戦7州は僅差ながら、いずれもトランプ氏がリードする展開だ
ハリス氏の伸び悩みが指摘される一因として現職大統領との違いを
見いだしにくく、弱点も引き継がざるを得ない面がある
 トランプ氏もそこをハリス氏の急所とみる。バイデン政権下での歴史的な物価高や不法移民の急増などを失政と位置づけ「ハリスはこれをやる、あれをやる、素晴らしいことをすべてやると言う」と主張。「彼女はなぜそれをいまやらないのか。彼女は3年半そこにいた」と断じた…

【 選挙後に『内戦』は起こるのか? 】

「大統領選、敗北なら認めぬ」共和支持者19%・民主12%
米調査 選挙後に混乱の恐れ
日本経済新聞  朝刊(2024/10/23)より
【ワシントン=赤木俊介】米公共宗教研究所(PRRI)が米ブルッキングス研究所などと実施した世論調査によると、共和党支持者の19%がトランプ前大統領が11月の大統領選で敗北した場合は「結果を拒否し(大統領に)就任すべきだ」と答えたことが分かった。選挙結果を巡って混乱が広がる恐れがある

 全米50州の18歳以上の米成人5000人以上を対象に
 2024年8月16日~9月4日に調査した

共和支持の19%トランプ氏敗北時に選挙結果を認めないと答えた。
民主党支持者の12%ハリス副大統領が敗北すれば結果を拒否するという。
 共和支持の79%、民主支持の87%は選挙結果を認めるべきだとした。
大多数は結果を受け入れるとみられるが、共和支持の62%が依然として
「20年の大統領選がトランプ氏から『盗まれた』」と回答するなど
選挙そのものへの不信を抱える層は多い。
 選挙結果を覆そうとする政治的暴力への懸念も強まっている。
共和支持の29%は「真の愛国者は国家を救うため政治的暴力に訴えること
もある」と答えた
。民主支持は8%にとどまった。

 ロイター通信の調査によると、米国では21年1月の米連邦議会議事堂の
襲撃事件以降、政治的な暴力行為が増加している。
 2件のトランプ氏暗殺未遂事件を含め、24年1~10月で50件ほどの
暴力事件が発生した。同期間として1970年代以来の多さという。
 PRRIは米成人が最も関心を持つ政策課題も調査した。
最重要課題は住居費や日常的な出費の高騰(62%)だった。
次点で民主主義の状態(53%)、移民(44%)だった。

移民問題は共和支持の71%が重要と回答したのに対し、民主支持は
24%にとどまった。
「不法移民が米国の血を汚している」というトランプ氏の発言に
賛同した米成人は34%で、共和支持は61%に上った。
民主支持(13%)を大きく上回った。
 PRRIのロバート・ジョーンズ会長は16日、声明で
「民主主義の規範を攻撃するトランプ氏の発言が共和党支持者に
 明確な影響を与えている」と分析した。
 20年の選挙ではトランプ氏が「選挙不正」を訴えたことにより
 21年1月の議事堂襲撃事件につながった。
 米ブレナン司法センターによると、24年5月時点で選挙当局者の38%が
 脅迫や嫌がらせを受けたと報告している。

これが現在私たちが生きている世界の現実なのだ
民主主義の大義はどこに行ってしまったのだろうか?
世界は形は違えども19世紀に逆戻りをし始めているのかもしれない





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